4章 波乱の学園祭
第196話
ボスが捕まりエビドは解散されたはずだったが、街中にまだ残党がいる可能性を捨てきれなかったため、ルナ達は中々外に出ることが出来なかった。
そして、安全が確保されたころには1つのダンジョンを探索する時間しか残っていなかった。これにはカイ達3人は落ち込んだが、挑めるだけ良いと思い、開き直した。
もちろん入ることにしたのはボス部屋だけで構成されたダンジョンで、やる気十分で挑んだ。
自由期間の1ヶ月が終わり、カイ達はウィリティ学園に帰って来ていた。
ボスのダンジョンは計5階層で作られており、ボスは1階層からサラマンダー、ウンディーネ、シルフ、ノーム、ヴォルトだった。最後3つのシルフ、ノーム、ヴォルトは手こずったが、サラマンダーとウンディーネはカイがいたため簡単に倒すことが出来た。どの精霊も体が存在せず、それぞれの属性の体で出来ていた。そのためサラマンダーは青い炎、ウンディーネは赤い氷を軽くぶつけるだけで簡単に倒すことが出来たのだ。
そのことにカイは少しだけ不満に思っていると、帰りの馬車でルナがある話題を出した。
「そう言えば、自由期間が終わったら年に一度の学園祭があるよ」
「学園祭?祭りってあるから祭りなんだろうけど…。何やるの?」
王都の第一学園では学園祭などなかったために、カイとミカは言われてもパッと来なかった。それを聞いたルナとセレスは驚いた顔になる。
「え!?あんなに楽しいのに知らないの?!」
「そこまで言うってことはよっぽど面白いんだ。お母さんも楽しみ?」
「そうね。しっかり回るのは初めてだから楽しみだね。今まで回るとしても警護ばっかだったから」
フラージュの答えに楽しむ時間が無かったのだと、一瞬で暗い空気になりそうだったがそれより前にフラージュが話を振る。
「私は学園祭と言えば最終日のエキストラマッチは印象に残ってるわね」
「エキストラマッチ?誰が戦うんですか?」
「希望すれば大体誰でも戦えるぞ。まぁ定員があるがな。カイも挑んでみても良いんじゃねぇか?シャリアのばあさんも数年に1回出るぞ」
アルドレッドに提案されて、少し考える素振りを見せるカイは、すぐに元通りになって笑顔で返答する。
「初めてなんで、今回は観戦します。どんな人達がいるかみたいですから」
「意外だな。まぁ楽しめや」
その後、学園祭では各クラスで出し物をすることも出来ると聞き、カイとミカは楽しみに胸を膨らませた。
帰って来たカイ達はさっそくクラスで何をするか話し合う。それにカイ達も参加して楽しんでいる。準備から楽しいのだと思い、2人の顔が緩む。
「2人とも楽しそうだね。今からそんなに楽しみにしてて大丈夫?」
浮足立ちそうになっているカイ達にルナはいつも通りアディをつれて話しかけに来る。
1月ぶりに合うアディに2人は返事すると、アディは以前の様にルナの後ろに隠れてしまうが、返事はしっかりと返す。
「楽しみなんだから仕方ないって」
「でもまだまだ先だからね?」
そう言って4人は楽しそうに学園祭のことを話し始める。
今年の学園祭は楽しい物になるはずだった。だが、裏で何か異変が起きていることを誰もまだ知らなかった。
カイ達がアベルトにいる頃、帝都のある所では悪意により操られようとしている存在がいた。
「動くなよ。お前、力が欲しいか?」
声がしてその方向に振り返ろうとする。だが振り返れない。動けないことに恐怖していると、目の前にローブを深く着て手を差し伸べてくる男がいた。手を出された者は恐怖から動けない。
「あー、悪かったな。もう動いていい」
男がそう言うと、体は元に戻る。その人はすぐさま逃げたかった。頭が逃げろと命令する。だが足は一向に動こうとしない。
「そんなに怖がるなよ。俺は良い話を持って来たんだから。お前、力が欲しいだろ。俺だったらお前に力をやれる。だから俺の手を取れ」
男がもっと手を前に出してくる。その手はとても魅力的で今すぐにでも掴みたくなる。頭では危険な事だと分かっているのに、手を握ろうと無意識にゆっくりと動いてしまう。
そして、その者は抵抗することなくその手を握った。
「良いぞ。お前に力をやろう。これであいつらを見返してやれよ」
男は握られた手を力強く握り返した。男はローブの下で楽しそうに不気味な笑顔を作る。
そして握った者の頬には涙の跡があった。その涙と一緒に良心は流れて行ってしまった。握った者は男の笑顔を見て悟った。もう戻れないと。
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