第150話


 カイとミカの元に白ローブが戻ってくる。戻って来た白ローブは2人の空気が気まずい物になっていることに気づいたが、あえて聞かずにそっとすることにした。


「せんぱーい、今まで使ってなかった休暇全部使うってことで話がつきましたー。ってどうしたんですか」


 そこに空気を読まずに登場したミーチェに対して白ローブはため息をしながらも内心助かったと思っていた。


「2人とも何暗くなってるの!ほら行くよ。帝国は基本楽しい所だから安心していいよ!」

「ちょっと置いてかないでよ!」


 暗くなっている2人の手を引いてミーチェが門をくぐろうとする。急に引っ張られたため驚いているが、すぐさま気分転換させそのまま歩いて行く。置いて行かれそうになった白ローブは2人と同じ様に驚きながら急いで後をついて行く。




 門の中を歩いていると兵士が2人いた。その兵士達は椅子に座っていたが、ミーチェのことを見た瞬間に立ち上がり敬礼をする。


「お疲れ様です、隊長!」

「お疲れ様です」


 片方の兵士は若く、緊張しているのかガチガチに固まった状態で立ち続けている。一方、もう1人は慣れた感じで座り直した。


「硬くならない、硬くならない。私には緊急の時以外敬礼しなくて良いから。ね?」

「で、ですが養成所では…」

「養成所は養成所でしょ?ここはここだよ。もっと力抜いて」

「団長がこう言ってることですし、楽にしてください。いざとゆうときに疲れて何もできなくなってしまいますよ。ところで隊長。王国から来ていた集団の方々とは知り合いですか?」


 兵士がそう言うと、バルシュと言われた兵士もカイ達のことを見る。


「そう。だから通して問題無いよ」

「分かりました。今門を…」

「ま、待ってください!」


 先程から立ったままの兵士が2人の会話を妨げる。どうして止めたのか分かりつつも2人とも顔を向ける。


「この門を通る人達は必ず検査することになっています。規則をないがしろにしては…」

「えーと、兵士君。これがあってもダメかな」


 白ローブはローブの中に手を突っ込み、漁ると1つの紙を出す。若手兵士は紙を受け取り読んでいく。


「ねぇ、写しを渡されてるはずだよね」

「も、持ってますよ?ただ存在を忘れてただけで」


 ミーチェの言葉を聞き白ローブは今日何度目か分からないため息をつく。

 読み終えた兵士は紙を返す前に白ローブに敬礼する。


「先程は失礼しました!問題ありませんので通ってください!」

「お仕事お疲れ様。渡すの遅れてごめんね。この子には強く言っとくから」


 白ローブは言い切ると、ミーチェの背中を叩く。叩かれたミーチェは乾いた笑いを出しながら頬がひきつる。それを見ていたカイ達と兵士達もミーチェと同じような顔をするしかなかった。


「じゃ、じゃあ行こっか。2人ともしっかり前を見ててね。たぶん驚くよ」

「隊長も行かれるんですね。お気をつけて。門を開けろ!」


 座っていた兵士が立ちあがりそう言うと、門が音を立てて左右に開き始めた。


 完璧に開いた所で4人は前に歩き出す。


 先程まで暗い所にいたのに急に明るい所に出たため、カイとミカは眩しそうにする。

 目が慣れたため前を見るとそこは辺り一面緑で、綺麗な平原が広がっていた。

 2人が景色に驚いていると、前にいた白ローブとミーチェが振り返る。


「ようこそ帝国に。私達は2人のことを歓迎するよ」

「そう言いますけど、先輩10年ぶりぐらいでしょ?」


 歳のことを言うと、仮面で見えないはずなのに白ローブが睨んできたように感じたためミーチェは逃げるようにカイとミカに話しかける。


「やっぱりこの景色を初めて見ると驚くよねー。どう2人とも?」

「とっても綺麗です」

「さっきまで地面がむき出しだったのに。驚きました」

「景色に浸ってるのも良いけど、行こうか!」


 ミーチェを先頭にして帝都に向かって行く。




 途中森の横に出来た街道を通っていると、白ローブが口を開いた。


「そう言えば、馬車は借りれなかったの?どうなんですか隊長?」

「急だったんで無理です。事前に連絡とかあれば用意してましたけど」

「「逃亡します」って言って逃げてくる方が珍しいでしょ」

「それもそうですね」


 カイとミカも会話しながらそんな話を聞いていると、森の方から、魔力がこちらに向かってくる。

 3人が立ち止まるとミーチェも立ち止まる。すると木を折る音が近づいてくる。


「いくつですか?」

「3つ。そうだ、任せていい。腕の見せ所じゃん」

「人使い荒いですよー。2人とも見てて!2人のために頑張るから!」


 手をこちらに向かって振りながら森に近づくミーチェに対してカイとミカは困惑する。自分達も行った方が良いと思い追いかけようとすると、白ローブが槍で止めてくる。


「見てな。あれが近衛騎士団員の力だよ。みんな簡単にやってのけるから」


 白ローブにそう言わしめるほどの実力を持っているのだと知り、2人はミーチェのことを食い入るように見る。


 ミーチェはゆったりとした足取りで森の近づくと入る前で止まる。そんな中でも森から破壊音が近づいてくるが、ミーチェは落ち着いたままだった。

 ミーチェはゆっくりと木に触れる。そして木に魔力を流していく。トレントの時と同じ様に木の枝が動き、森の中に伸びて行く。

 数秒後、破壊音が止む。カイとミカが魔力を感知すると、近づいて来ていた3つの反応がミーチェから伸びている魔力に捕まっていた。

 2人が驚いていると、3つの反応が突然街道に近づいてきて森の中から出てくる。3つの反応は狼だった。狼は木の枝につかまっており動けなくなっていた。

 見た目はレッドウルフと一緒だったが、色が赤ではなく灰色だった。


「一瞬だよ。しっかり見てて」


 白ローブがそう言うと、狼の首に何かが刺さる。気道をしっかりとつぶしているのか鳴き声は出ない。


「先輩、そう言えば最初はどこに行くんですか?」

「2人とも冒険者になりたいって言ってたから、あそこを寄って行こうかな」


 ミーチェが木にもう一度木に魔力を流すと、狼は拘束が外れて地面に落ち、拘束していた木の枝はミーチェが触れる前の姿に戻った。

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