第121話


 ダンジョンでの出来事から数日が経った。あれから追われることも無く、平和に過ごしている。最初はカイもミカもルナも、あんな性格だったとは言え、カイとミカは知っている人を、ルナは初めて人が亡くなるところを間近で見たことで落ち込んでいた。だが、自分達は人を殺したと言う十字架を背負ってでも生きて行くと3人で決めてから落ち込むのを止めた。最初はぎこちなさもあったが、決めてから2日も経てば元に戻った。

 そしてルナが帝国に帰るまであと1週間も無い状態になっていた。


「ルナは帰ったら何するの?」

「そうね…。自分の実力不足が分かったから、帰ったらさっそく特訓するかな」


 ルナは遠くを見ながら言うと、真っすぐカイを見た。


「カイ、帝国に帰る前に私ともう1回戦ってくれない?」


 カイもミカもそんな言葉が飛んでくると思っていなかったため驚く。


で勝ちに行くからね」

「三度目の正直だから」


 2人は不適に笑い合い、ミカも隣で結果がどうなるのかとワクワクしていた。




 ルナが帰国する前日。学園の演習場にはカイとルナはもちろんのこと、ミカ、アルドレッド、セレスがいた。目に見える範囲には5人しかいなかった。

 カイは遠くに2つの魔力を感知していたが、その片方が白ローブ特有の物だったため、近くにいるもう1つの反応は白ローブの仲間なのだと思うことにして、警戒するのを止めた。


「今日は勝つから!」

「負けないよ」


 審判はセレスが担当することになっており、ミカとアルドレッドは遠くで見ている。


「カイ、ここには私たちしかいないから全力で戦って大丈夫だから」

「はい。俺も今日は全力で戦うつもりできました」

「そうね。ルナも頑張って」


 ルナが返事をすると、セレスは少し離れた場所に移動し2人を見る。

 カイはいつも通り無手で真っすぐルナを見る。ルナは直剣を構える。


「模擬戦、始め!」


 セレスの掛け声と同時にカイが走り出す。カイは走りながら手に氷を纏う。ルナはカイに向かって水の塊を2つ同時に放つ。その2つはしっかりと操作されており、真っすぐカイに向かって飛んで行く。カイはそれを氷の手で防ぐ。氷の表面が一部崩れ落ちるが、すぐ元通りになる。ルナは砕けなかったことに悔しそうにしていたが、すぐにまた水の塊を1つ飛ばす。カイは近づきながら、今度は地面に叩き落す。すると、その水の塊のすぐ後ろに闇があった。カイはそれをスライディングすることで避ける。そのころには既にカイはルナの近くまで寄っており、剣の届く距離にいた。そして、カイがスライディングすることが分かっていたのか、ルナは剣を振り下ろす。カイは手をクロスさせてルナの剣を受け止める。


「何で下から来るって分かったの?」

「最後のはカイの頭目掛けて撃ったの。普通は横に避けると思ったけど、カイならしたから来ると思って勘で振ったけど当たってよかった!」


 そう言ってルナはカイのことを3回連続で切りつける。その剣筋はカイがこんなのでやられることは無いと知っているためか容赦がない。ルナの予想通りカイは最初の2撃を氷の手で受け止め、最後は避けて距離を取る。


「本当に容赦ないじゃん!」

「カイだったら今の当たらないでしょ?それに勝ちたいから!」


 今度は、ルナがカイに向かって走り出す。カイは両手を前に出して伸ばす。その手は不規則に伸びて、どこから飛んでくるか予想が出来ない。ルナは分からないならとそのまま真っすぐ走る。片方の腕が目の前から飛んでくる。ルナはそれを当たる寸前で一歩横に動く。ルナは思惑通り氷の手を避ける。避けた所でもう片方の手がルナの横から飛んでくる。ルナは魔力を腕に溜めてからジャンプして避ける。カイはてっきり魔法を撃って対処すると思っていたため、少し動きが止まる。


「このまま帰ってくるって分かってるから!」


 そう言って、ルナは剣で伸びている腕を斬りつける。だがいくら魔力を纏っている剣だったとしても、カイがしっかりと操作している氷を真っ二つにすることは出来ず、ヒビが入る程度だった。


「硬くない!?」

「斬られたら困るからね!」


 そう言ってカイは氷をもとに戻し、再度伸ばし始める。伸ばしている手はルナの背中を捉え、掴もうとする。ルナは魔力感知を使い、すれすれでしゃがんで避ける。

 するとカイは伸ばしていた氷の腕から自分の腕を抜き再度手に氷を纏わせる。氷を纏わせるとルナに向かって走り出す。

 しゃがんだ状態のルナはカイが剣の届く距離に来たら下から剣を振り上げる。だがその剣は何も当たらず、思い切り振ったルナは剣をすぐに戻せない。

 カイが鋭い氷の爪をルナの首元に近づけて止まる。


「カイの勝ち!」


 セレスが勝敗を言ったためカイは氷の手を元に戻し、ルナに向かって手を伸ばす。


「完敗だわ。もっと強くなったら再戦してもらうから!」

「次も俺が勝つよ」

「待って!次にルナと戦うのは私!」


 勝敗がついて、いち早く2人と話したかったミカは高速移動を使いカイとルナの隣に現れる。


「今度会った時はルナにも負けないから!」

「私だって負けるつもり無いからね!」


 そんな3人をアルドレッドとセレスは嬉しそうに眺めていた。




「どうでしたか?」

「うむ、すごく強いの。だが私は負けるつもりはないぞ!」


 学園の演習場から遠く離れた場所で白ローブと、王国と帝国の生徒同士の模擬戦で皇帝と一緒にいた少女が屋根の上で座って話していた。2人の手には望遠鏡が握られていた。


「ところで、お主はいつ帰ってくる予定なのじゃ?」

「調べたいことは調べたので後は後任の者に任せます。あそこにいるカイ君が帝国に行く時に私も帰国します」

「お主が生きてたとなると、あ奴らが騒ぎそうじゃの」


 いたずらっ子の様に少女はニヤニヤする。白ローブの顔は見えないが、笑い声が聞こえる。


「そうですね。皆が慌てる姿を見てみたいですね」

「そうじゃの。それにあの子も会いたがっておったぞ」

「もう15年以上会って無いですからね…。私も会いたいです」

「私からそう言っておくの」

「お願いします」


 少女は立ち上がって屋根から屋根に飛んでその場を離れた。白ローブも魔法を使ってその場からいなくなった。

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