第209話


 魔力感知を使い敵がいないのを確認した後に、シャリアは騎士達を使い魔人の遺体を回収する。魔人の遺体を担架に乗せようと退かすと丁度魔人の寝ていた場所に穴が出来ていた。その穴は剣が突き刺さっていたような形になっていたため、騎士がその穴を調べるために触ると、その穴はさらに広がる。最初は驚いていた騎士達だったがすぐに冷静になり調査していくと、地面の下に人が1人通れるくらいの横穴が作られていた。騎士達はシャリアにその穴のことを報告すると早急に調べるように指示されていた。


「あの穴…魔力は感じなかったの」

「魔人、予想よりも厄介かも」

「これから対策を考えんといかんの。そもそも潜入して居るかもしれんから、それをあぶり出さんとな…。それより先にこっちじゃの」


 そんな会話を2人はしていたが、カイとミカは入る気にならなかった。なぜなら目の前に苦しそうな上に弱弱しい声を出し続ける横たわったアディがいるからだ。数ヶ月の付き合いだとしても、仲良くなった友人が亡くなりそうだと言うことに2人は色々な感情に飲まれていた。だが、その中でも手が届くと言うのに自分達には何もできることが無いと言うことに悔しさを一番感じていた。


「リング。あれをくれ」

「…分かりました」


 リングは持って来たカバンから1つの注射器を取り出すと、何か薬品を入れてシャリアに手渡す。カイもミカもそれが何か分かるが理解したくないと頭が訴える。


「な、なにをしようとしてるんですか」

「そんな物騒な物は仕舞ってくださいよ」

「…フラージュ、2人を」


 シャリアが全てを言い終わる前にフラージュは動き出し、2人のことを後ろから抱きしめて動けないようにする。


「これは安楽死させるための薬じゃ。リングには念のために私が呼んだ時は持ってくるように言ってるんじゃ」


 2人とも声を荒げて使うことに反対したいと思っているが、これ以上アディに苦しい思いをしてほしくないと思う気持ちもあった。


「…助かる方法は無いんですか。何か方法は無いんですか」

「もう魔力は少ないから人に移せる。だけど、もう体がほとんど壊されてるから抜いても助けられない」

「その魔力だけど、色々混じってる物だったよ。だから移したらその人が危ないと思う。正直、あれだけの量の魔力を入れられた時点で助ける術はなかったと思うよ」


 アディのことを診た2人から言われてカイ達は何も言えなくなる。そして、友人が死ぬということにさっき心構えが出来たつもりだったが、全くできていなかったことを痛感する。


「もう、よいの?」


 2人が頷いたのを見たシャリアはいつも通りの足取りでアディに近づき、頭を1回なでると薬を注入した。すると、先程まで苦しがっていたアディが徐々に声を出さなくなっていく。アディの声が聞こえなくなると、シャリアは目に手を添えて閉じさせる。


「誰か、運ぶんじゃ」


 力なく言うと、兵士がアディのことを袋に丁寧に入れて担架に乗せて運んでいった。




 学園祭は初日に侵入者と死傷者が出たために中止となり、生徒達は自宅待機となった。そんな中でカイとミカはラウラとフラージュ、リングに連れられて城に連れて来させられていた。そして昨日あった魔人騒ぎのことを報告し、次いでに報告を聞いて行く。

 カイ達は報告を聞く中で、ルナの様子を見るとルナは今にも泣きそうなのを我慢している顔になっていた。


「…昨日のことは大まか分かりました。さて、今日カイ様たちを呼んだのは私達では無いのです。あちらの方なのですよ」


 報告会を仕切っていたチェンが突然そう言ったためカイ達は視線をチェンに送ると、チェンは会議室の端の方に座っている男のことを見る。カイ達もつられてその男を見る。


「私、解析班の者でございます。名前の通り主にモンスターや魔法道具マジックアイテムの解析をしております」


 端から軽やかな、独特な足取りで前に出て来た男にカイ達は少し引き気味になる。


「あ、この足取りですね。これはですね、今調べてる二足歩行のモンスターの歩き方を…」

「話しはそのくらいにしないと進みませぬぞ」

「申し訳ありません。研究のことになると一言二言余分になってしまう。悪い癖だとは分かっているのですが」


 解析班の男は話す前と話した後で咳払いをすると、先程まで見せていなかった真剣な視線で2人のことを見る。


「以前、近衛騎士団の方から解析して欲しいと言われて渡された物がありました。それを調べたところ驚いた結果が出まして。それを取ったのはあなた方だと言うではありませんか!それで、それの入手経路を改めて聞きたいと思いまして無理言って来てもらったのです」

「その…俺達が取った物ってどれのことですか?」

「おっと、私としたことが。それはですね、セレス殿に渡された男の腕と謎の液体のことでございます」


 それを聞いて2人はようやくウォッシュの腕のことについて分かったことがあるのだと思った。そして経緯を出来るだけ詳しく説明し始める。所々にフラージュも入ってもらいその時の状況を報告する。


「…それはマズイかもしれませんね」

「マズイですか?」


 説明し始めると、最初は男も瞳を輝かせて話しを聞いていたが、だんだんと暗い顔になって行った。終わるころには顔に見えるくらいに冷や汗をかいていた。


「実はカイ殿たちが取った腕は人間とオークの成分が、液体の方はスライムと人間の成分があることを確認できたのです」


 それを聞いて、まだ報告を聞いていなかったカイ達とフラージュ、リングは驚く。


「おそらく王国はモンスターと人を混ぜて強靭な肉体を持った兵士を作りたいのでしょう。量産されていたら厄介です。ですが、話しを聞く限りそれはまだ良いのです」

「それ?」


 カイとミカの発言が重なったが、誰も気にすることなく男の発する言葉を待つ。


「ウォッシュと言われた、オークの成分が混ざっている男の方には他にも混ざっている物があったのです。今まではそれが分からず報告が出来ていなかったのですが、ようやくそれが何だったのか分かったので報告に来たのです」


 ここで話しを区切ったためカイ達は息を飲む。対してシャリアやチェン、皇帝達はそれが何か先に聞いていたのか息を飲むことは無かった。


「その分からなかった成分は魔人の物だったのです。つまり、その組織には魔人が関わっています」


 昨日魔人と関り、これからも何かあるとは思っていたが、すぐにまた魔人のことが出てくるとはカイ達は全く予想していなかった。

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