第64話


 カイの発言に対してレイはしばらく固まっていた。

 カイは急かすようなことがはせず、レイが動くのを待った。


「...カイが言いたいことは分かった」


 レイがしゃべり始めたため、カイは真剣な顔でレイを見る。


「カイが言いたいことは分かったが、私はここを離れるわけにはいかない」


 レイが出した答えは「来ない」だった。考えるそぶりを見せることもなくカイに言った。


「...どうして?」


 こうゆう答えが返ってくるかもしれないと予想はしていたが、予想するのと実際に聞くのではショックの度合いは段違いだった。今すぐにでも問い詰めたいが、レイにも考えがあるためカイはそれを聞くことにした。


「貴族は自分が治める領をより豊かにし、領民たちが安心して過ごせる様にする責任があると考えている。ここはクノス家が治めているわけではないがクノス家にもやることがある。私は自分の信念を貫き通さなければならない。だからここを去ることは出来ない」


 レイの考えと信念を聞きカイは思い出す。


「貴族には責任がある。俺たちはその責任から逃げることは許されない。...って言ってもカイにはまだ分からないか!」

「そんなこと無いよ!!」

「そうだな、でももう少し大きくなったら俺が思う貴族の姿を教えてやるよ」

「今すぐ教えてくれても良いじゃん」

「もう少し大きくなったらな」


 この時はレイが何を言っているか理解できなかったカイだが、数年経った今、レイが語っていた責任と言う物を理解する。

 そして、レイと昔から一緒にいるカイは知っている。レイは責任感が強く、頑固だということを。


「...兄上は昔から変わらないね」

「私は私だ。いつまでも変わることは無い」

(1回言ったことは絶対に曲げないからな。レイ兄上はいつも真っすぐだ。これは何を言っても折れないなぁ)


 断られたとき、心には悲しさしか残らないとカイは思っていたが、心は嬉しさで満たされていた。




 レイの答えと考えが聞けたため、カイはラウラの家に戻ろうする。


「俺はもう行くよ」

「そうか。カイ、お前はお前だ。お前がしたいことをしろ」

「うん。俺から会いに来たんだから今度は兄上から会いに来てね」

「分かった。楽しみにしとけ」


 カイはラウラの家に向かって歩を進め、森に紛れるようにしていなくなる。


「お前がどこに行こうとも俺はお前の兄だ」


 レイはカイの後ろ姿に向かって言い、屋敷に戻り始めた。




 カイが森の中をゆっくり歩きながら戻っていたら、時刻は夕方になっていた。


(1日にしては濃い体験をしたなぁ)


 そう思い扉を開けると、椅子に座って本を読んでいるラウラがいた。


「おかえり、どうなった?」


 カイはローブを脱ぎながら返答する。


「ダメだった。兄上は残るって」

「そっか...。それにしては嬉しそう」

「兄上は兄上だったんだよ」

「?」


 ローグを椅子の背もたれにかけ座る。


「1日にしては濃い体験をしてきた」

「ん」


 カイがそういうと、ラウラは読んでいた本を閉じカイの方を向く。


「兄上に会うには家に行かないとと思って・・・」


 そしてカイは今日あったことを話す。


「~って感じ」

「ん。カイのお兄さんは良い人。そんな貴族が増えればいい国になる」

「そうだよね...。貴族は平民のことを道具としか見てない。平民も貴族には逆らえないと決めつけてる」

「...それは仕方ない。あの時平民は負けたから...」


 ラウラは昔を思い出し、悔しそうに言う。


「カイ、少し話しがある」

「分かった」

「平民が貴族に逆らえないっていう考えになったのは、昔・・・」


 そしてラウラは、昔あった貴族と平民を率いて戦ったある集団の争いで平民側が負けたことをカイに話す。


「争いに勝った貴族側はその争いに参加してた人の家族も見せしめとして殺した」

「そんな争いがあったんだ。そんなんじゃ誰も逆らおうと思わないわけだ...」

「国中の人は『一部の平民が反旗を翻して、王国側はその人達を処刑した』と思ってる。でも、実際は率いてる集団があった」

「え、知らないの?」

「知らない。王国は率いてた集団も平民だと考えていたから」

「...なんでラウラは知ってるの?」


 ラウラはカイの質問に答えず少しの間口を紡いだが話し始めた。


「その集団には名前なんてなかった。ただ、貴族の態度に気に入らない人たちで集まっただけ。人数は10人」


 そこまで詳しく知ってるラウラに対してカイは不思議に思う。


「でも、その10人は平民じゃない。冒険者だった。...私と親友達、3人でその集団にいた」


 驚きの真実にカイは驚いた。


「待って!?その争いの平民側って殺されったって」

「そう、ただ生き残りは居る。2人だけ」

「2人...」

「私とこの前話した帝国にいる人。あと1人は...」

「そっか...」


 どう反応したらいいか分からないカイはそういうと黙る。だが、ラウラの話しは終わっていないため、かまわず話す。


「前にカイには氷の魔力に適性を持ってる人を探してるって言ったけど、実は違う」

「え!?」

「でも、氷の魔力がカイの共鳴したのは本当。私はここで静かに暮らしてるだけだった」


「その氷の魔力は親友が死ぬ間際に託してくれた力。でも、今となってはカイに渡して正解だった」

「正解?」

「カイと氷の魔力が共鳴した理由がやっとわかった。カイよく聞いて」


 ラウラが真剣な顔になったため、カイも真剣な表情になる。


「その氷の魔力を持っていた人の名前は『フィール』。私たち2人はどこに逃げるか決めてなかった。それに、フィールのことを自分達の手で埋葬したかった。だから、あの子がお気に入りだって言ってた場所に向かうことにした。それがこの森。そしてここに埋葬した。私は身を隠すのに最適だと思ってここに家を建てて残った」

「共鳴したのには関係なくない?」

「カイ、ここはクノスの屋敷から簡単に来れるでしょ?」

「な、なんでラウラが知ってるの?」


 クノスの屋敷からここまでは歩いて数分とかなり近い距離にあるが、ラウラに屋敷のことは今まで話したことが無い。


「フィールは貴族だった。でも、冒険者になりたいから家から出たって言ってた。貴族だったら家名つく」


「フィールの家名はクノス、『フィール=クノス』。それがフィールが貴族だった時の名前」

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