第357話
「もう少しウォーミングアップしておきたいところだったが……。いつまでも遊んでいるわけにもいかんのでな。そろそろ終焉としよう」
喋りながら歩む管理人の顔は酷く冷たい物で、その視線をカイだけに向ける。視線はカイに向けていたが管理人の頭にはカイのことは全くなく、ただただ目の前にいる対象に新しく手に入れた『
楽しい楽しい
近づき足を止めた管理人がカイに向けて手を向ければ、膝をつき動かないカイを中心に球状に空間がゆっくりと歪みだす。歪みすぎて原型をとどめていないほどになりようやく口を開く。
「とてもつまらぬ物だった」
肩を上げ荒くなっていた呼吸も落ち着いていたが、その様子に気づかずに空間をゆがめ続ける。異様なまでに歪んでいた空間が一瞬で元に戻る。そこが勝負の分かれ道だった。いや、もしかしたら初めから決まっていたのかもしれない。
空間は元通りになるとそれ以上変化を起こすことなく、管理人が異変を感じたころには遥か上にいた。腹には赤い氷でできた氷柱が刺さっていた。
下にいるカイは膝に手をつきゆっくりと立ち上がる。腹など腕は傷だらけだったが、傷口を氷で覆うことで血が流れることを防ぐことができていた。
この空間はハルマが作り出した空間と似たような箇所があった。宙に舞う魔力の量だ。膨大な量の魔力が漂っていた。違いと言えば、ハルマの時は他人から魔力を吸うことで維持していた有限の空間。それに対して今いる場所は無限。いくら魔力を消費しても即座に生み出され補充されるようになっていた。
そんなことをカイは知らなかったが、いくら魔力を使っても減らないということだけは理解していた。
「お主は演技の才能があるようだ。すっかり騙された」
真後ろから聞こえた声に対して即座に回し蹴りを入れ対処しようとするカイ。管理人がそれを避けると最短距離、ただまっすぐ駆け出す。そのカイを尻尾の形に造形された岩の数々が襲い掛かる。
当たる寸前で上空に避けたカイは足場として氷を生み出し踏ん張る。
「氷で足場を作る。もう見たぞ!!」
カイが足場としていた氷が圧縮され消滅する。それにより下に落ちると思った管理人は下から突き刺そうと尻尾を動かす。だがその攻撃は宙を切る。
氷が消えたのに踏ん張ることができたカイは勢いよく管理人に向けて跳んでいき、その際に生み出した剣で容赦なく胴体を切りつける。その傷から血が流れることはなく、ただただ胴体に切り傷を作るだけだった。
胴体を切られた状態で管理人は首だけを動かしてカイのことを見つめる。
「どういうことだ」
その言葉にカイは反応することなく追撃を繰り出す。
この空間はとても便利な空間になっていた。攻撃されれば傷ができるが、体力が減ることはなく、魔力も減らない。その上、どこを足場にするのか自分の意志で決めることができた。
管理人の攻撃を避けるために足場と作り続けている時に気づくことができたのだが、攻撃を与えるチャンスになるのだと思い隠していたのだ。
追撃を繰り返すカイに対して、管理人は一つ一つ対処して避け続ける。当てることができずにいたが、カイは焦ることなく追撃を繰り返す。
「もう良いか?」
言うと同時に振り払ってきたため大きく後ろに跳ぶ。
態勢を整えるまで待った管理人が一歩、ただ一歩踏み出しただけで地面に崩れ落ちる。先程までは自分が上から見ていたのに、今度は逆に自分が見下ろされていることに怒りを覚えているのか、顔を強張らせ力の入らない腕と足でなんとか立ち上がろうとするがみじめな姿を晒すだけだった。
突然のことにカイは驚き警戒度を高め動かなかったが、藻掻く姿を見て徐々に近づく。
「こ、これは……」
呂律の回らない口で言葉を発するが理解できたのは最初の言葉のみ。そのあとは声を出すだけで言葉にはなっていなかった。
藻掻いていた管理人だが一度大きく跳ねるとゆっくりと状態を起こし始め後ろに沿った状態で止まる。その時に見えた表情は、口は開きっぱなしになっておりよだれが出続けていた。また目にも生気がなく焦点がどこにも合っていなかった。
その管理人の体、先程できた胴体の切り傷から灰色のよくわからない物が出始める。それと同時に管理人の体を変形、膨張していく。変化が始まって5秒ほどでもう原型が何だったのかわからない物になってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます