第123話


 カイは場外にいるため、そのまま下がる。


「よし、次やるぞ。次の奴は…」


 アルドレッドが2人生徒を呼び、呼ばれた生徒は舞台に上がっていく。


「お疲れ様。惜しかったね」

「ありがとう。最後、確実に切り抜けるために受け止めたけど、避けとけばよかったな…」

「あそこで威力が高いのが来るとは思わないって」


 先程の戦闘を2人で反省会をしていると、2試合ほど終わっていた。


「次やるぞ~」


 次はミカのペアがやることになったため、ミカは舞台に向かう。


「ミカ、がんばって」


 カイの言葉にミカはカイに向けて笑顔を返した。




「アルゲーノスさん、さっき言ってた作戦で大丈夫なの…?」


 試合が始まる寸前にミカのペアの生徒が不安そうに聞いてくる。


「俺、君みたいな実力無いし、魔法だって普通だし、近接戦なんて素人だよ」


 そう言って男子生徒は持っている剣を見る。


「勝てなくてもいいって言ってたでしょ?今まで戦った人達は誰も勝ってないし。大丈夫だよ」

「は、はい」


 自信無さそうにしている生徒を無視して、ミカはアルドレッド達を見る。その姿には全く隙が無く、策も無しに突っ込んだら1秒もしないで倒されると分かるほどだった。隣の生徒も空気でそれを感じ取ったのか震え始める。


「安心していいわ。そんなに硬くならないで」


 見かねたセレスが優しく話しかけるが、逆効果でさらに震えが激しくなる。


「そろそろ始めますよ。生徒側は良いか?」


 審判をしている教師はミカと生徒を見ると、ミカは頷く。生徒の方は震えているが、無視して進める。


「良いっすね?」

「…始めましょう」


 アルドレッドもセレスも武器を構える。


「もう始まるよ」

「は、はい」


 ミカも槍を構える。隣の生徒も剣先を震わせながらもなんとか構える。


「始め」


 審判に声を聞き、ミカはアルドレッドに向かって走り出す。アルドレッドとセレスは最初は受け身と決めているのかその場から動かない。

 ふとミカが隣を見ると隣を走っているはずの者がおらず、後ろを見るとペアの生徒が震えたまま動いていなかった。

 ミカは小走りで戻る。


「もう始まってるよ!」


 ミカが話しかけるが、生徒は聞こえていない。肩を揺らしても反応が無いため諦めて1人で前に出る。


「良いのか?」

「ああなったら戦えないですから」


 アルドレッドに接近したミカは槍の刃が当たるように振ると、アルドレッドはそれを刀身でしっかり受け止める。セレスは後ろで動けなくなっている生徒を無視してミカに向けて氷を飛ばす。ミカはアルドレッドを見たまま片手をその氷に向けると雷を飛ばし氷を破壊する。

 片手で槍を支えることになり力が弱まったためアルドレッドに押し返されるが、ミカはその力を使い後ろに下がる。後ろに下がると分かっていたと言わんばかりにセレスがミカの着地地点を合わせて氷を飛ばす。ミカはそれを槍で叩き落す。距離が出来た3人は隙を作らないために止まる。

 誰も動かない状況が10秒続くと、地面からボコボコと音がし始め、ツタが出てくる。ミカはツタに捕まらないように横に跳ぶと、セレスはそれに合わせて氷を飛ばしてくる。ミカは槍で氷を叩き落してから高速移動を使う。

 アルドレッドはすぐさまセレスに向かって声をかけるが間に合わず、ミカはセレスの真後ろに現れる。セレスは魔力感知を使い後ろだと分かり振り返るが既に遅く、ミカに槍の柄で攻撃されて、動けなくなっている生徒の所まで飛ばされてしまう。ただ、セレスもただではやられるつもりは無く、ミカの足に向かって正確に氷を飛ばす。ミカは避けることが出来ずに被弾する。衝撃は抑えられていたが、痛みで走ることが出来ないくらいの衝撃だったため負担を考えると高速移動を使うことが出来なくなった。ミカは痛みに耐えながらアルドレッド達の動きを注視する。

 セレスは攻撃された腹を抑えながら立ち上がると、アルドレッドが近くまで移動する。

 ミカは隙をついて攻撃したいが、足のことを考えると、容易には攻撃できなかった。


「行けるか?」


 アルドレッドがそう言うと、セレスはミカに聞こえない声で返答する。そして2人が動けなくなっている生徒をチラッと見た瞬間、ミカは負傷していない足を使い跳んで、柄でアルドレッドを攻撃する。だがアルドレッドは油断しておらず、剣で槍を受け止める。


「話し中だったんだが?」

「1人ですからこれくらい許して下さい!」


 ミカはアルドレッドに向かって連続で攻撃をし始める。セレスが加勢しようとすると、ミカはアルドレッドを攻撃したままノーモーションで雷をセレスに向かって撃つ。威力も正確さもかなり落ちているがセレスへのけん制にはなり、セレスは簡単には攻撃できなくなる。


 ミカとアルドレッドが攻防を続けるうちにセレスから離れて行く。戦況は、一撃をくらい、隙をついては加勢しようとする上に、動けずにいる生徒を攻撃するセレスをアルドレッドと戦いながら止めるミカが不利で、体力と魔力が無くなっていき、だんだんと動きが悪くなり、肩で息をするようになる。


「まだいけるか?」

「まだ、やります。絶対に勝ちます」


 息も絶え絶えになりながらミカは勝つと宣言した。それを聞いてアルドレッドは不利な状況でも諦めない精神に嬉しくなり、心の中で笑顔になりながらミカに向かって一直線に走る。


「きゃ!?」


 不意にアルドレッドの後ろから悲鳴が聞こえたためアルドレッドは悲鳴がした方向を見る。すると、セレスが杖の持っている側の手を動けなかった生徒に引っ張られていた。生徒はセレスを場外にするつもりなのだろう。

 動きが止まり、セレスの所に向かって走り出すアルドレッド。その背後にはミカの姿があり、槍を振り始めていた。


 ドンっと大きな音がしたため観戦してた者達が音のした方を見ると、ミカがアルドレッドの背中に向かって振った槍が、いつの間にか納刀した剣で後ろ手に止められていた。


「良い作戦だったが、守りすぎたな」

「うわぁ!」


 ミカがアルドレッドから離れてセレスの方を見ると、セレスは男子生徒を転ばせて、杖を向けていた。


「そんなに守るから何かあると読んでたんだが、まさか最初から演技だとはな。気づかなかったぞ」

「…やっぱり守りすぎでしたよね」


 ミカがそう言うと、男子生徒はどうしたらいいのか指示を仰ぐ目でミカのことを見る。

 ミカは自分の状態を考える。体力から考えて魔法を入れて戦っても、アルドレッドを相手にすることも隙を作ることも不可能。その上セレスが援護で攻撃してくる。もしもセレスと1対1で魔法で戦うとなっても、技量で負けているため途中で撃ち負ける。今の体力の無い状態で近接戦に持ち込めても負ける。そう考えたミカは降参するしかなかった。


「…降参します」

「生徒側の降参を確認。よって教師側の勝ち」


 ミカは疲れから、舞台から下りるとその場に座り込む。残っていた生徒はセレスに手を引っ張られ立ち上がると、場外に座っているミカに近づく。


「ア、アルゲーノスさん、ごめん。最後しっかり先生を場外にもってけてれば…」

「んーん。私たちの作戦よりも先生たちが上手だったってことだよ。今回の負けを無駄にしないようにこれからも頑張らないとね!」


 そう言ったミカに対して、男子生徒はお礼を言って離れた。


「お疲れ様」

「ありがと。ちょっと作戦が甘かった」

「即興で考えたとなるととっても良い作戦だったと思うよ?俺だったら浮かばないよ」

「そうかな~」


 ミカはカイに褒められたのが嬉しい気持ちと、アルドレッド達に負けた悔しさが心の中で入り混じった状態になった。


「次は俺たちが勝とう」

「…うん!」


 先程まであった気持ちは消えないながらも薄れ、ミカは『次こそは勝つ』と言う気持ちが強く出ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る