6章 冤罪と脱出
第122話
カイとルナの模擬戦から数日が経ち、ルナたちは帝国に帰国する日となった。
ルナは何とか時間を作り、近くに来ていたカイとミカに会いに来ていた。
「わざわざ見送りに来てくれてありがとうね」
「いいのいいの!また一緒にお買い物に行こうね!今度は帝国で!」
「絶対に行こうね!カイは帝国に来たらしたいこととかある?」
「うーん…。俺はダンジョンに行ってみたいかな~。王国とどこまでモンスターが違うか気になる」
「なら、私がいつでも入れるように手配しとくね」
「私も!」」
「うん、ミカの分も準備しておく。3人でまた一緒にダンジョン探索しよう!」
「うん!深い所まで行こう!」
ルナはミカとは抱き合って、カイとは握手をして馬車の方に向かって行った。
「また3人でいろんな所に行きたいね」
「そうだね」
ミカに話しかけられ簡単にカイが返した後で、2人はその場から移動し始めた。
ルナたち帝国の一団が帰国してから1週間が経った今日、総合第一学園では各授業ごとに進級テストを受けていた。
冒険者体験の授業では前回同様に模擬戦なのだが、内容が変わっており、今回はアルドレッドとセレス、2人相手にランダムで組まれた2人組で戦うと言う内容だった。
生徒達は勝てるわけがないと言ったが、アルドレッドが「お前らが勝つのが目的じゃない。俺たちがしっかりとお前らの技量を測ることが目的だ。負けたからと言って落としはしないから安心しろ」そう言うと生徒達は全員黙った。
さっそく生徒達の組み合わせが発表されていき、カイとミカは名前も知らない生徒と組むことになった。
「知らない人と組んだ奴もいると思うが、冒険者になったら急遽組むこともある。事前練習だと思ってくれ。じゃあ、作戦会議してくれ」
アルドレッドがそう言った後で、各々組む生徒で集まり始めた。
「無能かよ…。この前の模擬戦でどんなことして勝ったか知らねぇが、俺の足を引っ張るなよ」
カイの相手は最初と最後に舌打ちをしてすぐに友達の所まで行ってしまった。
(…作戦会議どうするの?)
カイはその場に1人残された。
カイ達が最初に戦うことになり、2人はアルドレッド達に近づく。カイは今回アルドレッドの時は剣を、セレスの時は魔法を受け止める物が無いため、仕方なく剣を持って来た。そして今日はセレスも戦うことになっているために、暇だった教師を1人連れて来ていた。
「お前ら準備は良いな」
やる気が無いのか、ダルそうに審判をする教師が言うが、カイはしっかりと返事を返す。ペアの生徒は聞こえているはずなのに、何も態度に示さない。教師はそんなこと気にしてないのかアルドレッド達の方を見る。
「先生たちも良いっすね?」
「あぁ、始めてくれ」
「では、始め」
審判の合図でカイは一歩後ろに下がり状況を見ようとする。
「うぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおお」
すると、ペアの生徒が無策にも、剣を上に振り上げた状態でアルドレッドに向けて走り始めた。カイは急いで生徒に向けて走りだす。アルドレッドとセレスは碌に作戦会議をしていないのだと分かりがっかりする。アルドレッドは剣を受け止める。以前までは受け流されていたため、生徒は腕が上がったと勘違いをし、興奮からか周りへの警戒をおろそかにする。生徒の次の攻撃をアルドレッドは同じように受け止める。その瞬間セレスが横から氷の塊を飛ばした。
アルドレッドが剣を受け止めたのは技量を確かめるためであって、受け流せなかったからではない。もう一撃を何もせずに受けたのはもう片方の敵を警戒出来ているかどうか確かめるためだ。そのことに気づかない生徒は横から魔法が飛んできていることにも気づかない。
だが、氷は生徒に当たらず、途中で砕けて地面に落ちた。当たったら相手の意識を飛ばすほどの威力があった魔法が撃ち落とされたことに、普通だったら驚いていたかもしれないが、アルドレッドもセレスもこうなると予想していた。
「やっぱり、カイがカバーするわよね」
「いきなり突っ込むのは予想外でしたけどね」
カイとしてはそのままペアがやられてもよかったのだが、2対1で魔法無しとなると、絶対に勝てないためペアに足止めをしてもらうことにした。
「カイとしてはあの子にアルドレッドの足止めをしてほしいのかしら?」
「足止めだなんて思ってないですよ」
カイはそう言ったが、明らかに嘘だとバレていた。
「まぁ良いわ。アルドレッドが足止めされている内に倒せると良いわね!」
そう言ってセレスはカイに向かって容赦なく氷を撃って来た。カイが避けると、避けた先に氷を撃ってくる。カイはそれをジャンプして避ける。
時々氷を叩き切って対処しているが、経験の差でカイは近づけずにいる。全力のカイならば既に近づいて接近戦に持って行っているが、今は周りに生徒がいる。そのため、魔力を纏う以外は使えない。そして、極力魔力を纏うのですら使いたくないため、使わないで活路を見いだせるか伺っていたがセレスには全くと言っていいほど隙が無かった。カイがアルドレッドの方をチラッと見ると、生徒は背でに肩で息をしており、早く決着をつけないとアルドレッドもこっちに来る状況だった。
カイは諦めて魔力を纏う。
「さすがにそれだと接近されるから、こんな手も使うわ!」
セレスは氷を2つ生み出し飛ばす。片方はカイに向かって飛ばし、もう片方はアルドレッドと戦っている生徒に飛ばす。生徒の方はアルドレッドしか見ておらず、またもや魔法に気づかない。
カイはすぐさまアルドレッドの方に走り出し、氷を叩き落す。再度セレスの方を見ると、氷を左右から撃ってくる。カイはそれをしゃがんで避けると、カイの真上で氷と氷はぶつかり砕けてカイに氷の欠片がたくさん落ちてくる。
カイはそれでもセレスの方に集中していると、後ろから足音が聞こえたため、横に転びながら離れる。
「しっかり警戒出来てるな」
カイが先程までいた所を見ると、アルドレッドが立っており、生徒は場外で座っていた。
「ここからは俺も参戦させてもらうぞ」
「アルさんと戦うなんて楽しそうですね」
口では強気なことを言っているが、カイの額からは汗が大量に出ていた。
「容赦なく行くぞ」
そう言ってアルドレッドはカイに向かってツタを伸ばす。カイが捕まらないように逃げると、逃げた先にセレスが氷を撃つ。カイはそれを剣で叩き落す。これが数回続く。
これが舞台でなかったら完璧なのだが、カイはだんだんと逃げる場所が限られていき、舞台の端まで追いつめられる。
「そのままだと場外になっちまうぞ」
アルドレッドが話しかけるが、カイは返さない。否、返せない。それほどまでに追い込まれているのだ。
「余裕が無いみたいね。しっかり避けるのよ!」
セレスがカイの上半身に当たるように氷を放ち、アルドレッドが地面を這わせ、捕まえるためにツタを伸ばす。
カイは前に向かって大きく跳びながら、剣を盾にするように構える。しっかりと剣の側面に氷を当てること出来て、ツタを避けることが出来た。だが氷は今まで以上に威力が高かった。そんな物を空中でくらってしまえば、後ろに飛ばされてしまう。
カイは成すすべなく後ろに飛ばされる。飛ばされたと言ってもカイは体勢を崩すことなく両足で着地することが出来たが、足がついた場所は場外だった。
「生徒両名場外。よって教師ペアの勝ち」
審判は先程までと変わらないダルそうな声で勝敗を宣言した。
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