第134話


 本部の中にB隊の連絡係が入ってくる。


「団長、B隊配置完了しました」

「分かった。まもなく作戦を開始する。そう伝えてくれ」


 連絡係が出て行くと、団長は本部の外で待機しているA隊の前に立つ。


「作戦を開始する。ゴブリンを1匹も逃がすな!帝国を守るために!」


 事前に決めていた陣形でゴブリンの集落に向けて移動し始める。アルドレッド達はジェネラル以外との戦闘を少なくするため最後尾についた。




 しばらく進んだところで前の方が騒がしくなった。

 兵士達は走り出し、向かって来たゴブリンをどんどん倒していく。アルドレッド達も集落の中を目指して走る。

 他の騎士達を抜いて進んでいくと、集落の中から誰も相手にしていないゴブリンよりも大きく、普通のゴブリンならば使わない剣を持っていた。武器を持っていたため3人はすぐにゴブリンファイターだと分かった。


「私がやる。2人はそのまま進んで」


 副団長がそう言ったため、アルドレッドとセレスがファイターの横を素通りして集落の中に入っていく。

 ゴブリンファイターがそんなことを許すはずがなく、後ろにいたセレスに飛びかかろうとする。そんなゴブリンファイターに向かって副団長は冷静に魔法で風を生み出し、空中にいるファイターの首目掛けて風の刃を飛ばす。空中で頭が取れたゴブリンファイターは勢いはそのままにセレスを通り過ぎ、無抵抗のまま地面に落ちた。副団長は死んだことを確認することなく2人の後を追いかける。




 ゴブリンの集落に入ると、建物は数軒がすでに燃えており、ゴブリンの死体が山の様にあった。


「セレス!」

「このまま真っすぐよ!奥の方にいるわ!急いで向かわないと逃げ出すわよ!」


 セレスは魔力感知でより大きな反応がある方をアルドレッドに教えた。2人は反応のあった方に向かって走り続けると、10体のゴブリンが前から邪魔して来る。

 2人は一瞬止まり対処する。

 5体のゴブリンをアルドレッドがツタで拘束し、セレスは正確にゴブリンの頭を氷で貫いて行く。

 もう一度襲って来たため、対処すると副団長が2人に合流した。


「2人とも急ぐよ。逃げ始めてる」


 当初の予定では少しでも多くのゴブリンを倒してからジェネラルの所に向かうはずだったが、ジェネラルが逃げようとしているため作戦を変更して邪魔して来るゴブリンだけを倒すことに変更した。

 そう決めて進んでいくと、前から杖を持ったゴブリン、ゴブリンメイジが3体出てくる。


「アル君2体お願い!セレちゃんは残った1体を。私が魔法を止める」


 副団長が言い切るタイミングでゴブリンが炎を1番前にいるアルドレッドに向かって撃つ。アルドレッドはそれに気づくが防御することなく剣を構えて進んでいく。

 アルドレッドに当たる寸前で炎が全て消え去る。副団長が3つの炎よりも威力の高い風で撃つ消したのだ。


「グ、グギャ?!」

「ギャギャ!」

「ギュギャギャギャ!!」


 困惑したゴブリンメイジ達はアルドレッドが接近してきていることなど忘れて会話しだす。その隙に近づいたアルドレッドは2体のゴブリンメイジの首を同時に大剣で斬り落とす。それを見ていた残ったゴブリンメイジは理解できずに動けないでいると、胸に大きな氷が貫通していた。痛みを感じたのか、ゴブリンファイターは自分の胸を見るとその場で倒れて動かなくなった。

 アルドレッドは大剣に着いた血を振って落とすと納刀してセレス達に言われた方向に走り始める。




 その後も襲って来たゴブリンを瞬殺していくと、緊急用に作ったであろうと門からファイターとメイジ5体ずつと、ひときは大きなゴブリンが逃げようとしていた。


「前にジェネラルだ!間に合わない!魔法で足止めしてくれ!」


 そう言ってアルドレッドは走る速度を上げる。セレスと副団長は速度はそのままに持っている杖に魔力を溜める。


「セレちゃん作戦通りお願い!」

「分かってるわ!」


 副団長に言われ、セレスは門の出入り口に向かって大きな氷を撃って進むのを妨げる。

 副団長は3つ風の刃を作り、それをゴブリン達の首目掛けて飛ばす。それを4回繰り返すして全員倒そうとしたが、対処できたファイターが3体残った。




 残ったファイターをアルドレッド達の方に行かせるわけにはいかないため副団長は3体に向かって、風を飛ばしながら近づく。ファイター達はいつまでも飛んでくる風のせいでそこから動けない。

 副団長は1番近くにいたファイターの前に立つと、杖を額に向ける。攻撃が止んだことで、ファイター達は前を見る。副団長はその瞬間、杖に溜めていた魔力を解放する。すると杖の先端に強風が生まれ、ファイターの頭に向かって飛んでいく。その風は容赦なく頭を吹き飛ばす。頭が無くなったゴブリンは背中から倒れる。

 残ったファイターは仲間が倒されたことなど気にせずに副団長に跳びかかろうとする。副団長は片方のファイターに向かって杖を向けて強風をぶつける。当たったファイターが柵まで跳んで行く。ファイターは運悪く柵に頭からぶつかったため、首の骨が折れて死んだ。

 副団長は残ったファイターの攻撃を避けるために後ろに跳ぶと、ちょうどその地点にファイターが着地した。剣を横に振って斬ろうとして来るが、副団長は杖を持っていない手をファイターの剣を持っている手に向けて、風の刃を飛ばし手を斬り落とす。

 ファイターが痛みで悲鳴を上げる中、魔法で首落としやっつけた。




 副団長が3つずつ風の刃を作ってメイジとファイターを倒している頃、ジェネラルはセレスが作った氷の障害物を持っている大剣で壊そうと何度も殴っていた。

 中々壊れない氷に苛立ちを抑えきれず叫び声をあげると、近づいたアルドレッドがジェネラルの片腕を斬り落とした。

 先程の叫び声よりも大きな悲鳴を上げる中、アルドレッドはジェネラルの腹に回し蹴りを入れ、門から離れさせる。

 ジェネラルは飛ばされた場所で自分の腕を飛ばしたのが誰なのか周りもキョロキョロと見て探す。目の前に血で汚れた大剣を持ったアルドレッドがいたため、こいつが自分の腕を切り落として殴ったのだと理解し、残った右腕だけで大剣を持ち上げアルドレッドに向かって突進を仕掛ける。

 だが、後ろにはセレスがいる。セレスはジェネラルの両足目掛けて氷の刃を飛ばす。力が入らなくなったジェネラルはその場で倒れる。

 アルドレッドがゆっくりとジェネラルに近づく。ジェネラルは残っている手で剣をアルドレッドに投げる。アルドレッドはそれを簡単に避ける。速度は変えずにそのまま近づく。何もできなくなったジェネラルはアルドレッドのことを睨みながら喚き散らす。大剣が届く距離に来たアルドレッドは大剣を振り下ろす。抵抗するため最後までジェネラルは叫んでいた。




 ジェネラルが倒されてから集落がつぶれるのは時間の問題だった。集落内に残ったゴブリンは統率が取れて無いため騎士達に簡単にやられ、協力して逃げたゴブリン達も包囲していた騎士達に不意打ちで魔法を撃たれやられていった。

 騎士達は増えた理由などを調査した後で、集落と一緒にゴブリンの死骸を森に燃え移らないようにして火をつけ、後から来た兵士と交代するようにして城に戻った。




 ゴブリンの掃討作戦が終わった2日後からアルドレッドとセレスはルナに稽古をつけており、夕方になりそうだったため終わりにしようとしたところで団長から招集がかかった。




「アルドレッドとセレスはご苦労様でした。ルナ様突然お呼び出しして申し訳ありません」


 団長はルナに向かって頭を下げると、すぐに元に戻す。


「呼んだのはこの前の捕まえた男についてです」


 口を割らせることが出来たのだと思い、3人が真剣な顔になる。


「すみません。ほとんど情報を得ることが出来ませんでした」


 団長の言葉に3人が驚いた顔になる。


「まず、モンスターを増加させたのが彼だということが分かりました。どこから入手したのか分かりませんが、モンスターを呼びつける薬を使って一か所に集め、最初は自分がエサを与えることで増やしていたみたいです」

「目的は分かったんですか?」

「増やしてゴブリン達に食料困難が起きるのを待っていたようです。食料が無くなったところにアルドレッドが倒したグールを投入し、グールを一気に増やすのが目的だったようです。おそらくアルドレッド達があの時捕まえなければ、彼はグールをゴブリンの集落に放ち増殖させていたでしょう」


 これを聞きアルドレッドとルナはあの時捕まえて良かったと心から安心した。


「なぜそのようなことをしたのか聞いたところのためだそうです」

「あの方?誰なんですか?」


 団長はここで息を1度吸い直して話し出す。


「「あの方はこの世の神になられなければならない存在っす!あの方が考えているのためにも俺はこれ以上邪魔には慣れない!」と言って彼は倒れたそうです。蘇生させようと試みましたがダメでした」

「なっ!?魔法の発動を許したんですか?!」

「死体を調べた所、彼の心臓部には魔法陣が彫られていました。それが発動して亡くなったのだと報告が来てます。魔法を発動できなくなる手枷はしっかりつけていましたが、体内に掘られた魔法までは防げませんでした」


 そこまでするのかとアルドレッドとセレスは悔しそうな顔をし、ルナは恐怖で顔を青くする。


「今彼の素性を調べています。彼の言ったと言うのが誰なのかも調査をしていますが、あまりにもヒントが少なすぎるため足取りを全くつかめていません…。彼について分かったことは以上です。あなた達が捕まえたので教えたほうが良いと思い教えました。ですがこれは重要機密です。他言はしないでください」


 団長に「はい」と返した3人は室から出る。

 誰もいなくなった部屋で団長は椅子に深く座り直す。


「あの方ですか…。誰なのか分かりませんが帝国に攻めて来たということはそれなりの覚悟はしてもらいましょう」


 団長からは怒りがあふれ出ていた。

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