第92話
学園対抗戦の試合数も残り3試合となり、カイもミカも準決勝と決勝のみとなった。
そして、2人が戦えるのは決勝戦だった。
先にカイの方の準決勝が行われることになりカイは入場口まで来た。そこには身体検査をする係員達と、なぜかプレア=ビューンがいた。
ビューンは係員にいろいろ言われていたが、カイを見た瞬間に目を吊り上げ、カイの所までズカズカ音を立てて近づく。そんなビューンを係員達は止めようとするが、ビューンは伸びてくる手を払いのけてカイの目の前に着く。するとカイの胸倉をつかみ上げる。
「屑ぅう。どうやって僕ちんに勝った?教えろ、どんな不正をしたんだぁ」
「俺は不正なんてしてません」
怒り狂うビューン相手にカイは冷静に返事をする。お気に召す返答ではなかったことでビューンがより怒る。
「不正はしてないだぁ?そんなわけないだろ。屑なんかに僕ちんが負けるはずがないだろぉ!」
ビューンは声に出しているとよりイラついたのか、カイの胸倉を掴んでいる腕により力が入る。
「俺は全ての試合の前に身体検査を受けています。その上で不正をするのは不可能です」
きっぱりと言い切ったカイに対して、ビューンは何も言えなくなってしまい、悪あがきで押すようにして手を離す。
その後ビューンはカイにも係員にも何も言わずにその場を離れる。直後、カイは何もなかったかのようにふるまう係員に身体検査をされた。
「クソッ!」
闘技場から出て来たビューンは路地裏でそこらへんに転がっている物を蹴りながら歩いていた。
「あーんな屑に負けるなんてありえない!あんな屑に!僕ちんはプレア=ビューン様だぞ!」
今までで一番力を入れて蹴る。その蹴った物はどこかに跳んでいく。それを見たビューンは少しは冷静さを取り戻す。
「プレア殿」
すると、後ろから声をかける者がいた。
「君はバーシィ家の…」
「ヒースです。お久しぶりですプレア殿」
声をかけたのはバーシィだった。
先程いざこざがあったが、カイは身体検査が終わり入場していた。
相手を見ると、見た目は腰に剣をさしているだけだった。だが、ズボンのポケットと胸ポケットは何か入っているのか膨れていた。
試合が始まり、まず相手はカイに来いとでも言わんばかりに何もしない。剣も鞘から抜かなかった。ただ突っ立ているだけだった。カイはその誘いに乗り、ゆっくりゆっくり近づく。
ある程度近づくと、相手はゆっくりと剣を抜く。そして、カイが剣の間合いに入ると相手は迷いもせずに剣を振る。カイがそれを後ろに跳んで避けると、それを待っていたとでも言うように笑うと、少し手こずりながらも胸ポケットから短い棒を取り出す。すると棒から風の玉を打ち出した。相手はそれが当たると思っていたようだが、カイは杖を向けられるよりも前に後ろに回り込もうと動いていたため当たらなかった。カイを見失いそうになった相手は焦って、雑に剣を振り回し続ける。カイがそれを避けていると、イラついた相手が、今までよりも勢いをつけて剣を横に振ると、手から剣が飛んでいった。剣の扱いが慣れていない上に片手で振り回していたからだ。
手から剣が無くなったことが信じられないのか自分の手を焦りながらじろじろ見る。そのせいで纏っていた魔力も解ける。カイはその隙に相手に攻撃し場外にさせることが出来た。相手はいきなり攻撃されたことに理解できずに退場になった。
相手が場外になって審判がカイの勝利宣言をする。そこで相手はようやく状況を理解したような顔になり、直後カイのことを睨む。
そんな相手を無視してカイが入場口に戻ろうと後ろを向いたとき、観客席からカイに向かってナイフが投げ込まれた。カイがそれを避けると、直後にまた投げられる。それを10回程繰り返される。
そんなに投げられてしまえば、誰が投げたのか見つけることは容易だった。
投げた相手はクラス分けテストのトーナメントで戦った、バーシィの取り巻きの1人だった。
彼はカイと目線があった後もナイフを投げ続ける。こんな状況だったら近くにいる者が誰か止めるだろうが、相手がカイだからって誰も止めなかった。
カイが相手の動きを見ながら避けていると、真反対の観客席にいるはずのミカが視界に入った。ミカは彼を止めるために急いでいるが、観客が邪魔でなかなか近づけていなかった。
ミカが彼まであと少しというところで、彼は闘技場に飛び降りる。持っていたナイフが底を尽きたのだ。腰に差していた剣を抜くと、カイに向かって一直線に走って来た。
「無能がぁあ。ふざけるなぁぁあ!」
カイは叫びながら近づいてきた相手の剣を避けて攻撃する。すると、相手は簡単に体勢を崩した。カイは相手から剣を奪い取り少し離れた場所に投げ捨てると、相手の上に乗って取り押さえた。
彼は捕まっても暴れ続けるが、カイに手を拘束されているため何もできなかった。
今まで何が起きたのか理解が出来ず、理解が出来たときには部外者が闘技場に突然下りてきたことにより固まってしまった審判は急いで兵士を呼ぶ。まだ近くにいた舞台の上にいた相手は何が起きているのか未だに理解が出来ていないのか口をあけながら固まっていた。
数分して兵士が来たため、カイは取り押さえている彼を引き渡す。彼は兵士に取り押さえられながらもカイに喚き散らす。
「何でお前が勝って、ヒース様が負けるんだ。ありえない。ヒース様よりも劣っているお前がなんで。なんでだぁあああああ!!」
取り押さえられても暴れる彼は、兵士に連れていく中でも叫び続けた。
先程の出来事でカイは、ただ襲われてそれに反撃しただけだとしてお咎め無しとなった。
また、試合が出来るような空気ではなかったが、試合は予定通り小休憩を挟んだ後に続行されることとなった。
小休憩後、ミカが舞台に上がると観客の士気は明らかに下がっていた。そんな中、準決勝の二試合目が始まろうとしていた。
ミカの相手は先程カイと戦った生徒と同じ様に剣を帯剣していたが、先程の彼と違い、ポケットは膨らんでいなかった。
試合が始まり、ミカは速攻を仕掛ける。間合いに入った瞬間にミカが槍を振ると、相手はそれを剣で受け止めようとする。だが、その剣はミカの槍の刃が当たった瞬間に折れた。観客達はここまでの戦いで脆くなっていたと思ったがそれだけではない。ミカは次の試合がカイと言うことにテンションが上がってしまい、纏わせる魔力の量を前よりも多くしてしまったのだ。そのため今までよりも攻撃力が高くなってしまい、槍は剣を折ったのだ。
ミカは折れた剣を見て魔力の込める量を間違えたことに少し焦ったが、起きたことはしょうがないとして、纏う魔力量をいつもの量にしてから追撃をする。だが、相手は剣が斬られるとは微塵も思っていなかったため固まってしまった。そのため、ミカが繰り出した柄が当たるようにした薙ぎ払いを防ぐことが出来ず、場外まで飛んでいった。直後審判がミカの勝利を宣言した。
先程、ミカは武器にたくさんの魔力を纏わせて攻撃したことで攻撃力が上がっていたが、これは良いことばかりではない。纏わせる魔力の量を増やせば攻撃力は増えるが、武器への負担も大きくなるのだ。
ミカが試合で使っている槍はいつも使っている槍だ。それはダンジョンだけでなく特訓でもだ。もちろん武器に魔力を纏わせる特訓をしていた時も使っていた。今までいくら手入れしてるとは言えダメージは蓄積していた。そのため、今回の許容量を超える魔力を纏わせるのは良くなかった。
ミカの耳にビシッと言うような音が聞こえる。音の方を見ると槍の柄にヒビが入った。それは次に槍を振るえば折れると言うことを意味していた。
ミカは相手に勝ったことを喜ぶことが出来ず、槍が壊れかけていることのショックで下を向きながら入場口に戻って行った。
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