第152話


 翌朝、宿の前に集まった4人はミーチェが言っていたようにアベルトの街を見ることになった。


「アベルトと言ったらやっぱり武器だから、まずは武器屋に行ってみるすか」

「そうだね。カイ君が使ってる剣もそろそろ寿命だろうし」


 話題になった剣をミカに出してもらうと、1ヵ所だが確かに刃こぼれが出来ていた。時間を見つけては手入れをしてはいたのだが、なけなしの金で買った物だったため限界が来ていた。


「もう1本あるけど。これって…」


 ミカは入っていたもう1本の剣を取り出す。それは最初にダンジョンを探索した時に、ミカをかばったために折れた剣だった。


「ちょっと見せて。…これ結構な業物だと思うよ。私が使ってる槍と同等か、それ以上か」


 ミカから奪うようにして取った剣を白ローブは食い入るように見て言う。白ローブの言葉に興味が出たミーチェも剣を見る。


「それ、師匠がくれた袋の中に入ってたんです。餞別にくれたんです。それを壊しちゃったんで申し訳ないんですけど…。武器屋に持ってったら直せないの一点張りで。それで泣く泣く袋に入れて保管してたんです」

「もったいないね。ねぇ直せると思う?」

「うーん。本職じゃないんで分からないっすけど、さすがにきついと思うっす。ここじゃ直せる人いないんじゃないすか」

「親父さんならいけるかな?娘からの頼みだったら聞いてくれると思うけど」

「さすがの父さんでもこれは…。それに私が言ってどうにかしてくれる人じゃないっすよ。先輩も分かってるでしょ」


 2人の会話について行けないカイとミカは頭にハテナマークを浮かべる。それを見た白ローブは理由を話し始める。


「この子の父親はね、帝都で鍛冶屋やってるんだよ。それも腕は超1流。近衛騎士団御用達の鍛冶師なんだ」

「そこまで誇張しないでくださいよ。恥ずかしいっす」

「嘘じゃないから良いじゃん。実際に私が使ってる槍は親父さんにオーダーメイドで作って貰った物なんだよ。それとミーチェが使ってた投げナイフ。それも親父さんが作った物だと思うよ。ね?」

「そうっすね。父さんに頼んで補充してもらってるっす」


 そう言うとミーチェは腰にぶら下げているポーチを取り、中を見せる。その中に入っているナイフは全て綺麗に手入れされていた。


「まぁ見せてみるのもありだと思うっすよ。それで直せないって言われたら帝国には直せる鍛冶師はいないと思うっす」

「さっそく帝都に行こうか。馬車で行った方が早いから乗り場に行くとして、それまでの道で気になるお店が入るってことにしよう」


 カイもミカも異論がなかったため頷くと4人はさっそく移動し始めた。




「こっちのはどう思う?」

「刃の部分は切れ味もあって良いと思うけど、柄がね…。滑りそう。突きしたら皮がめくれて痛そうだよ」


 馬車の乗り場に向かっている中で、アベルトの中で1番有名だと言われている武器屋の前を通ったから入ったのだが、途中からミカと白ローブが槍の前から動かなくなり、2人で槍の評価を言い合っているのだ。

 その後ろでいつ終わるかを待っているのだが、いつまでも終わらなそうだったためカイも剣とナイフを見に行く。


「剣はあれで良いんじゃないすか?」


 剣を見ていたカイに後ろからミーチェが話しかける。


「一応見ておいた方が良いと思ったんです」

「そうっすね。でも、正直あの剣よりいいのは無いっすよ」


 ミーチェはカイの耳元に近づき小声で話しかける。すると、カイは懐に仕舞っていたナイフを取り出してミーチェに見せる。


「なら、これよりも良いナイフはありますか?解体用にも、緊急時に戦える物で」

「そうっすね…。これなんて良いと思うっす。握りも同じような形で使いやすいと思うっす」


 ミーチェが手に取ったナイフはカイが使っているナイフと似たような物だったが、切れ味が違うように見えた。


「じゃあ、それで試し切りできないか聞いてきます」


 カイとミーチェは店主に許可を貰い裏で試し切りをすることになった。

 まず初めにカイは自前のナイフで切ってみる。すると藁の表面が切れる。カイはいつも通りだと感じながらミーチェが持っているナイフを受け取り同じ様に切ってみる。すると全く抵抗を感じることが無く藁を切ることが出来た。その様子にカイは仮面の下で目を開いて驚く。


「…こんなに違うんですね。驚きました」

「私もここまでだとは思わなかったっす。すごいっすね。切れ味抜群」


 カイもミーチェも驚きながらそのナイフを購入した。




 購入し終えた2人は、まだ槍に見ている2人をなんとか引き剥がし店から出て、馬車乗り場まで歩く。


「まだ見てたかったのに…」

「掘り出し物があったかもしれないのに…」


 店を出てからミカと白ローブはいじけ続けているが、カイもミーチェも無視して進んでいく。


 そうしていると乗り場が見えてきた。


「おいおい、ねぇちゃん達昨日はやってくれたなぁ」


 乗り場までの道を塞ぐようにして男たちが立つ。その中でも1番前に立っている男に4人は特に印象に残っていた。昨日白ローブが店先まで蹴飛ばした男だったのだ。


「これ見ろよぉ、1月は稼げねぇよ。どうしてくれんだぁ?あぁ?」


 男が見せたのは包帯でグルグル巻きにされている片腕と片足だった。

 ミーチェはわかりやすく大きなため息をつく。


「あぁ?なんだよ。何か言ってみろや!」

「そっちから殴ろうとしてきたんだから正当防衛でしょ。過剰防衛って言っても良いよ?あなたが弱いのがいけないから」


 そう言われた男は顔を真っ赤にしだす。


「いてぇ思いしねぇとわかんねぇか。オメェらやれぇ!」


 男は合図を出すと、後ろに下がる。男の代わりに後ろに控えていた4人の冒険者が前に出る。


「弱いやつが仲間にいて貴方達も大変だね」

「あぁ?俺たちの仲間を侮辱してんのか?殺すぞ」


 武器を見せれば怯えると思ったのか、返答した男が剣を抜くと、周りの冒険者も剣を抜く。

 だが、カイ達がその程度でビビるわけがない。

 思っていた反応じゃなかったためか、冒険者達はすぐにカイ達に襲いかかるために走ってくる。

 全員が迎撃しようとしたところで、いち早く雷を出したミカが全員に向かって雷を同時に飛ばす。

 4発中3発は冒険者達に当たり、3人ともその場で膝をつく。残りの1人はさっき返答していた男で、ミカの雷を紙一重で避けていた。

 それでも突然飛んできた雷を、咄嗟に避けたため、体勢を崩して走るのをやめてしまう。

 男は前から走ってくる音がしたため、急いで顔を上げると、すでに目の前にカイ居り、蹴りを入れようとしてるところだった。

 抵抗することなく蹴られた冒険者はあまりにも強い衝撃に気絶して倒れてしまう。


「なつ!?おい、お前らなに一瞬でやられてんだよ!」

「そ、そうは言うがよぉ、こいつらめちゃくちゃつぇぞ」


 カイは膝をついている冒険者達を無視して怪我をしている冒険者のところまで行く。


「な、なんだよ。こんな体の奴とやろぉてか!」

「貴方がやるならやりますよ?ただ面倒なんで引いてくれると嬉しいと思って」

「う、うるせぇ。引くだぁ?そんなんあり得るか!」


 男はボロボロの体でカイに殴りかかるが、拳はとても遅く簡単に避けることができる。


「俺たちの後ろにはなぁ、お前らですら敵わなぇ奴らがいるんだよ!」


 男がそう言うと同時にカイは先程の男の時と同じように蹴る。

 すると同じように男は地面に寝転がる。


「兵士呼んできた方が良いですか?」

「大丈夫だよ。もうじき来るよ」

「にしても私たちやることなかったすね」

「それだけカイ君とミカが強いことだよ」


 その後、4人は兵士たちに軽く事情聴取された。

 ミーチェが居たことと、周りに人がたくさんいたことが幸いしすぐに解放された4人は、すぐさま帝都行きの馬車に乗り込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る