第124話


「お前ら座れー」


 そう言って教室に入って来たのは、冒険者体験の授業を持っているアルドレッドとセレスだった。いつもの光景なはずなのにカイとミカを除いた教室にいる全員が緊張していた。皆が緊張している理由、それは今ここで成績は発表されるからだ。

 ここにいる皆がアルドレッド達との模擬戦に負けた。だから落ちるとは思っていない。だが、心のどこかで落ちるかもしれないと心配があった。


「今から進級してるかどうか、紙で伝えるからしっかり確認してくれ。セレス頼んだ」


 アルドレッドに言われて、セレスは紙を持って教卓の前に出る。すると名前を呼び始める。呼ばれた生徒はセレスから紙を受けとり、全員が嬉しそうな顔をしている。


「次、ミカ=アルゲーノス」

「はい」


 呼ばれてミカは返事をしてセレスに近づく。セレスと少し話してからカイの隣の席に戻ってくる。


「おめでとう」

「言ってないのに?」


 結果を聞いていないのに、合格したと確信しているカイにミカは不思議に思う。不思議に思っているミカにカイはミカにだけ聞こえる小さな声で話し出す。


「呼ばれてた生徒が合格してるのにミカが合格してないはずがないから」


 そう言われたミカは恥ずかしそうに微笑む。


「カイの言う通り合格してたよ」


 ミカが紙をカイに見せる。そこには『授業態度『実技』『協調性』と3つ書いてあった。ミカは全てAと書いてあった。


「全部Aじゃん…」

「今だけだよ。もっと頑張らなくちゃ!」


 そう言ってやる気満々と言った態度をとるミカを見て、カイも頑張らないとと思う。


「次、カイ」

「呼ばれたよ。行ってらっしゃい」


 カイはセレスの目の前に行く。他の生徒は合格していたことに歓喜してカイのことを見ていない。


「はい、成績よ」

「ありがとうございます」

「ちなみに、カイとミカが最優秀生徒だったわ」


 カイの驚いた顔を見て、セレスは以前ダンジョンで笑った時と同じ様に笑う。

 カイはすぐに正気になり席に戻る。


「どうだった?」

「合格してたんだけど…」


 そう言ってカイは紙を広げると、『授業態度A』『実技A』『協調性A』と書いてあった。


「まぁカイだったそうなるよ」

「でも、協調性とか…」

「カイはあるでしょ?周りの人が勝手に協力しないだけで」


 ミカの行ったことに反論しようとした瞬間、教室に怒号が響く。


「何で俺が不合格なんだ!」


 そう言って叫んでいる生徒は進級テストでカイと組んだ生徒だった。


「普段の授業と、ダンジョン探索をしっかりと考えたうえでこの成績にしたわ」

「じゃあ、なんだこれは!?『授業態度D』『実技E』『協調性E-』だと!?ふざけてるのか!?」


 そう言って男子生徒は紙をグシャグシャにして地面に投げ捨てる。


「しっかりと話し合ったわ。『授業態度」のほとんどは座学が占めてるわ。あなたは寝てるか他の生徒と話してるだけだったわね?」

「そ、それは…」


 セレスが続きを言おうとすると、アルドレッドが肩に手を置き止めて話し出す。


「言っておくが、実技はこの前のテストだけじゃなく、ダンジョン探索もしっかり入れてる。それを考えてEだ」

「…」

「最後に協調性だ。これは酷すぎる。ダンジョン探索であの態度。仲間を死なせたいのか?」


 最初のダンジョン探索の時、アルドレッドが担当した班に男子生徒がいた。そのためダンジョンで指示をする役になった時の態度を知っていた。そして、進級テストでカイと組ませたのは前回のあの態度から治ったか見るためだったが、全く直っていなかった。


「それに、俺たちは進級テストで「作戦会議してくれ」と言ったはずだ。お前は何をしてた?ペアでは無い違う生徒と雑談してただけだな。そんなんじゃ冒険者としてやっていくことは出来ない。だからE-なんだ」

「…じゃあ、あいつは何なんだ!?」


 そう言って男子生徒はカイのことを指さす。


「あいつの成績はオールAだ」

「な、なんで!?」

「まず、授業をしっかりと聞いていたわ。それに授業外でもモンスターの弱点とかを聞いてきたわ。だからAよ」

「実技だが、あいつは俺に1回勝ってる。その上ダンジョンで5階層まで潜ってる」


 アルドレッドがそう言うと皆がカイを見る。本当は15階層まで行っているのだが、アルドレッドは多すぎても信憑性が低くなり、良くないと考え少なくした。


「そ、そんなの一緒の班の人に連れてってもらっただけだ!」

「俺はあいつがモンスターと戦う所を見た。余裕をもって対処出来てたぞ」


 男子生徒は何も言えなくなり、カイのことを睨む。アルドレッドはため息をついてから続きを話す。


「最後の協調性だが、あいつは帝国の知らない生徒としっかり話し、作戦を立ててダンジョン探索をしてた。だからAだ。この前のテストでお前に話しかけ、作戦会議をしようとしてた所を見てる。お前がに断ったからできなかったがな」


 アルドレッドはわざわざ「一方的」と言う部分を強調して話す。


「断られていたが、冒険者としてコミュニケーションを取ろうとしてた。今はそれだけで十分だ。だからAにした」


 アルドレッドは途中から話しを聞かずにカイを睨み続けている生徒の肩を掴み、無理やり顔を自分の方に向かせる。


「しっかりと精査したうえで成績は出してる。不満があるならしっかりとここで言え」


 男子生徒は授業態度に関しては言い返せることが無く、実技でもアルドレッドに簡単に負けていたことを思い出し黙る。協調性に関しては言いたいことがあったが、アルドレッドの怒気を含んだ声に震えて言えなかった。


「無いなら席に戻れ」


 男子生徒は返事もせずに席に戻る。

 アルドレッドの「カイがダンジョン5階層まで行った」発言のせいでカイはその後ずっと注目されていたが、無視してミカと話し続けた。




 授業が終わり、教室には4人の姿があった。


「カイもミカの一年間お疲れ様」

「アルさんもセレスさんもお疲れ様でした」


 それはカイ、ミカ、アルドレッド、セレスだった。


「2人は明日帰っちゃうんですよね…?」


 帝国に戻ることはミカも聞いていたためミカが2人に聞く。


「私たちは残りたいのだけど、招集の指令が出たの。今年1年でかなり深いことまで分かったから守りを固めるって書いてあったわ。途中で投げ出すみたいになってごめんなさい」

「…戻っても頑張ってくださいね!」


 そう言ったミカの顔は笑顔だったが、寂しそうだった。


「会えなくなるわけじゃないんだ。いつでも遊びに来い!お前ら2人なら大歓迎だ!」

「はい、絶対に行きます。いつになるか分からないですけど、数年以内に必ず」


 カイは強い眼差しで2人のことを見る。


「私達は明日には戻っちゃうから、今から一緒にご飯に行くのはどうかしら?」

「良いですね!行きましょう」


 ミカの顔から悲しさは無くなり、セレスの手を両手でつかむ。セレスはそれが嬉しかったのか、頬が緩む。


「カイ、帝国に来るってなったら『パシフィズム』って都市に来い。そこに城がある。俺たちは基本的にそこにいるはずだ」

「分かりました。絶対に会いに行きますから」

「おう!次あった時はまた模擬戦でもするか!」


 2人で笑いあってると、扉の方から呼ばれる。


「2人とも行きますよ!」

「早く行かないと、おいしいお店で食べられないわよ?」

「今行きます」


 そう言ってカイとアルドレッドは2人に近づく。すると歩きながらアルドレッドが話しかけて来た。


「カイ」

「はい?」

「俺たちがいなくなる分ラクダレスと白ローブにたくさん頼れ。何があるか分からないからな。気をつけろよ」

「はい…!」


 その後4人は王都で一番おいしいと有名な店で楽しく食事をとった。

 翌日アルドレッドとセレスは帝国に戻って行った。

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