第192話


 前にはグリーヴだけ装備したラウラ、後ろには先程までと同じで杖を構えた状態のシャリア、もうジャンキーには逃げ道は無いと思われた。


 ラウラの足元には未だにアサシンが横たわっており、立とうとしているが力が入らず動けずにいた。

 シャリアの後ろにいる兵士達はジャンキーは連れて来た者達が騎士に捕縛されており、残るはジャンキーだけだった。


「やっべぇなぁ…。こりゃ逃げられるかどうか…」

「逃がすわけなかろう。諦めて捕まりなさいな。お前達は連行組と避難誘導組に分かれるんじゃ。店の中にいる2人は私とラウラで持って行く」


 シャリアはその場で軽くジャンプを繰り返して調子を確かめながら、後ろにいる騎士達に見ずに指示を出す。騎士達は言われた通りに早急に動き出す。


「さて、お主はどうする?まぁ聞かんでも分かるがの」

「あんたらみたいな強者と戦えんのは嬉しいが…、戦うのはまた今度だ。そいつを持って帰んないといけないんでな!」


 そう言ってジャンキーがアサシンを自分の方に引っ張る動作をすると、アサシンが浮いてジャンキーの方にゆっくりと飛んでいく。

 ラウラはすぐさまアサシンを地面に落とすために上から風を当てるが、アサシンは浮いたままで、風を受けて苦しそうにしてるだけだった。

 シャリアはジャンキーのことを蹴ると、ジャンキーは反撃することなく避けに専念する。専念するが全てを避けることが出来ず、数発食らいながらも逃げていた。

 ジャンキーがどんなに移動してもアサシンはジャンキーに向かって飛んで行く。シャリアはアサシンを取られないようにジャンキーに追いかけまわす。ラウラもアサシンに何やっても意味がないと分かり、魔法でシャリアの援護をする。

 シャリアとジャンキーが暴れ回り、ラウラが魔法を撃っているため店の中は商品などが全てひっくり返り使い物になっていなかった。


「逃げるのが上手いが、そろそろ限界かの?」

「ハッ!何言ってんだ!まだまだやれるっての!」


 強気にそうは言うが、体には拳や蹴りが掠ったため擦り傷がたくさんできており、腕と足は震えていた。

 その間もアサシンがジャンキーに向かって飛んで行ってるが、シャリアが追い回しているおかげでジャンキーの手にはわたっていなかった。

 逃げ回っていたジャンキーだが、ついに限界が着て地面に膝をつく。


「限界じゃの。ほれ、おとなしく捕まるんじゃ」


 シャリアは袋から取り出した手錠をかけるためにジャンキーに近づく。


「アサシン、わりぃな。俺は逃げるぞ」


 そう言うと、ジャンキーの姿が忽然といなくなる。すると、浮いていたアサシンが落下し始めたため、ラウラがキャッチする。

 すぐさま魔力感知を使うが、ジャンキーの物と思われる反応は感知出来なかった。


「逃げたの。あやつそれなりに強かったから面白かった」

「逃がしたのにそんなこと言ってる場合じゃない。どうするの」

「こやつに聞けばアジトの場所も分かるじゃろ。回収しようとしてってことはそれなりに高い地位におるのじゃからの」


 今度こそは逃げないように鎖ぐるぐる巻きにして、シャリアが担いで詰所まで持って行く。




 詰所に戻ってから、アサシンをぐるぐる巻きにしたまま一番頑丈な檻に収監すると、ラウラとシャリアは先程の商人の所に案内してもらう。

 いると言われた部屋に入ると先程の兵士と商人が居り、商人の顔は青ざめて震えていた。だが、ラウラの顔を見ると少しだけ震えが収まった。

 ラウラ達が来たためか、兵士は椅子から離れ、壁際に立つ。


「あ、あいつは殺したのか…?」

「殺してない。情報を吐かせる」


 ラウラが答えると商人は椅子から立ち上がり、顔を真っ赤にしながら叫ぶ。


「また殺しに来るだろ!殺せよ!」

「うるさいの。少しは静かにせんか」


 シャリアが商人に近づき小突くと、商人はおとなしく座り直した。

 ラウラは男と向かい側にある椅子に座り、ラウラはその後ろに立つ。


「さて、状況は聞いたから知っておる。知ってること全部話しなはれ」

「あいつはアサシンって呼ばれてる。本名は知らねぇ。あいつらの組織は幹部が4人。4人は互いにそれぞれの仕事に合うコードネームで呼び合ってんだ。アサシン、ガーディアン、コマンド、そして最後にジャンキー。ガーディアンはボスの護衛。コマンドは構成員に指示。他にも組織の維持とか作戦を考えてるって聞いた。そしてアサシンは敵の排除。表立って出来ない殺しの時に使われる。最後のジャンキーは何してるか知らねぇが、組織の中で一番やべぇって話だ、ボス以上にな」

「その組織はエビドじゃな。ボスの特徴は知っておるか?」

「ボスは金髪で赤い目をしてる。それ以外には両腕に入れ墨、それくらいだ。わりぃが、構成員がどのくらいとかは知らねぇからな。俺が知ってるのはさっき話したことだけだ」

「さっき言ってた『あの女』って誰」


 後ろで控えてたラウラがそう言うと、商人は諦めた顔をしながら淡々と話し出す。


「昔売った女だ。確か渋いじぃさんが買ってったな。さっき言ったボスと同じ特徴でな。絶世の美女で今までで一番高く売れたから覚えてる。ボスはそいつの息子だろ。だから俺を殺そうとしたんだろうな」

「下衆」


 シャリアもラウラもそれ以上聞きたいことが無かったため部屋から出る。




「さっき言ったボスの特徴。あの男と同じじゃ」


 詰所の中を歩きながらシャリアがラウラに話しかける。


「50年前につぶしたエビドのボスも金髪で真っ赤な目をしとった。孫が再興させようとしておるんじゃの。困ったもんじゃ」

「ねぇラウラ。もしかして…」

「言いたいことは分かっとる。でも、まずそやつを捕まえんと。今から行くとするぞ」


 シャリアは連れて来た騎士達がいるところに速足で向かう。ラウラは自分の言いたいことが理解されてると分かり、黙ってついて行った。

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