第162話
皇帝を筆頭にどんどんと会議室から出て行く中、ルナがカイとミカを会議室に残していた。
「2人とも無事でよかったよ~」
泣きながら2人の手を握り勢いよく上下に振りながらルナが言う。その態度にカイ達はどうしたらいいのか悩みながらもミカが話しかける。
「心配してくれてありがとルナ。でもこの通り大丈夫だから安心して、ね?」
「うん」
ハンカチで涙を拭いた後でルナはスカートのを軽く持ち上げて頭を下げる。
「改めて、バザルド帝国、第2皇女、ルナ=バザルドでございます。これからもよろしくね」
眩しいくらいの笑顔で言ってくるルナに2人は笑顔を返した。
「2人はこれからどうするの?冒険者に専念するの?」
椅子に座り直した所でルナが一番早く口を開いた。まだどのようにするか決まっていない2人は困るが何とか喋る出す。
「帝国に来ること自体が急だったから、これから何するかとかは全く決まって無いんだよね。ここに来るまで正直安心できなかったから」
「そうだね。カイに関しては魔法が上手く使えなくなったりとかもあったもんね」
「そっか…。なら学園に来ない?」
「学園?」
言葉が重なりながら聞いてくる2人にルナは笑うのをこらえて話し出す。
「実はこの前の対抗戦って1年生、今の2年生しかいなかったの。上の学年には私よりも強い人がいるよ」
ミカは前回の1年しかいないことに驚いた。そしてカイは強い人がいると聞き、口角が上がる。
「セレスの情報で2年3年が出ても実力的に差がありすぎて良くないってことで1年が出たんだけど…1年でもすごかったよね。2人以外勝負になって無かったし」
「じゃあ、全体的に上の学年の方が強いってこと?」
「そうそう。まぁ例外もあるけど。あとうちの学園の面白い所は『スターズ』って言う集団。性格に難が無かったらなんだけど、学園の上位5人を『スターズ』に入れて、学園の風紀を守るように動かしてるの」
「ルナもそのスターズに入ってるの?」
「ううん。私は入って無いよ。前の対抗戦で負けちゃったから…。今は全員3年生がやってる。正直1位の先輩に勝てるビジョンが見えないし、負ける所を見たことが無い」
これを聞いてミカは驚きながらも嬉しそうな顔をする。隣のカイももちろんのことミカと同じ顔をしていた。
「もう2人とも燃えてるね。ねぇ学園に来ない?2人なら入れると思うから」
「行く」
先程の話しを聞いた2人にはこの話しを断ると言う考えは既に微塵も存在していなかった。
その後少しだけ雑談をした3人が会議室を出ると、会議室の前にはフラージュとアルドレッド、セレスとミーチェ。そしてラウラとシャリアがいた。
「3人とも満足いくまで話せたかしら?」
「はい、セレスさん。アルさんもセレスさんもお久しぶりです」
「ホント、お前らが急に現れたときは驚いたぞ。それに白ローブがミカの母親ってこともな」
「言えないことだったんだから、仕方ないことだと思って許してよ」
「別に怒っていないわよ。でももう10年以上も前に死んでしまったと思っていたから生きていたことには本当に驚いたわ」
「にしてもアルゲーノス家がこのことを知ったら驚くな。嫁が帝国のスパイだったなんて」
「うーん、それについてはちょっと訳ありなんだよね。そこらへんを話すために家に来ない?リングも聞きたがってたから。リングが帰ってくるまでゆっくりしてればいいしね」
全員で納得して移動し始める中で、ラウラが突然カイの腕を掴んだ。
「フラージュ、悪いけどこいつは借りて行くの」
「ちょっと魔力に関して検査する。話しまでには返すから」
「分かりました。早く終わったからって戦おうとかしないでくださいね、団長」
「分かっておる。今度に我慢しておく」
「俺も戦いたいと思ってたんでその時はよろしくお願いします」
「ほぉ~。やっぱり今戦いたいの」
2人が視線をぶつけてバチバチしていると、ラウラが2人の頭を叩いた。
「バカな事行ってないで行く」
痛がっている2人を引きずりながらラウラはどこかに向かっていなくなってしまった。
「団長を止められるなんてすごい。でもあの戦闘狂っぷりは全然治って無い…」
「治らないわよ。師匠は戦うことを生きがいにしてるんだから」
「師匠?セレスさんは団長の弟子なの」
「一応、魔力のことを教えてもらったわ。体術も教えてもらったのだけど、向いてなくて、必要最低限しかできなかったわ」
「まぁ後衛からしたら十分なレベルだろうがな」
途中から自分でしっかり歩いていたカイはラウラとシャリアについて行くと、鍵が何錠もされている部屋に入る。そこは整えられた紙の束がまず置いてあり、大量にある棚には色々な
入ってすぐにラウラが紙の束を見始めた。
「ここは
「危険な事、ですか?」
「魔力を混ぜるなんてほぼ不可能な事じゃ。カイ、2属性の物が魔法をどう使うか分かっておるか?」
「いえ、俺は2属性持ちじゃないんで分からないです」
「2属性持ちはの、無意識化でそれぞれスイッチのONとOFFをしておるのじゃ。例えば炎を使いたいときは炎をONにして氷をOFFにしてな。その逆もしかりじゃ。ただ、そのスイッチを両方ONにすることは出来んのじゃ。過去にしようとした者がいたが、誰一人出来なかった。私も常に両方使えないか試して居る。200年試して一度も出来た試しがない」
「同時に使うことは出来ない…。ただ俺は混ざってるから同時に使える」
「そうじゃ。ただそれを過去に考えた学者が居った。だが研究は失敗だった。まず混ぜる方法が分からんのじゃ。魔力なのだから魔力ならできると考えた者もいた。だが、どんなに頑張っても外的要因で混ざることは出来なかった」
「え?!ならラウラは…」
「まぁ最後まで聞くのじゃ。ほんの100年くらい前じゃ。2属性持ちだった学者が自分の体で、自分の魔力を使って試したのだ。それぞれの魔力を一塊にして少しずつ混ぜるように動かしたらしい。その者は少しは魔力操作が上手かったようで、それが出来てしまったのだ」
長く話したのに疲れたのかシャリアは自前の袋からポットを出し、カップに入れた後で紅茶を飲み始めた。
「あ、私も欲しい」
「分かった。ほれ。カイもいるか?」
「え、はい」
匂いで気づいたラウラが欲しいと言うと、袋からカップを取り出して慣れた手つきで入れて手渡す。続いてカイの分も入れる。
「入れていただいちゃってすみません」
「良いのじゃ。ここからは話すのは躊躇うことでの。ちょっと落ち着きたかったのだ」
大きく息を吐いた後で、シャリアは覚悟した目でカイのことを見る。
「最初は順調に混ざったそうじゃ。他にも魔力の様子を見ておる者もいての。だが、問題は急に起きた。学者が苦しみ出した。魔力の様子を見ておると魔力が勝手に動いて暴走したと報告書には書いてあった。混ざっていた魔力も気づいたら分離していった。お主の体の中で炎と氷の魔力が反発しあった時と同じ様に、学者の体の中で魔力同士が反発しあった。相性が悪い魔力でもないのにの。そしてどんどんと魔力が外に逃げ出していったそうじゃ」
驚いて、紅茶を飲む手が止まっていると、追い打ちでシャリアが話す。
「この話には続きがある。関係のある事じゃからの?」
そう言われてカイはカップを置いて真剣な顔になる。
「実はその実験に参加しておった1人の学者が魔力が抜けてからも魔力の様子を見ておったのじゃ。すると、2つあった魔力の色がどんどん失われてついには色が無くなった、いや、透明になったと言った方が良いじゃろう。その瞬間に死体が爆散したのだ。あまりにも細かくなったせいで血痕以外残らなかった」
これを聞いたカイは恐怖で震えだす。シャリアは落ち着かせるためにカイの視線を力ずくで自分と合わせる。
「大丈夫じゃ!今お主には逆のことが起きておる。安心せい。もし何かあっても私達が何とかする!」
「あ、ありがとうございます」
カイは落ち着くために紅茶を飲む。だがその紅茶は冷たくなっていた。
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