第151話
元に戻したのを見た白ローブは落ちている狼の死骸に近づく。
「これは『スピードウルフ』。特徴はとてもすばしっこいことと集団で動くこと。普段は5体以上の集団で動いてるんだけど、今回は運が良かったね。新人の騎士でも5体同時にするのは手こずるくらいの力は持ってるよ」
白ローブは袋を取り出し、首に刺さっているナイフを抜いてからしまっていく。その間にミーチェはカイ達に近づく。
「どうだったすか?これでお姉さんの貫禄を保てた?」
「ミーチェさんは緑属性なんですか?それにしてもかなり動かせてたと思いますけど…」
「私が持ってる魔力は緑で合ってる。それとあれだけ自由に動かせたのは木に理由があるの。あの木はそこまで硬くないんだけど、とても曲がりやすんすよ。だから操るのも楽なんだ」
「木によって操作しやすさがあるんですね」
「結構違うんだよ。あと緑の人って基本どんな植物でも動かせるから、何かしら植物の種を持ち歩いてる人が多いよ。それも好みによってかなり変わってくるんすよ」
「ミーチェさんも持ってるんですか?」
「この子も持ち歩いてるよ。ただ、かなり珍しい物だから緊急時以外使わないんだよ。それと、魔力で無理やり成長させてるから植物へのダメージがすごいんだよ」
スピードウルフの回収が終わった白ローブが戻って来て代わりに答える。ミーチェはその後の言葉も任せることにしたのか黙る。
「この子とアルドレッド君は自然を大事にしたいから基本的に自分の魔力で生み出したツタを使うんだと思うよ。まぁそう思ってる人は少ないけどね」
白ローブがそう言うとミーチェは一瞬悔しそうな、悲しそうな顔になる。それにカイは気づいたが何も言わなかった。
「まぁこれは置いておいて、そろそろ行こうか。血の臭いで森から来るかもしれないからね」
また街に向かい始めた所で白ローブが目的地のことを言う。
「王国は王都に冒険者が集中してたけど、帝国は今から行く街の方が帝都よりも冒険者が多いんだ。腕に覚えのある冒険者の約7割はその街に行くって言われてるくらいだよ」
「『冒険者の街』なんていう人もいるし、一部の冒険者には『楽園』なんていわれてたりするんすよ。私も前に行ったことあるけど、活気は帝都に負けてなかったね」
「ミーチェ、さっきから口調がバラバラになってるよ。楽な方で話しな。私達しかいないんだから。それと街の説明お願い。私より詳しいでしょ」
「そうっすね。その街の名前は『アベルト』って言って、まさに冒険者のために作られた街っす。街のすぐ近くに3つ、少し離れた所に6つのダンジョンがあるんす」
そのダンジョンの数に驚くカイとミカ、それを見てミーチェは笑顔で続きを話す。
「ダンジョンについては私よりも冒険者ギルドの方が断然詳しいんで飛ばすっす。まず、その街は帝国の中で一番の大きさを誇るっす。ゆうて帝都とそこまで変わらないっす。ただ防衛の面は王都よりもすごいかもしれないっすね。比較したことは無いんで分からないっすけど」
長く話していたため喉が渇いたミーチェは水を一口飲む。
「中には普通に生活してる人もいるっすよ。生活必需品とかも充実してるっすけど、とにかく武器屋と居酒屋が多いって聞いたっすよ。なんで夜に外にいると冒険者にダル絡みされるそうっす。今からだったら1泊することになるんで、2人とも気を付けるっすよ」
酔っぱらった冒険者に絡まれるなんて面倒しかないため、カイもミカもすぐに頷いた。
モンスターはしっかり倒されているおかげか、アベルトに着く前戦うことなくつくことが出来た。途中で休憩を入れながら移動したためか、付いたころには空が夕焼けになっており、あと少しで暗くなるところだった。そのため門が閉まるまで残り僅かだった。
「最後ですね。って、ミーチェさんじゃないですか。どうしたんですか?」
「お久しぶりです。帝都に1度戻ろうと思ったんですよ。知り合いと一緒に」
ミーチェが視線を白ローブたちに向けると、兵士もつられてみる。
「そうですか。ですが、ミーチェさんの知り合いでも検査させてもらいますよ」
「分かってるって。ほら」
ミーチェが冒険者カード同じ大きさの何か見せると、奥に通して貰っていた。
「すみません。ミーチェさんの知り合いでも検査しないといけないですから。何か身分を証明できる物を持ってますか?」
カイとミカは同時に冒険者カードを兵士に出す。兵士は偽装されていないか確認する。確認できたためカイ達にカードを返すと奥に通す。
「じゃあ、私達は先に出ることにしようか。先輩、先行ってますね」
「うん。手間かけてごめんね」
ミーチェに連れられてカイ達は中に入っていく。そんな中でカイは白ローブを見ると、白ローブもミーチェと同じ物を兵士に見せていた。それを見た兵士は慌てていて、続きが気になったカイだが、ミーチェに引っ張られていたため見ることは出来なかった。
アベルトの街に入った2人にミーチェから手を離してもらい街中を見渡す。
「どうっすか?すごいっすよね」
入ってすぐだというのに、視線の先にはたくさんの人が居り、冒険者も多く見えている。そして、夜だということもあり、酒屋で飲んでいる声もたくさんする。
「明日に少しだけ見て回るっすよ。今は宿を見つけないと」
すぐに検査が終わった白ローブも合流し、宿を探すために人混みの中に入っていく。
「お!ねぇちゃん、俺たちと飲まねぇかー?おごるぜー」
「ごめんねー。また今度」
「くぅー。振られちまったぜ。ねぇちゃんまた今度なー」
「振られたな」
「うるせぇよ。くそぉ、もっと飲むぞ!」
人混みの中にいると時折冒険者に話しかけられるが、ミーチェは軽く受け流していく。そのあとの冒険者たちの様子をカイとミカはいつも見ない光景に珍しいと思いながら横を通っていく。
だが、運悪くしつこい冒険者がいた。
「そうなん事言わないでさー。飲もーよー。うえめぇよ?」
「いやー、私達宿探してて飲んでる暇ないんですよ」
「やどぉ~。なら俺たちは止まってる所でいいじゃん」
「俺たち宿じゃなくて家だろ」
「それもそうだ」
下品に笑う冒険者達にミーチェが不機嫌になりながら通り過ぎようとする。カイ達もついていこうとするが、ミカの腕が冒険者に捕まれてしまう。
「なぁーいいだろー」
「その手、離してください」
これまで黙っていたカイが、ミカの手を掴んでいる冒険者の腕を同じ様に掴む。
「あぁ?何だよ。男には興味ねぇんだよ!」
「俺たちは急いで宿を探さないといけないんです。離してください」
「うっせぇな!」
空いている手でカイのことを殴ろうとするが、その前に冒険者が地面に倒れるように座り込む。怒った隙に手を振りほどいたミカが冒険者に足払いをしたのだ。
「しつこいですよ。やめてください」
「て、てめぇ!やりやがったな!」
立ち上がり今度はミカに殴りかかろうとしたが、今度は白ローブが男を店の外まで蹴り飛ばした。
「はぁ、3人とも行くよ。マスター、これ修理代」
白ローブはいつの間にか用意していた普通の袋に金を入れた物を店主に投げ渡すと3人をつれて店の外に出る。
「先輩やりすぎっすよ。あれ絶対にしばらく冒険者として活動できないレベルですよ」
「いいの。少しは頭を冷やすべきだよ」
そんな話をしていたら空いている宿を見つけたため、カイ1人で止まる部屋と、3人で止まる部屋を借りることが出来た。
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