第125話


「急にお願いしてごめんね」


 カイとミカは今大通りを歩いて、ミカの家に向かっていた。

 1学年が終わったと同時にミカはカイが泊っている宿から自宅に戻った。あの3人の出来事からしばらく様子見をしていたが、ストーカーなどの問題は無く、戻っても大丈夫だろうとなったからだ。

 そして、戻った初日にミカが学園での出来事を話していたら、「カイ君が師匠さんの所に帰るまでは家に来て貰ったらどうかしら?」とフラージュに言われたとミカがカイに言ったのだ。


「迷惑にならないかな?」

「お母さんが言ったから問題無いよ。それにもう向かってるじゃん」

「それにカイがラウラさんのところに行くのは3日後なんでしょ?」

「うん、早く行きすぎてもいないと思うから」


 ミカの家の前に着いたため、ミカが先に入る。


「ただいまー。カイ連れて来たよ」

「おかえり。カイ君もいらっしゃい」

「お邪魔します」


 家に入ったカイは以前座った席と同じ椅子に座る。


「カイ君は実家には帰らないの?」


 フラージュがお茶をカイに出しながらそう言うと、ミカは「お母さん!」と言うがカイは話し出す。


「家からは追い出されました。なので帰るとしたら師匠の所ですかね」


 そう言って苦笑いするカイを見てフラージュは申し訳なさそうな顔になる。


「そ、そうなの。思い出したくないこと聞いてごめんね」


 空気が悪くなりそうになったためカイが口を開く。


「3日後に師匠の所に行こうかと思ってたんで、それまで泊っていいんですか?」

「良いよ!カイ君が良かったらいつでも泊りに来て」


 カイがミカの方に顔を向けると、ミカも笑顔で頷いたため、カイは一息吐いてからフラージュに返答する。


「お言葉に甘えさせてもらいます」


 カイの返答を聞いて2人は今日一番の笑顔になる。


「あ、ミカの槍の修繕が終わったって連絡が来たから私も3日後に家出るね。ミカ1人でお留守番でもいいんだけど…」


 実はカイがミカの家に来たのには理由があり、それはラウラの所にミカと一緒に行きたいと思っていたからだ。

 それを分かっていたとでも言うようにフラージュは笑顔でカイを見る。


「ねぇミカ、一緒にラウラの所に行かない?」

「…行く!また特訓つけてもらう!」


 ミカの様子を見てフラージュは笑顔になる。それを見ていたカイに気づいたのかフラージュはカイに微笑む。




 カイは今、ミカと一緒にミカの家の前にいる。


「行ってきます!」

「はい、行ってらっしゃい」

「ほらカイも!」


 そう言ってミカがカイの背中を押す。


「行ってきます」

「行ってらっしゃい」


 恥ずかしそうに言うカイにフラージュは優しい顔で言う。


 この3日間、カイとミカはほとんどゆっくりしており、やったことと言えば、フラージュの手伝いと、2日目にミカが体を動かしたいと言ったため軽い組手したくらいだ。

 そして、出発する日では、フラージュはカイとミカに2日分のお弁当を渡していた。


「こんな至れり尽くせりで、本当にありがとうございます」

「いいのいいの。その代わりミカのことよろしくね」

「はい!」


 カイとミカはラウラの家に向けて歩きだす。




 カイ達はゆっくり歩いてきたため、途中で野宿をすることになったが、2日目の朝にはバーシィ領に着くことが出来た。


 2人は中に入ってから前回同様にカイの袋に入っていたローブと仮面をつけて街中に出る。変装しなくても良かったのだが、カイが見られた時の方が問題になると思い、仕方なく変装することにした。


 通りを歩いていると、2人は遠くにグイの姿を確認することが出来た。

 グイは護衛らしき者5人を連れて、道の真ん中を歩いている。皆が迷惑そうにしているが、貴族のため何も言えずに道を作る。


「どうする?私達だったら見つからないで行けるけど?」

「…いや、今日ここで全部片付ける。もう容赦はしない」

「これはカイの問題だからね。私はそれに従うよ」


 カイが頷くと同時にカイは袋から剣を取り出し、袋をミカに渡す。ミカも袋から槍を取り出した瞬間に2人は走り出す。

 グイを始め、急に道に出て来た邪魔者に気分を悪くしていたが、ここ数ヶ月ずっと探していた者を見つけることが出来、歓喜する。


「見つけたぞぉおおおお!お前達やれ!」


 グイがそう言うと、護衛達がグイの前に出て魔法を撃つ体勢に入る。ミカが高速移動を使ってやめさせようとしたが、カイが肩に手を置き止める。

 ミカはカイの意図を掴み取り、カイの後ろに隠れる。


「死ねぇぇえええ!!」


 グイの掛け声で護衛達は魔法を一斉に放つ。カイはてっきりいろんな種類の魔法が来ると思ったが、「フレイムキャノン」と「ストーンキャノン」「グリーンキャノン」の三種類だけだった。カイはガッカリしながらも剣を構える。


「俺様を愚弄した罰だ!!」


 構えたまま動かないカイ達を見て、グイは死を確信したため高らかに笑い出す。護衛達も聞いていた程じゃないと油断する。

 すると、空中で魔法が全て切れて無くなる。

 グイも護衛も周りにいた領民も何が起きたのか分からず、固まる。

 その隙に、カイの後ろに隠れていたミカが飛び出す。護衛達は固まっていたために対処が出来ずに一瞬で鎮圧される。

 そのまま近づいてくるだろうとグイはミカのことを警戒するが、180度振り返りカイの方を見る。歩き出していたカイは、ミカが見守る中グイに一歩一歩ゆっくり、剣先を揺らして恐怖を与えながら近づく。


「く、来るな!来るなと言ってるだろぉぉおおお!」


 焦りながらストーンボールを撃ったため、魔法が領民の方に飛んでいく。領民たちは死人が出ることに悲鳴を上げる。

 すると、先程と同じ様に魔法が真っ二つになり、消える。今度がミカが魔法を消したのだ。

 だがここにいる皆はカイがやったのだと錯覚する。そして、あの男には魔法は聞かないと思い恐怖する。


「領民に攻撃するのか。その手は要らないな」


 カイは大きな声でそう言う。そしてゆっくりと剣を上に上げる。

 それを見た領民はこれから何が起きるのか分かり数人は目を逸らす。近くに小さい子がいた場合は子供の目を覆い見せないようにする。

 グイは恐怖で震えて動けなくなり、喋ることも出来ない。


 カイは無言のまま剣を振り下ろす。


 するとグイの手は弧を描く様にして飛んでいく。通りにグイの悲鳴が響き渡り、皆が目を背ける。

 カイは返り血がついてほしくなかったため後ろに跳ぶ。


「行こう」


 ミカに一言言って、近くの建物の屋根まで跳ぶ。ミカは何も言わずにカイについて行く。

 通りには倒れた護衛達と、恐怖で動けなくなった領民。そして、血だまりの中でうずくまるグイと、ちょうど通りの真ん中に落ちた腕が残された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る