第163話


 冷たくなった紅茶を落ち着くためにカイはもう一口飲むが、心境は不安でいっぱいだった。カイは顔をラウラに向けると、ラウラは目的の物を見つけたのか、奥に消えて行く。


「大丈夫じゃ。魔力のことに関してラウラの右に出る者はこの世界にはおらん」

「…そう言われても、不安な物は不安ですよ」

「確かにの」


 シャリアはそれ以上喋ることはなく、部屋には静寂が訪れる。この静かな空間すらもカイにとっては恐怖を感じさせる物になり、恐怖に負けないようにと手を強く握る。そんな様子をシャリアは見て見ぬふりするしかできなかった。


「持って来た。ん?カイどうしたの?」

「ちょっとさっきシャリアさんから聞いたことことが怖くって…」


 カイがそう言うと、ラウラは黙ってシャリアの頭を殴ってカイに近づいてしゃがんで視線を合わせる。


「リアから聞いたのは学者の話し?それだったら大丈夫」


 恐怖と驚きを含んだ目でラウラを見ると、ラウラは優しい笑顔でカイのことを見ていた。


「体内で魔力が暴走したのは魔力操作の練度が不十分だったから。カイのを混ぜたときも最初は勝手に動こうとしてた。でも私だったそれを操作できる。だから大丈夫。それに今は安定してるはず」


 それでも安心できてないは不安そうにラウラを見るとラウラは優しく頭をなでる。


「それにリアには魔力操作が不十分だったって言った。なに脅してるの?」

「い、いや、言おうとしたのじゃ。でも、混乱して聞ける状態じゃなくなったのじゃ。私から言っても効果ないじゃろ?」


 色々言っているシャリアの横腹を小突くと、シャリアはその場でうずくまった。


「これで許す。あんまりいじめないで」

「わ、分かった。気を付ける」


 シャリアの返事を聞くと、ラウラは取って来た魔法道具マジックアイテムをカイに見せる。それは以前ラウラが使っていた片眼鏡と同じ様なものではあったが、装飾品が色々ついていた。


「これで魔力を見るから言ったように動かして」

「これだったらラウラが持ってる眼鏡で良いんじゃないの?」

「これの方が流れがしっかりゆっくり見える。それに魔力の消費量が少ないからその分たくさん見れる」


 笑顔で話しかけてくれるためカイの中の恐怖は少しだけだが、薄れていた。


 ラウラはさっそく片眼鏡を装着してカイの右腕を見る。


「じゃあ右手に集めて」


 カイは言われた通りに腕に魔力を集めてとどめる。


 その後、1時間かけてラウラに言われた通りに魔力を動かした。途中から元に戻ったシャリアも様子見をしていた。


「…動きが前よりも滑らか。魔力にぶれは無い。やっぱり前よりも魔力が体になじんだんだと思う。炎か氷出してみて」


 カイは片手ずつ赤い氷と青い炎を出す。


「っつ!?こんなに熱いと炎だと勘違いしてしまうの」


 少しばかり近くにいすぎて熱かったシャリアは一歩後ろに下がる。


「前と見た目は変わってない。出してる感覚は?」

「違和感は微塵もないよ」

「んー…。魔法を出した時に魔力器官を傷つけてる様子もない」

「つまり大丈夫ってことじゃな」

「ん。念のために1ヵ月に1回検査した方が良いかも。呼ぶからその時に状態とか教えて」

「分かった」


 大丈夫だと聞かされ、ラウラも自信を持って返事をしたためカイはようやく安心することが出来た。


「じゃあ仕舞って早くフラージュの家に向かうとするぞ。私はもうお腹空いてしまった…」

「いつも自由すぎ。それに老人みたな喋り方直したら?」

「だから何かしっくりくんじゃ。別に良いじゃろ?」

「ん…」


 魔法道具マジックアイテムを戻そうとするラウラの顔は諦めている顔だった。




 シャリアに案内される形で歩いていると、豪邸と呼ぶにふさわしい家に着く。


「ここじゃ。今頃驚いておろう」

「ここがフラージュさんの家なんですか?」

「そうじゃよ。あの子の死を偽装した時に元の家はあの子の指示で売ったんじゃ。その時はまだリングも孤児院にいての。でも帰って来た時に家が無いと不便じゃろ?だから私が用意しといたんじゃ。リングが独り立ちをする時にの。前に帰ってくるって言った時にここの住所を教えたのじゃ」

「大丈夫?何言われても私は知らないから」


 シャリアは笑いながら門に近づくと、門の前で待機していた門番が敬礼をする。門を開けてくれたため、シャリアに続いてカイとラウラも中に入る。中に入るとシャリアに向かって高速で突進してきた存在がいた。


「団長?これは何ですか?リングの家は普通の家だって聞いたんですが?」

「普通じゃろ?普通の豪邸」

「豪邸は普通じゃないですよ!一軒家を想像してたら豪邸で、前でうろうろしてたら『リング様の姉のフラージュ様ですか?こちらシャリア様からでございます』って言われて手紙渡されて驚きましたよ!」


 フラージュの手には手紙が握られており、先程言ったことが本当だと示していた。シャリアの前で何とも言えない顔で固まっていると、私服に着替えたミカが隣に来ていた。


「ラウラさん、カイの体は問題なかったですか?」

「ん。大丈夫。ただ前例がないから念のために1ヵ月に1回検査する」

「じゃあ、その時は私も一緒で良いですか?」

「ん。検査が終わったら3人でまた修業しよう」


 嬉しくなったミカはラウラに抱き着く。ラウラは慣れた手つきで抱き返す。


「はぁ~。もういいですよ。団長に何言っても無意味ですから」

「そうか?そんなこと無いと思うがのー?」


 シャリアは門を通るときと同じ様に笑いながら豪邸に入っていく。フラージュは項垂れながら後ろをついて行く。


「リングさんもそろそろ帰ってくるみたいだから入ろう」


 2人はミカに手を引かれる形で屋敷に入って行った。

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