第120話


 ダンジョン探索が終わって、カイ達は検問所にいる兵士に帰還したことを報告する。


「確認した。帰って大丈夫だ」

「お勤めご苦労様です」


 セレスがそう言って全員で離れた。




「にしても帰ってこないな」

「ん?あの貴族様達のことか?」


 カイ達5人は離れたところで、兵士たちが結構前に入って行ったバーシィ達のことを思い返す。


「あの3人が入った後で、学園の生徒が多く帰って来たよな?」

「冒険者もな。もしかしてダンジョンで何かするつもりか?」

「無いだろ~。ダンジョンになんかしても意味無いって」

「それもそうだな」

「お、誰か帰って来たぞ?噂の貴族様かもな」


 兵士たちは帰って来た者を確認する。ダンジョンから出て来たのはバーシィ達では無く、1人の男だった。


「ん?あんたちょっと前に入った奴だよな?なんかあったか?」

「いや~。なんか貴族様に「俺たちが探索をしてるのだ!邪魔だ!ダンジョンから出ろ!」って5階層のボス部屋前で言われまして…仕方なく帰って来たんですよー…」


 そう言った男の顔には「困ったな~」っと書いてあるようだった。


「それは災難だったな…。まぁダンジョンは逃げねぇからまた来れば良い」

「そうします」


 そう言って男は冒険者カードを受け取りダンジョンから離れる。


「さっき言ってた貴族様ってあの3人組の方たちのことだよな?」

「そうだろうな。あの男はついてなかったな。それにしても5階層か…。モンスターにやられないと良いんだが…」


 兵士たちは今日も見張りの仕事をする。バーシィ達3人の許可証と先程の男の冒険者カードがだと気付かずに。




 先程貴族に追い出されたと言った男は兵士たちが見えない所までくると森の中に入る。そして周りをキョロキョロして誰もいないことを確認する。


「誰もいないね」


 そう言うと男の姿が一瞬で変わる。体つきが女性のものになり、髪も長くなり後ろで1つにまとめられた姿になる。顔には仮面がつけられていた。


「後処理完了。これは貸し1つにしても良いかな、カイ君?」


 そう言って女は魔法道具マジックアイテムの袋から白いローブを出し、慣れた手つきで着る。白ローブは街の方に向けてゆっくり歩き出す。




 人が100人は入れるのではないかと思われる部屋に椅子が一個だけある。その椅子には踏ん反り返りながらとても太っている男が座っていた。男は目の前に片膝をついて頭を下げている男達を見下した目で見ている。


「ふ~ん。これからも警備しろ」

「はっ!王子の仰せのままに!」


 そう言って1人の男が後ろに下がる。

 今王子の前には3人の男が残っていた。


「次、研究所。博士」

「はい」


 そう言って博士と言われた男が顔を上げる。その男はカイが追っているローブ男だった。


「まず、モンスターの軍事利用ですが、あと1~3年で目途が立ちそうです。やはり野生よりもダンジョンの方が数十倍効率的です。ダンジョンから出せる技術があればいいのですが…。ウォッシュの洗脳を使ってもダンジョンからモンスターを出すことはできませんでした。また、モンスターの知能が足らず、魔法道具マジックアイテムを使った転移は出来ませんでした」

「ふ~ん。博士の研究は凄いけど、遅い。

「はっ!」

「分かったなら下がれ」

「お待ちください王子」


 博士に止められた王子は不機嫌な顔になるが、博士への信頼が高いのか博士の言葉を待つ。


「この前改造したキッドですが…」

「キッド?…博士が改造した奴か。それがどうした?」

「交戦し、死亡しました。またウォッシュも重症で今治療をしています」


 博士の報告に王子が椅子の膝置きを叩く。


「何?!…いつやられた」

「帝国の生徒と模擬戦をした初日でございます」

「ってことは帝国か。やってくれたな」


 そう言った王子の顔は笑っていたが、怒りがにじみ出ていた。


「いえ、戦ったのは帝国の者では無いです」

「…なぜだ?」

「治療する前にウォッシュから戦った相手のことを聞きました。相手は総合第一学園の生徒。1年のカイと言う者です」


 博士が言った瞬間、この部屋にいる全員の視線が博士の隣にいる男に集中する。博士の前で膝をついているのは総合第一学園の学園長だった。


「ふ~ん。この前の模擬戦で帝国に勝った片割れか」

「学園長と話してもをよろしいでしょうか?」

「話せ」

「学園長、私はあなたの学園がダンジョン探索をしたときの報告書でカイの監視を要請しましたが、どうしていたんでしょうか?」

「そんな報告なかったはずだが?そちらの失敗をこちらに押し付けないでほしい」


 強気に出て、博士のことを睨む。だが、博士は気にせずに王子の方を見る。


「学園長、その要請書を私も見ている。報告書を見てないのか?」


 王子の言葉で学園長の顔が真っ青になる。そして、報告書の最後の部分を読まずに燃やしたことを思い出す。


「その顔だと思い出したみたいですね。もし、あの時からカイを監視できていれば、帝国の学生の情報収集と洗脳が出来たかもしれないんですが」


 あの時、ウォッシュともう1人、ジェルと言われた者が出されていた命令は、帝国の生徒の情報収集だった。そして見込みのある生徒がいたら洗脳する予定だった。だが帝国の生徒達は常に騎士に守られており、手出しができなかった。博士はそれを隠したまま話しを続ける。


「ウォッシュが使えない以上、モンスターの軍事利用がかなり遅れます。どうしてくれるんですか?」


 そこまで言うと、学園長の顔は真っ白になり、何も言え鳴くなる。


「話しは終わったな」

「ま、待ってください!チャンスをください!」


 学園長は王子に願い出る。王子はそれを見て口端を吊り上げる。


「何でもするな?」

「はい!なんとしてでも名誉挽回いたします!」

「博士、学園長を好きにしろ。研究所に連れてけ」


 言われた学園長は唖然とした顔になり、固まる。固まっているうちに後ろに控えていた騎士が学園長を拘束して部屋から引きずりだそうと移動し始める。


「お、お待ちください!わ、私はまだ…」


 学園長が言い切り前に扉が閉じられ声は聞こえなくなった。


「最後に王子から頂いた転移の魔法道具マジックアイテムですが、ウォッシュが離脱するために1つ破壊してしまいました」

「そんなに追い込まれたのか。それは不問にする」

「ありがとうございます」

「とにかく、あの反抗的な目を持った気に入らないガキは処分する。内容はこの後会議する。考えておけ」

「はっ!」


 博士と後ろにいる者達が返事をする。

 最後に王子は残っている男を見る。


「最後に帝国の情報を教えろ、


 呼ばれた男は今まで下げていた顔を上げ、王子のことを真っすぐ見る。

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