第160話
カイが驚いた顔で固まっていると、騎士達から声が上がる。
「フ、フラージュ様だ…」
「本物だぞ…」
「生きておられた。副団長は生きてたぞ!!」
誰かがそう言うと泣いていた騎士達が騒ぎ出し、分かっていなかった者達も名前を聞き状況を理解する。
「カイ君ごめんねー。任務の関係で言いたくても言えなかったんだ」
「ほ、本当にフラージュさんですか?ほ、本物」
「本物本物。ミカの母親のフラージュ」
騎士達が騒ぎすぎているためにカイ達の会話は他の者達に聞こえていないのを良いことにフラージュがカイに話しかける。
驚きすぎて状況理解が出来ない中、カイは壊れた機械の様に顔をミカの方にゆっくり向ける。するとミカは仮面の前で手を合わせて謝っていた。
「し、知ってたの?」
「ごめん。私がラウラさんの家で話そうとしたのがこのことなの。お母さんに言わないでって言われちゃってて。ホントにごめん」
カイが今度はフラージュの方を見ると、フラージュもミカと同じ様に顔のまで手を合わせていた。
「ほ、本当にフラージュ副団長なのか?」
アルドレッドと似たようなガタイの男がゆっくり一歩一歩フラージュに向けて泣きながら歩いてくる。
「ちょっと、偽物なんているわけないでしょ?」
「あ、あの生意気のフラージュなのか?」
「生意気って何よ!元とは言え副団長だよ!敬いなよー」
フラージュがそう言うと、男は粗々しくフラージュの頭をなで始めた。
「生きてたのか。マジで死んだと思ったぞ」
「痛いって。私ももう30過ぎだよ。頭なでないで!」
「そう言うなって」
男がフラージュの頭をなでるのはナキャブが止めるまで止まなかった。
フラージュが生きていたと分かりならば隣にいる2人は何なのかとなり、今度はカイとミカに視線が集まる。
「フラージュさん良いですか?」
「分かってる。2人とも外して良いよ」
フラージュに言われ、カイとミカはつけていた仮面を取る。カイの顔を見てもほとんどの騎士が驚かなかったが、ミカの顔を見て驚く。
「フラージュ様に似てる…もしかして」
「いや、マジか!?」
騎士達が動揺している中で、ミカがフラージュに背中を押される。顔を見ると自己紹介をしろと言っているようだった。
「初めまして、王国に居りましたフラージュの娘のミカと申します。帝国に移民してまいりました」
騎士達は驚きを隠せない様子で今にもミカに色々聞こうとしているが、先にカイのことを知るためにカイに視線を向ける。
「俺はフラージュさんの息子ではありません。今回ワケアリで帝国に亡命することとなりました、カイです」
先程まで驚いていた全員の顔が真剣な物に変わる。すると先程フラージュの頭をなでていた男がカイの前に来る。
「坊主、亡命っつったな。何したんだ」
カイは目線だけをチラッとフラージュに向ける。
「話して良いよ。たぶんミーチェみたいに笑う人はいないと思うから」
「ちょ、ちょっとなんでみんな私を見るんすか?仕方ないっすよ。私の笑いのツボが浅いのは皆知ってるでしょ?」
「王都で『帝国の皇子を誘拐』した罪で投獄されたところを逃げて来たんです」
カイがそう言うと騎士達は何言ってるんだと言いたげにしていた。カイが視線をルナに向けると、ルナは隣にいる皇帝らしき人に何か話している。
「ドンさん、彼が言ったことは本当ですよ」
カイに話しかけた男性にそう言った後で、ナキャブは大きく息を吸う。
「今日、皆に話したかったのはフラージュ元副団長が生きていたことだ。そして帰って来てそうそうだが、彼女は騎士団を抜ける。そして皆にはフラージュ副団長は生きていたことを自分から話すようなことはしないでもらいたい。以上解散だ。持ち場に戻ってくれ」
さすがは近衛騎士団なのか、ナキャブの言葉で全員が冷静さを取り戻し、部屋を出て行く。アルドレッドとセレス、ミーチェ、リングも出て行こうとしたが、ナキャブが止めたため部屋に残った。
全員が出て行ったところでルナがカイとミカに勢いよく抱き着いた。カイとミカは驚きながら抱き返す。
「2人とも大丈夫だった?!王都で何があったの!?」
「ルナ落ち着きなって」
先程までルナの隣にいた女性がルナのことをカイとミカから引きはがす。
「私はサラ=バザルド。この子の姉ね。急にごめんな」
「お2人とも、お話しはお待ちくだされ」
皇帝陛下の後ろに待機していた宰相がカイとミカに近づく。
「私は宰相を務めているチェンです。略称なのですが、本名は長いですのでチェンと呼んでくだされ。次に、こちらがここ皇帝陛下であられるザールド=バザルド皇帝でおられます」
カイとミカは膝をつき頭を垂れる。
「ここは公式の場ではないのだ。そこまで硬くならなく良い。楽にしてくれ」
「そうですぞ。次にですが、こちらがサトレア皇后さまでございます。あと1人紹介したい人がいるのですが…」
「すまぬ。遅れたのー」
勢いよく扉が開かれるとそこには、カイ達が帝国の一団が来た時に注目した黒髪の少女だった。
「私はシャリアじゃ。2人ともよろしくの。特にカイ」
カイは容姿と、発せられる空気から彼女が只者ではないと分かる。そしてある予想を立てる。
「ラウラから話しをよく聞いておる。戦うのを楽しみにしておるぞ?」
彼女がラウラの親友で、ラウラに近接戦ではかなわないと言わせた人なのだと理解したカイは無意識に口角が上がっていた。
そしてシャリアの後ろには、カイとミカが見慣れた人が立っていた。
「リア、置いてかないで。城の中は迷う」
「お主なら感知で簡単に分かるであろう」
「そう言う問題じゃない」
「じゃあ、どういう問題だと言うのだ?ほれ言うてみ?」
言い合いをしながら部屋に入って来たのはラウラだった。
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