第159話


 城に向かう中で、ミカは白ローブの妹と言うリングのことが気になったのか話しを聞き始めた。


「リングさん、白ローブさんのことを姉さんって言ってましたけど、昔は白ローブさんってどんな人だったんですか?」

「うん?あー、言えないこともあるんだけどねー。私と姉さんって同じ孤児院で育ったんだよ」


 前にいるナキャブと白ローブは2人きりで話しており、こちらの話しは聞こえていなかった。

 全く予想をしていない白ローブの出生にカイとミカが驚く中、隣にいたミーチェも驚いていた。


「ミーチェちゃんも知らなかった?」

「はい。先輩は自分のこと話してくれませんから。聞いてたのはリング先生が妹ってことだけっす」

「姉さんは小さい頃に孤児院に来た前任の団長にスカウトされて兵士になったんだよ。その団長って言うのがさっき出て来たシャリアさん。小さかったから最初は訓練だけだったって言ってたなー。それから力をつけて近衛騎士団に入って、王国に潜入任務。そこまでしか今は話せないかなー」

「じゃあ、白ローブさんとシャリアさんって」

「うん。血はつながって無いよ。ただ普通の姉妹よりは絆が深いと思ってるよ」


 これで話しが終わりだとカイとミーチェは思ったが、ミカはまだ聞きたいことがあった。


「白ローブさんとリングさんってどうゆう経緯で孤児になったんですか?」

「ミカ!?」


 踏み込んでも良いか分からない質問を聞いたミカにカイは驚いた。カイが止めようとしたが、リングが待ったをかけた。


「大丈夫だよ。もう割り切ってるから。私は小さい頃、7歳くらいの時に親に捨てられちゃったんだ」


 聞いてはいけないことだと思いミカが謝ろうとしたところでリングは話し続ける。


「捨てられたショックで話せない中ずっと話しかけてくれたのが姉さんなんだー。それに後で分かったことだったけど、捨てられたんじゃなくて『預けられた』だったんだ。親は病気にかかってたみたいでね。悲しませないために黙ってたみたい。私の勘違いだったんだよね。どこからその情報を掴んできたのか分からないけど、それも姉さんが教えてくれて。姉さんと一緒に最後を看取ったんだ。懐かしいな~」

「そんなことが。昔からすごかったんですね…」

「うん、すごかった。ほんと、巻き込まれることもたくさんあったけど楽しかったねー。…それよりも姉さんのことだよね。姉さんは赤子の時から孤児院にいたって。生まれてすぐに孤児院の前に置いていかれたってことしか知らないよ。だから私がいた時には既に『みんなのお姉ちゃん』って感じだったよ」

「そんな過去が…」

「結局この後色々分かるから、その時に本人に聞けば良いよ」


 リングの言葉にカイが頷く中、ミカは1人何か考え事をしていた。




 城壁に着くと、もちろん兵士達がいたがナキャブのひと言だけで簡単に入ることが出来た。そうして、目的地に着くまでカイは周りの様子を見て、王国とはやはり違うのだと感じていた。

 兵士の量はもちろんのこと、何かは分からないが一定間隔で壁に魔法道具マジックアイテムらしき石が埋め込んであるのだ。


「あの壁に埋まってる石って何なんですか?」

「あれは侵入者がいたとき用の魔法道具マジックアイテムっすね。あれに魔力を流すと、警報音が鳴り響くんすよ。その上、どの魔法道具マジックアイテムが発動したかを確認できる物っす。まぁ侵入者なんていたこと無いっすから使った所を見たのは訓練の時だけっすけど」

「かなり大きな音が鳴るからビックリするよー」

「そうっすね。知らないで聞いたら跳ねるっすよね」


 どのくらいの大きさなのか知っている2人は笑っているが、知らない2人は頭にハテナを浮かべるしかなかった。


「お2人とも、そろそろ会議室に着きますよ。しっかりしてください。2人には先に入って待機しててもらいますからね」

「分かりました」

「分かったよー」


 言われた2人は笑うのを止める。今までナキャブの隣にいた白ローブは後ろに下がり、カイとミカの横に着く。


「私達3人は声がかかるまで外で待機にね。私から入るからついて来てね」


 どうすればいいか分かった2人が頷くと、リングがナキャブに話しかけている所だった。


「そーだ、キャブ、今日は何食べたい?」

「リングさん、ここは城です。私語は慎みませんと」

「良いじゃん。それよりも、何食べたいか言ってくれないと晩御飯何作るか決まらないんだけどー?」


 2人の会話にカイとミカ、ミーチェが驚いている中、白ローブがその場で立ち止まる。


「ふ、2人の関係は、ど、どうゆうものなのかな?」


 白ローブが動揺しながら言うと、リングはナキャブの腕に抱き着き白ローブに視線を向ける。


「実は2年くらい前からつき合ってるんだー。姉さんには帰って来た時に言おうと思ったんだけど、姉さんは私に隠し事してるから驚かせるためにここで言おうと思ってねー」

「つ、つき合ってる!?2年前?!え!?」


 動揺している白ローブを見て、リングはしてやったりと笑い、ナキャブは顔に手を当てて項垂れる。ミーチェもこのことは知らなかったのか驚いている。


「姉さん。私に隠し事は無理だからねー?姉さんのことだったら大体わかっちゃうから」

「い、いや、隠してたんじゃなくて、話す機会が無かったと言うか…」


 白ローブが色々と言い訳を言いながら歩いていると目的地の会議室についてしまった。


「本当に隠していてすみません…。後でしっかり説明します。今は先程話した通りにお願いします」

「…分かりました。先輩、リン覚悟してくださいね」

「あ、あれ?やりすぎちゃったかなー?」


 先程言われた通りにミーチェとリングは苦笑いをしながら中に入っていく。それに続いてナキャブも白ローブ達に一礼をしてから入って行った。




 会議室には近衛騎士団と皇族と宰相が集まっていた。


 すると、ナキャブが入って来たことで騎士達の顔が真剣な物に変わる。ナキャブは咳払いをしてから話し始める。


「まだ1人いないが、時間だから進めさせてもらう。今回は今まで極秘で進めていた任務についての報告だ。実は約17年前からこの任務を進めていた。17年前、王国に情報が流れている疑惑があった。私達は秘密裏に王国にスパイを送りその実情を調べることにした。この前の兵士、騎士を捕まえたのはそこで手に入れた情報からだった」


 そんな計画を進めていたのだと知り、騎士達の顔は真剣な物になる。そして、アルドレッドとセレスは白ローブがその任務をしていたのだと理解した。


「その任に当たっていた者が帰還したために皆に紹介をしようと思う、入ってくれ」


 ナキャブがそう言うと、全員が扉に視線を向ける。

 扉が開けられ入って来た白ローブを見て、数人の騎士は涙を流し出す。しかし、白ローブのことを知らない者達は疑問を持った顔になる。

 ここまでは白ローブが生きていたことを知っていた者達は特に反応を示さなかったが、後ろにいるカイとミカを見て、ルナとアルドレッドとセレスが驚く。


「先程、ナキャブ団長が言った任務についておりました…」


 白ローブは今までずっとつけていた仮面に手を伸ばす。ここまで頑なに取ってこなかった仮面に手を伸ばしたことにカイは少し驚く。これにはアルドレッドとセレスも顔には出さなかったが驚愕する。


「元副団長のです」


 この言葉にカイは理解が出来ず、白ローブの顔を凝視する。

 仮面を取った白ローブは、以前からカイが見たことのあったミカの母親であるフラージュに間違いなかった。

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