第191話
アサシンと呼ばれた女性はものすごい勢いで跳んできたためか、ラウラが作った風の壁を押し切ろうとぶつかり続ける。そのため空中に留まり続ける。風の壁は透明なため、傍から見たら手に千切れた手錠を付けた女性がただただ商人に向かって手を伸ばしている状況に見えた。
ラウラが作った風の壁は突破できないと思ったのか、アサシンは後ろに跳ぶ。着地して次こそは確実に商人を殺すために体勢を立て直そうとしたのだ。だが、そんなことをラウラは許さない。
空中に浮いているアサシンに向かってラウラは横から蹴りを入れて飛ばす。かなり力を入れて蹴ったためアサシンが入って来た時同様に壁は崩れる。咄嗟のことで蹴り飛ばす方向は考えていなかったため街中に向かって飛んで行ってしまう。尋問室が外と繋がり日の光が入ってくる。
「商人を保護。まだ何か知ってる。絶対吐かせて」
「りょ、了解しました!」
「それと人が着たら避難誘導して。あの子を捕まえてくる」
兵士が誰のことを言ってるのか分からなかったため聞き返すが、ラウラは自分が破壊した壁から飛び出してアサシンの元に向かって行ってしまう。
突然、詰所から破壊音が聞こえどうしたことかと思っていると、次には何かが壁を破壊して飛んできたため、近くにいた人達は混乱する。
そんな街中に下りたラウラは杖を取り出し、人々に目もくれず自分が飛ばしたアサシンの元に真っすぐ進む。
そしてアサシンを囲うようにして人だかりができていたため、囲っている人達を跳び越える。突然現れたことに人達は驚き声を上げる。だが、それでもラウラはアサシンに向けて歩を進める。
運よくクッションになるように木箱にぶつかることが出来たからか、強靭な肉体を持っていたからか分からないが、アサシンは気絶しておらず、何とか上半身を起こして震える手で回復薬を飲んでいるところだった。ラウラは気絶させる気で蹴ったため強者だろ思い警戒を強める。
しっかりと荷物を全部剥がしたはずなのに回復薬を飲んでいることにラウラは頭の片隅で疑問に持ったが、アサシンの後ろにある木箱を見ると回復薬が大量に入っていた。思い出すとここは回復薬や、解毒薬など冒険者が使うような物をよく売っている店の裏だった。
「下がって。危ない」
「はぁ?あんた何言ってんだ!?音がしたと思って来てみたら家の商品が壊れてるんだぞ!それで下がっては無いだろ!」
「そうだぞ!急に出てきて…。兵士じゃないんだろ?だったらなんで俺達があんたの言うことを聞くんだ」
他にも人々が何か言ってるが、ラウラはそのほとんどを無視してアサシンを睨む。アサシンは既に回復薬を飲み干し立ち上がっている途中だった。
「弁償ならするから下がって」
「あぁ?」
ガタイの良い店主は商品が壊されたことにまだ怒りが収まらないのか、ラウラの肩を掴もうとしたがその手は空を切る。ラウラがアサシンを杖で殴りかかったのだ。アサシンはその杖を左腕で受け止める。アサシンは痛みに耐えるような顔をしながら空いている残った右腕でラウラの顔を殴ろうとするが、ラウラがいち早く跳び退いたため、その拳は届かなかった。
「おい!何喧嘩始めてんだよ!」
頭に血が上った店主がラウラとアサシンの間に入ってこようとするのを、他の人達が止めるが、その静止を聞かずにズカズカ歩いてくる。するとアサシンがチラッとそちらを見て、ラウラでは無く店主の方に走り出す。ラウラが体勢を低くして店主を突き飛ばすと、次の瞬間アサシンは先程まで店主の頭があったところに跳びついていた。ラウラの真上を通るようにして跳んでいるアサシンは確実に店主の首が取れたと思い油断していたため、ラウラは下から先程と同じ威力で今度は杖を上に振りぬく。真上を通っていたアサシンは建物の壁に飛んで行き、壁を破壊して中に入る。
「お、おい!お前達!どんだけ俺の店を壊すんだ!」
ラウラが飛ばした先は奇しくも突き飛ばした店主の店だった。表に出さないように意識しながら内心溜息をしてから店主の方を見る。
「命があっただけ感謝して」
「ど、どうゆうことだよっ」
店主の言葉は恐怖を含んでいた。それもそのはずだ。自分の顔目掛けてアサシンが跳びかかってくるのを見ていたのだから。その時のアサシンは強烈な殺気を店主にぶつけており、腰が抜けて地べたに座り込んでいた。
そしてこれ以上恐怖を感じたくないため、先程殺されそうになったことを認めたくなかった店主はラウラに強気で問うしかなかった。
ラウラは店主の問いかけに答えずに空いた穴から店の中に入る。店主が何か言うがそんなのはお構いなしに入っていく。
少し進むと倒れているアサシンを見つけたため、警戒をしながら近づくと、アサシンは痛みで立てないだけで、意識はハッキリしていた。
「強い。あなた何者?」
ラウラが問いかけるが、アサシンはラウラの重い一撃のせいで話すことが出来ない。アサシンはラウラにバレないように周りを見るが、回復薬は遠くの所にあるため取ることが出来ない。魔法で反撃をしたいところだが手錠のせいで魔法を使うことが出来ない。まさに絶対絶命だった。
「よぉ。ボロボロだな、アサシン」
ラウラがアサシンに向けてゆっくりと近づくと、店の入り口が雑に開かれ中に1人、男が入ってくる。その男はゴールデンスライムを見つけた翌日に金塊を探して、街中で強い威圧を出していた男だった。
「ジャ、ジャンキー…」
ここまで無口だったアサシンが辛そうに喋ると、ジャンキーと呼ばれた男はとても嬉しそうな顔になる。
「おぉ…、おぉ…!お前をそこまで追いつめる相手か!戦いてぇなぁ!」
気持ち悪いほど笑顔になったその顔をアサシンからゆっくりラウラに向ける。そして視線に捉えると、今にも飛び出そうとして来る。
「あぁ、あいつの命令が無かったら戦ってたのになぁ~。お前のせいで戦えないじゃねぇかよぉぉぉおおお!!」
先程までの笑顔が突然怒り一色になり、殺気をアサシンに集中的に浴びせる。あまりにも強い殺気にアサシンは肩をピクリと動かす。
「…まぁお前は必要だからな。今回は我慢してやると」
「逃がすと思う?」
ラウラがアサシンが動けなくなったとみて、アサシンとジャンキーの間に割って入る。
「難しいかもな。でもよ、連れて来いって言われてんだわ。お前達ー、仕事ッ!!」
最後まで言い切る前にジャンキーは急いで後ろを振り向くと、目の前に蹴りが迫っているのを感じてしゃがんで避ける。そしてすぐに後ろに跳ぶ。
「最近の若者は良くないの。そう思わぬか、ラウラ?」
「早くて助かった、リア」
ジャンキーに後ろから蹴り倒そうとしたのは、帝都から援軍としてきたシャリアだった。そのシャリアの後ろでは既に数人が騎士によって包囲され、捕まっていた。
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