第165話
王国に無事潜入することが出来たフラージュは名前はそのままに、身元を偽りながら街を転々として情報を集めながら生活していた。そして最終的に王都に流れ着いた。
王都についてからは田舎から出て来た少女を演じながら空いている時間に情報を集めるようにした。そして稼ぐために居酒屋で店員をしていた。
フラージュは他の店員と変わらないように働いていた。時には悪酔いして絡んでくる者もいたが、持ち前の力で伏せて行った。そして気づいた時にはその容姿も相まってか皆に覚えられ、看板娘になっていた。
今日も1日同じ様に仕事をするんだと思っていたが違った。
夜遅くに既に酔いきってフラフラな男が1人で店の中に入って来た。男の服装は少しボロボロになっており血もついていた。顔には青あざがあり鼻血も出していた。
喧嘩をしてきたのだと思い、他の店員が近づかない中フラージュは意を決して男に近づく。近づくと男からはアルコールの臭いが強くしていた。
「お客様、大丈夫でしょうか?」
「あー?大丈夫に決まってんだろ!それより酒だ!これで上手い酒をくれ!あんたのおすすめでもいい」
男は懐を漁ると袋をフラージュに出してきた。その袋はずっしりと重く、中を見てみると大金が入っていた。王都に来てからこんな大金を見てなかったフラージュは驚き男のことを見る。すると、男は机に突っ伏して寝てしまっていた。
「お、お客様!こ、困ったね…」
「フ、フラージュちゃん…、そのお客さん大丈夫なの?」
「言葉は強いですが大丈夫だと思います。ですがこのままでは…」
「あぁ邪魔だな。裏で寝かせてやんな。お前達は机を拭きな。血で汚れちまってるかもしれねぇからな。フラージュは裏に運べ。それと今日は上がるまでそいつを見ててくれ」
店の主であるマスターから指示が出たため、全員が指示通りに動き出す。
フラージュは裏に運び寝かせた後で、先程受け取った金を返すためと安全を確保するために懐を漁る。すると手のひらサイズに収まる硬い物を見つける。不思議に思ったフラージュはそれを取り出して驚く。それは赤く色づいた魔封石だった。
「それは嬢ちゃんみたいな子供が持ってるもんじゃねぇぞ」
声が聞こえたと思うとフラージュの手首が掴まれる。驚いていたのもあり、フラージュは咄嗟に手首を掴んできた者を拘束する。
「い、いてぇ!ギ、ギブだ!勘弁してくれ!」
「ご、ごめんなさい!」
フラージュは咄嗟にしてしまったことに謝りながら拘束を解く。拘束されていた男は涙目になりながらフラージュのことを見る。
「嬢ちゃん本当にただの店員か?!」
「ご、ごめんなさい!それよりなんで魔封石なんて…」
「お、これ魔封石つうのか?魔力を吸収して爆発させる物だが…。知ってるってことはただもんじゃないな?」
男のフラージュを見る視線が鋭くなる。フラージュはここをどうやって切り抜けようか考えていると、男の視線が元に戻る。
「なんてな。とって食おうなんて思ってねぇから安心しな。俺は学者をしててな。それが魔力を吸い取っちまうから爆発すると踏んでんだ。そんで俺が考えた魔法陣の実験で常に持ち歩いてんだ。ほれ、魔法陣が刻まれてるだろ?」
言われて魔封石を見ると、魔封石には何かの魔法陣が刻まれており、先程からフラージュが持っていると言うのに石は白色になっていなかった。
「名前がまだだったな。俺はアルンだ。あんたは?」
「フラージュです。先程までたくさんのご無礼申し訳ありませんでした」
「フラージュちゃんね。今日は悪かったな。今度話そうぜ。また来る」
アルンはそれだけ言って表に戻って行った。嵐のような人に驚いて固まっていると、表からアルンがマスターに何か言って出て行く声が聞こえたため表に戻る。
「フラージュ何かしたか?さっきの男ご機嫌で帰って行ったぞ。こんなん渡して」
マスターはフラージュに見えるように、大金が入っていた袋を持ち上げた。
「少し話しただけなんですけどね…。また来るって言ってました」
また来ると聞いたマスターがご機嫌になる中、フラージュはアルンのことを考えていた。
翌日、来ると言っていたがすぐには来ないと思っていたフラージュはアルンのことを頭のどこかで考えながら仕事をしていた。
「フラージュちゃん。飲みに来たぜー」
すると店が準備中だと言うのにアルンが扉を勢いよく開けて中に入って来た。昨日は鼻血を出していたが今日は出しておらず、服も綺麗な物を着ていた。そして昨日できていた青あざも少しは薄くなっていた。
これには店にいた全員が驚く。
「あれ?まだ準備中だった?わりー出直すわ」
そう言って男が出て行こうとするとマスターが止めた。
「いや、あんたは昨日飲んでないのに金おいてったからな。特別に飲んでっていい」
「マジか、店主ありがとな!良い店だな!」
「それは良かった。お前達はいつも通り準備しててくれ。俺とフラージュで相手する。フラージュお前は話し相手になってやれ」
アルンが注文した物を持ってフラージュは男の隣に座る。
「お、来た来た。上手そうだなー!」
「まさか翌日に来るなんて思ってなかったですよ」
「そうかー?俺は酒が大好物でな。俺の血は酒で出来てると言って良い」
「何ですかそれ?」
そんなバカな話をしながらもアルンは飲み食いしていく。
アルンが店に来るようになってから3週間。
毎回毎回アルンは開店時間に来ては、大量に注文しては飲み食いして帰っていく。もちろんフラージュとも仲良くなっており、最近ではマスターや他の店員とも仲良くなり良く話している。一部の常連とも楽しそうに話している姿も確認できていた。
皆が今日もアルンが来ると思っていたが、開店時間から少し経ってもアルンは現れなかった。
裏で休憩している者達はアルンが来ないことに心配していた。フラージュも例外では無く心配に思っていた。
「いらっしゃ…」
深夜になり、店員の1人が来店した人に挨拶をしようとした所で声が詰まる。フラージュも不思議に思い入り口を見ると、初めて会った時よりも酷い怪我をしたアルンがいた。
頭から血を流し、顔は以前と同じように殴られて腫れていて明らかに傷が増えていた。そして1番違うのが体だ。アルンが歩いて来た道を見ると血が点々と垂れており、今も血を流していた。
「アルンさん!?どうしたんですか!?」
「わ、わりぃな。気づいたらここに足を運んでた…」
それだけ言うと、体力が尽きたのかその場で崩れ落ちそうになるのをフラージュが支える。
「フラージュ、急いで裏で寝かせろ!誰か包帯を持ってこい!」
顔なじみの客たちも心配で騒がしくなる中、フラージュはアルンを担いで裏に下がる。
アルンに包帯を巻き終わったフラージュは隣に座って一息つく。
治療が終わってもアルンの容体は良いとは言い切れず、今も目を覚まさずにいた。
「フラージュ。アルンさんの状態は?」
「たぶんたくさんの人に殴られたんだと思います。数ヵ所骨が折れてました。それに特に上半身の傷が酷かったです。クロスに剣で大きく深く切られていました。正直死んでもおかしくなかったと思います」
「そうか明日俺が治療院につれていく。今日はもう閉めたからお前も帰んな」
「…いえ、私が連れて行きます。なので家まで連れて行きます」
「…そうか分かった。頼んだ」
アルンを治療するなら王都の治療院よりも、フラージュ個人で魔法を使って治療した方が助かる可能性が高い。そしてここで魔法を使いたいが使っている所を他の人に見られたくなかった。そのためフラージュは借りている部屋にアルンを背負って帰るしかなかった。
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