第164話


 屋敷に入りゆったりとしているとリングと一緒にナキャブも帰ってきたため、全員が1ヵ所に集まる。

 全員が座ったのを確認した1人のメイド1人1人に紅茶を入れて行く。

 入れ終わってメイドが出て行ったのを確認したリングが口を開く。


「さて、しっかり話してもらうからね、ミカちゃんのこと。私娘がいるって知らなかったんだけど?」

「しっかり話すって。まず私がどうして死んだことになってたかね」




 約18年前、フラージュが17歳の頃に副団長に任命された。

 若いフラージュは一部の近衛騎士になれない兵士、騎士達に嫉妬されていた。

 わずか17年しか生きていない、人によっては自分の半分程しか生きていない少女が近衛騎士になるどころか副団長の座まで上り詰めたからだ。

 騎士達に不満が生まれることを任命したシャリアやザールドなども注視していた。だが、他の近衛騎士団や前任の副団長もフラージュが副団長になることを支持していた。そして自分達も彼女が適任だと思い、副団長の任を任せた。


 副団長になってから1年、特に問題は起きていなかった。

 騎士達の中にはシャリアとチェンに副団長を解任しろという声も上がっていたが、フラージュは実力で黙らせていった。


 そして、今日もいつも通り普通の任務を受けるはずだった。


「フラージュ、今日はこの任務をお願いじゃ~」

「…モンスターの討伐ですか?冒険者だけでは足りないってことですか?」

「何か数が多いみたいじゃの。その村の住人から応援要請じゃ。それで、連れて行く兵士達なんじゃが、出身の兵士が申し出て来たから連れてって上げてくれ…」


 そう言うシャリアの顔はとても嫌なことを思い出すような、呆れるような顔だった。


「よっぽど必死に懇願されたんですね。分かりました。その兵士達をつれて行きます」

「すまぬの。断っても断っても頼んできての…。最後には足に引っ付いてきおった。いくら引きずっても離さんかった」

「大変でしたね…」

「それほど村が大事なのじゃろう。出発は明日じゃ。今日はもう帰ってよいぞ」


 フラージュは一礼してから部屋を出て行く。フラージュもシャリアもこの任務に違和感を感じてなかった。だがここで疑問に思うべきだった。どうしてその兵士がそこまで必死になっていたのか。




 月が闇夜を照らす中、森の中でフラージュは返り血を浴びていた。そして、フラージュが槍の矛先を向けた先にはモンスターの死骸が爆散していた。そして背中側からは部下のはずの兵士5人がフラージュに向けて武器を向けていた。


「どういうことですか?それに数発程私を狙ってた様ですが?」

「うるせぇよ!てめぇみてーなガキがなんで近衛騎士なんだ!それどころか副団長だと?ふざけんな!」


 そう言うと、他の兵士達も声を上げる。

 フラージュは振り返りながら、仮面をつける。


「情報ではモンスターは大量にいるとありました。ですが遭遇したのはたったの5体。依頼を出した人もグルですか。後ほどあなた達には聞くことがありますので覚悟してください」

「てめぇが死ねば俺達のことはバレねぇよ!」


 すると兵士達は一斉に跳びかかる。だが若いとはいえ近衛騎士の副団長まで上り詰めた女。そんなフラージュが兵士達に手こずるわけがなく。突き5発だけで沈める。


「く、くそぉ。こうなれば。おめぇら!」


 先程話しかけて来た男が吠えるが、全員気絶しており返事がない。


「おめぇも道ずれだ!」


 舌打ちをした後で男はフレイムサークルで仲間達と一緒にフラージュも中に仕舞う。

 だがフラージュはこのようなことが起きることを感知していた。


「はいはい。じゃあ死んじゃう前に教えてくれる?」


 兵士を力づくで顔を見上げて視線を合わせながら問いただす。


「あなた達は私を殺すためだけにこんな依頼を出したの?」

「そ、そうだ!俺達は1年前からお前を殺したかったんだ!」

「嘘は良いよ。素直に言うなら君だけここから脱出させてあげていいよ?」


 男が視線をフラージュから外して考え始める。その間にフレイムサークルから木に火が燃え移っていく。どんどんと焦げ臭い臭いが広がっていく。

 男が長々悩んでいるせいで木が倒れ、気絶している兵士達を下敷きにする。2人にも当たりそうだったが、フラージュは跳躍して避ける。


「ほら、のんびりしてると君を置いて脱出するよ。ちなみに逃げられないように足の骨を折ってから脱出するからね」

「…頼まれたんだ」


 兵士はボソボソと貴族にフラージュを殺すように言われたことを話しだす。元々嫉妬していたのと大金に目がくらんだと言った。そして聞き捨てならないことを呟く。


「貴族には『他の兵士や騎士にもこの依頼を出してる。早いもの勝ちだ。急げ』って言われてんだ」

「依頼してきた貴族の名前は?ってここじゃあもう聞けないね。逃げるよ」


 フラージュはその男を抱えて脱出する。男が暴れないように気絶させるのも忘れていない。




 夜通し男を運びながらフラージュは誰にもバレないように城に帰還する。

 そして、団長室に直行する。


「失礼します」

「ん?帰ってくるのは昼頃じゃなかったかの?どうした?」


 フラージュは先程あったことをシャリアに話す。シャリアは途端に険しい表情になる。


「…わかった。このことは私から陛下に申し出ておく。それまではお主のことを隠しておいた方が良かろう。私の家に隠れておくのじゃ。リングには私から言っておく」

「分かりました。お願いします」


 それから数日、フラージュは休暇もかねてシャリアの家でゆっくりしていた。




 フラージュが行方不明となってから数日、朝早くシャリアが帰宅してきたため、フラージュが不思議に思っていると、部屋に入って来た。


「フラージュ、陛下がお呼びじゃ。依頼があるそうじゃ」

「陛下直々ですか?分かりました」


 シャリアはそのまま城に戻り、フラージュは透明になる魔法を使い、シャリアの後ろをついて行く。


 玉座の間に着いたためフラージュが魔法を解く。玉座の間にはザールド、サトレア、チェン、そしてシャリアだけしかいなかった。


「フラージュ、大丈夫だったか?」

「はい。無事でございます」

「フラージュ殿が襲われたと知ってサトレア様はここ数日落ち着きがなかったですぞ」

「チェン、余計なことは言わなくて良いわ」


 少しだけ頬を赤く染めながらチェンをしかりつける。ザールド咳払いをして話し始める。


「今回、フラージュに出す任務は王国への潜入だ」

「潜入ですか?今までしてなかったのに何故ですか?」

「この前フラージュが捕まえた男を尋問して貴族を捕まえたんじゃが、その貴族が王国の貴族とやり取りしてることが分かったのじゃ。兵士や騎士を使っての。いわゆる横流しじゃ。しかもその貴族だけでは集められないような情報も持ってたのじゃ。他にも王国と繋がってる貴族がいるかもしれん」


 困ったようにシャリアが言うと、チェンが追加で話す。


「他の貴族のことも、王国の貴族のことも口を割らせることは出来ませんでした。正直雲をつかむような話ですが、陛下とサトレア様、シャリア様が話し合った結果、その貴族が何者なのか明かし、他につながっている貴族を見つけることが出来るのはあなただけだとなったのです。それに今の立場を使えば、貴族達を怪しむことはないと思います」

「…その依頼受けたいと思います」


 こうしてフラージュは死んだことになり、王国へ潜入することになった。

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