第93話


 ミカが観客席に戻ってくると落ち込んでいたため、カイとラクダレスは焦りながらも話を聞くために人がいない所に移動する。


「どうしたの?何かあった?」

「魔力を込めすぎたせいで槍が…」


 するとミカはずっと握っていた槍を前に出す。その槍は見事にヒビが入っており、一度でも何かに当てたら折れてしまいのが目に見えた。


「大事な槍だったから。自分のせいで壊れたのに落ち込んでたの…」

「そうですか…。少し見せて貰って良いですか?」


 ミカはラクダレスに槍を渡す。渡された槍をラクダレスは壊れないよう慎重に扱いながら見る。


「そうですね、これを直すのは難しそうですね…。腕の良い鍛冶師ならば直せる可能性はあると思いますが…」


 武器を直すことが出来ないと予想していたミカは希望が出て来たことに嬉しくなりラクダレスに詰め寄る。


「本当ですか!?」

「え、えぇ。よほど腕のいい鍛冶師ではないと無理ですが、修復不可能ではないと思います。ただ王国にそのような鍛冶師がいるか…。調べてみますね」

「お願いします!」


 ミカは頭を下げてお願いする。


「とにかく、どの拍子で折れるか分かりません。袋に入れていいですか」

「お願いします」


 ラクダレスが懐から魔法道具マジックアイテムの袋を取り出す。その直後にカイが頷いたのを見て袋に槍を入れ始める。この袋はカイの持っている袋だ。学内対抗戦の時と一緒で控室が調べられる可能性を考えてラクダレスに預けていたのだ。そのラクダレスは盗まれない様にと、預かっているうちはいつも持ち歩いていた。


「とりあえず、私は観客席に戻ります。2人とも頑張ってください」


 そう言って、カイとミカを置いて、ラクダレスは控室に戻って行った。


「カイ、私は全力で勝ちに行くからね」

「俺も絶対に負けないよ」


 2人は互いの控室に向かい始めた。




「さぁ、学園対抗戦も最後となります。今から決勝戦を行います」


 審判の言葉により観客が歓声を上げる。だが、その中にはカイに対しての罵声も入っていた。


「まずは、魔法が使えないと言うのに、ここまで体術のみで勝ち上がって来た珍しい少年。総合第一学園 カイ」


 カイが入場口から出ると、先程の歓声が嘘かの様に罵声一色になる。それでもカイは舞台に向かって歩き進める。


「続いて、あの試合で見せたその速度は何なんだ。その槍で勝利を掴むか?総合第一学園 ミカ=アルゲーノス」


 ミカが出ると、さっきの罵声が一瞬で無くなり歓声が上がる。その中にはカイを倒してくれと懇願する物もあった。だが、観客の中には槍を持っていないことに不審に思ってる物もいた。

 2人とも舞台に上がると、会話することなく構える。


「準備は良いですね」


 2人が頷いたことで審判が離れ、大きく息を吸う。


「始め!」


 その声が聞こえた瞬間にミカの姿が消える。そしてミカの目の前にいて、カイを殴ろうとしていた。観客達はあの高速移動だと興奮し、歓声を上げる。一直線での攻撃だったため、カイは受け止めることが出来た。カイはミカの手首を握って逃がさないようにしてから攻撃しようとしたが、ミカに受け止められてしまった。そしてミカは掴まれている手でカイの掴んでいる手を掴み、お互いがお互いの腕を掴んでいる状態になる。2人とも片手が使えない状態で攻防が始まる。カイが拳で攻撃すればミカはそれを受け止め、ミカが蹴りを放てば、カイはそれを受け止める。

 一進一退の攻防に誰もが魅入られ、歓声を上げることを忘れて試合を見るのに集中する。それは審判も同じで、今までの試合以上に目を開けて試合の行く末を見届けようとする。


 そんな中2人の心境は、片方は焦っており。もう片方は冷静になっていた。


(私がカイと拳で戦っても勝てない。なら蹴りで追い込んで隙が出来たときに魔法を撃ちこむだけ)

(ミカの蹴りが重すぎる…。どうにかしないとヤバイよ)


 ミカはカイとセレスから特に蹴り技について教えてもらっていた。実はミカは高速で動く魔法を攻撃にも使えないかと考えていた。最初は移動だけでも十分だと考えていたが、もしこの速度で蹴りを放つことが出来れば、それはとても脅威になるのではと考えたのだ。そのため蹴り技を多く教わった。今では、体術は蹴りの方が得意となっていた。

 そして試合は、魔力を纏っているか纏っていないかで優劣がどんどん出て来ていた。

 今までカイは相手の攻撃を受け流していた。だがミカの鋭い蹴りは受け流せず、受け止めるので精一杯だった。その上、魔力を纏うのが上手くなっているため攻撃力が他の生徒よりも上だった。ミカもカイの拳を受け止めるので限界そうだが、魔力を纏っていない拳ではそこまでダメージを与えられない。

 ダメージの蓄積度は明らかにカイの方が上だった。そのためカイの動きはだんだんと鈍くなっていく。


 攻防が続き、一瞬怯んだカイにミカの蹴りが入り、掴んでいる手の力が弱まる。カイは手を離され魔法を撃たれると思ったが、ミカは手を離さずに逆に引き寄せる。カイは抵抗できずにミカに引っ張られ体勢を崩す。ミカはチャンスと言わんばかりに少し溜めてから蹴りを放つ。それを見ていた観客はこれで決まったと思った。

 だがカイは腕に魔力を纏わせ、ミカの蹴りを腕で受け止める。ミカも止められると考えていたために次の行動に移ろうとしたが、それより先にカイが動いた。カイは足に魔力を纏わせミカを攻撃する。蹴りが来ると予想していなかったミカはその蹴りをくらい体勢を崩す。カイは後ろに下がりながら掴んでいる手に力を込める。そして場外の前まで移動したカイはミカのことを振り回すようにして場外にさせる。ミカは引っ張られた瞬間は驚いたが、カイの後ろに場外の線があることを見て冷静になった。ミカは抵抗をしようとしたが、カイに蹴られたところが痛み動きが鈍り、その隙に場外にされてしまった。

 ミカが場外になると、カイはその場で座り込む。


「勝者、総合第一学園 カイ」


 その瞬間、審判がカイの名を言うが、観客席から歓声が上がることは無かった。




 決勝戦が終わってからすぐに閉会式では舞台に帝国との対抗戦をする生徒10人が集められ、後日王城にて国王との謁見があることを連絡されて終わった。

 その後、カイとミカはラクダレスと合流した後に医務室に向かった。

 医務室ではミカの攻撃によって痛めていたカイの腕や足を治療した後、2人の優勝・準優上について祝勝会が行われた。

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