第221話


 先程起こした砂煙で兵士達を巻くことが出来たのを確認した2人は、先程よりもゆっくりとした速度で屋根伝いに目的の場所に向かっている。ゆっくりと言っても走っているために速かったが、2人にとってはゆっくりに入る部類だった。


「こっちであってるの?」

「あってるよ。何回も言ったことあるから間違えないって」


 余裕が出来た2人は軽口を吐きながら、旧フラージュとミカの家に向かう。


 魔力感知で2人が先に家に入っていることは分かっていたため、カイとラウラは心配すること無く入っていく。

 入ってすぐに見た光景は壊された家具たちだった。木製の棚と机、コップや食器が粉々に砕かれ、壊せなかったのか鉄製のフライパンなどは床に捨てられていた。


「2人ともやっっっと来た。お母さーん」

「分かってるよー。ほら、これに座って」


 まだ奥に壊れていない椅子があったのか、人数分の椅子をフラージュが持ってくると、全員その椅子に座る。


「これって…」

「カイ君と仲良くしてたミカを追ってかな。でも壊されてから結構経ってるみたい。ほこりが溜まってるから」


 フラージュに言われカイは先程よりも注視して周りを見てみると、所々にほこりがあり、しばらくの間誰も来てないことが分かった。


「よし、これからどうするか再確認するよ。まず、反国家団体が協力してくれるとは限らないから、戦力には換算しないからね」


 再確認を取ってからフラージュはこの後の作戦のことを話す。その作戦とは王国の研究所をつぶすことだった。作戦内容は先程と似たような物で、研究所内でカイとラウラが騒ぎを起こした隙に隠密に長けたフラージュとそれをサポートする形でミカが中の構造を調べ、魔法で物理的に壊すと言う物だった。中の状態がほとんど分かっていないためこんな大雑把な作戦になってしまったが、カイはこの方がやりやすいのではないかと思っていた。


「カイ君達にかなり負担が行っちゃうけど大丈夫」

「問題ない」

「そうですよ。それに潜入したらたぶんウォッシュが出てきますから。そちらに行った場合は気を付けてくださいね」

「私も戦いたかったなー」

「私だけで中を確認するのは無理なんだから我慢してよー。それにたぶん、だけど戦うことになるよ」

「それって勘?」

「そっ!今日は何か当たる気がする」


 作戦を確認しながら休憩をしていた4人は立ち上がり、ラクダレスから教えてもらった研究所まで急ぐ。




 研究所はラクダレスの言っていた通り、周りに警備は配置されておらずいつでも入れそうな物だった。


「入口はやっぱりあそこだけみたい。ここまでなにもないと何かあるね…」

「俺とラウラは入ったら地面に穴をあけて下に下ります」


 カイ達が先に騒ぎを起こす必要があったためカイとラウラが中に入る。中はとても静かで足音1つしなかった。だが、中に入って気づいたが、下の階にカイと同じくらいの魔力量を持った物がたくさんあった。


「これは…。動いてるからたぶん生き物だけど、こんなにたくさん」

「喋ってないで、やる」


 ラウラは魔法で少し先の地面に穴をあける。もちろん大きな音が響く。魔力の反応は音につられたのか、どんどん上に上がってくる。


「カイよりも多いのが3つ?ひと際大きいのは来ないみたいだけど、残り2つはとってもゆっくりだから絶対じゃないけど、こっちに来てる」

「それは俺がやる。ラウラは他をお願い。その2つが来る前に全滅させれたらいいんだけどね」


 そんな話しをしていると、2人の前に魔力反応の正体が走ってやってくる。それは足がモンスターの物になりそれ以外が人間と言う物だったり、背中からちっちゃな羽を生やしていたり、頭以外がモンスターと言った物があった。そのモンスターだが、オークやゴブリンなどの今までカイが戦ったことのある物はもちろんのこと、知らない物まで混じっていた。

 そんな物たちをラウラは容赦なく頭を撃ちぬいて行く。


「…助けられそうにない?」

「たぶん無理。自我も無さそうだし。それよりかなり来てる。油断しないで」

「分かったよっ!」


 その異様な姿にカイは驚いたが、すぐさま腕に氷を纏わせて戦闘体勢に入る。


 2人が何体倒したか分からないが、地面にはたくさんの亡骸が横たわっている。ラウラは自慢の魔法を使い、後ろいる物達も巻き添えにして倒したり、接近してきたのを杖で殴り飛ばしていく。カイは纏った氷がかなり鋭利な物と言うことで、首を掻っ切っていく。血しぶきが大量にかかり、つけている仮面とローブがドンドン赤色に変わっていく。それでもカイはどんどん倒していく。

 モンスターと融合させられた人達は仲間だったはずの物の亡骸を踏みつぶしてでもカイ達に接近を繰り返す。

 そんな彼らだが、魔力はあると言うのに、元のモンスターよりも知能が無いためか魔法は使わず、接近戦しかしてこない。そのため元のモンスターよりも簡単に倒すことが出来ていた。


「魔法は使わないみたい」

「分かってる。でも油断しない方が、ってほら」


 魔法が飛んでこないことに違和感を感じ話していると、奥から炎が飛んできたためカイとラウラは同時に後退する。炎の着弾点には融合された人達がおり、その人達はどんどん燃えて行く。


「う。うぉ。ぅお。うおうお」


 気持ちの悪ワケの分からないうめき声が聞こえたと思うと、また炎が飛んできたためカイが冷静に青い炎をぶつけて消す。


「っ!?あの人も被害者になってたんだ」

「知ってるの?」

「あれは通ってた学園の学園長」


 それはカイが通っていた時の総合第一学園の学園長で、頭は人間の物だが、体がラプチャーキャメルになっていた。その学園長だが、虚ろな目をしており焦点があっていない。その上、口をずっと開け口から涎を延々に出していた。

 そしてそんな学園長の後ろからまた融合した人達が出てくる。


「…ホント、性格悪いでしょ。人間をこんなにするなんて」

「知ってる人?」

「ちらほらと見たことあるのが。本当に性根が腐ってる」


 その後ろにいたのは、死んだビューンやドッペルト、バーシィの取り巻き達だった。その全員がどこかしらモンスターと融合して、虚ろな目で焦点が合ってなかった。

 カイは心底嫌そうな顔でラウラに答えると、出て来た人達に魔法を当てて絶命させていく。


「早く終わらせる」

「ん」


 カイとラウラは心を鬼にしてどんどん融合された人達を倒していく。

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