第94話


 学内対抗戦の最終日の次の日、カイとミカは露店で買い食いをしながら大通りを歩いていた。


「ついて来て貰っちゃってごめんね、カイ」

「大丈夫だよ。壊れないようにするならこれが確実だから」


 今カイ達はミカの家に向かっていた。この前の試合で折れかけた大切な槍はミカが母親から貰った物だった。もしかしたら槍を作った人ならば直せるかもしれないと考え、教えてもらうために家に向かっていたのだ。


 2人とも小腹を満たすくらいには食べた後ミカの家のついた。

 ミカがノックをすると中から「はーい」と声がしたため、2人は扉が開けられるのを待つ。


「はーい。どちらさ…。ミカ!」


 ミカの母親はミカを見た瞬間にものすごい勢いでミカに抱き着く。カイは素早すぎる動きに驚いた。ミカはちょっと苦しそうにしながらも嬉しそうにしていた。


「ちょ、ちょっとお母さん!長期休みにも帰って来たでしょ」

「娘とはいつでも会いたいよ」


 2人の空間になっており、カイはどうすればいいのか考えていると、ミカの母親の目が合った。


「あれ友達?」

「うん。とにかく家に入れて。カイも入って」


 母親、ミカの順番で入って行ったため、カイもお邪魔しますと言ってから家に入った。


 入ってすぐにミカは椅子に座り、ミカに座ってと言われたカイは隣の椅子に座る。そして少ししてから母親がお盆の上にコップを3つ置いて持って来た。


「どうぞ。ごめんね、今お茶しかなくて」

「ありがとうございます」


 そう言って最初にカイに渡した後にミカに渡し、ミカ対面に座った。


「私はミカの母親のフラージュだよ」

「俺はカイです。ミカとは授業が一緒で、それから一緒に特訓したりしてます」

「娘をよろしくね。もしかしてカイ君を紹介するために帰って来たの?」


 フラージュがニヤニヤしながらミカの方を見ると、ミカは少し言いずらそうにしながら言った。


「お母さん、ごめん。槍壊しちゃった…」

「そうだったの。槍はある?」

「俺が持ってます」


 カイは袋を取り出し、慎重に槍を取り出す。フラージュはカイから槍を受け取るとじっくり見始める。


「…柄に綺麗にヒビが入っちゃってるね。うーん、出来るかな?ちょっと待ってて」


 フラージュはそう独り言を言うと、槍を机に置いて2階に行ってしまった。


「お母さん怒ったかな…」

「大丈夫だよ。そこまで怒ったようには見えなかったよ?」


 フラージュが怒ったと思い不安に思っているミカをカイがフォローしていると、フラージュが袋を持って戻って来た。


「2人ともお待たせ。槍なんだけどもしかしたら直せるかもしれないからこっちで預かっていい?」

「お母さん怒ってないの?」

「怒って無いよ?ミカが長い間大事に使ってくれてたのは知ってるもの。怒らないよ」


 ミカは「はぁ~」と息を吐きながら机に突っ伏す。


「ちょ、ちょっとミカ、どうしたの!?」

「小さい時に槍に少しいたずらしたら、ものすごく怒られたから不安だったの…」

「あれは遊びで傷つけるからよ。それは怒るよ。とにかくこれは預かるね」


 そう言うと、フラージュは袋の中に折れかけの槍を仕舞う。


「フラージュさんも持ってたから驚かなかったんですね」

「そうだよ。この袋って便利だよね」


 フラージュはそう言いながら先程とは違う槍を袋から取り出した。


「ミカは直るまではこれ使ってね。2人ともお昼ごはん食べた?」

「まだだよ~」

「なら食べて行って」


 その後、フラージュは学園でのミカの様子をカイに聞いたりして時間は過ぎて行った。




「そうだ。2人とも今日は家に泊まらない?」

「私は良いけど」

「俺も良いんですか?」

「大丈夫だよ。それにもっとミカのこと聞きたいからね」

「わ、分かりました。俺泊まること伝えないといけない人達がいるんで今から言ってきて良いですか?」

「良いよ。家の場所は大丈夫?」

「大丈夫です」


 カイは今、アルドレッド達の横の部屋を借りている。そのため、もしカイが返ってこなかったらローブ男達に何かされたかもしれないと考えると思い、アルドレッド達に泊まることを言いに向かった。

 カイが出て行ったのを確認した後、フラージュは会話していて無くなったお茶を継ぎ直してから真剣な顔になってミカの前に座る。


「ミカ、大事な話があるの」

「どうしたの急に?」

「本当はミカが3年生になる前に話すつもりだったけど…。これから言うことは他言無用よ。絶対に言わないでね。実は…」


 ミカはフラージュが隠していたことに最初は驚いたが、静かに最後まで聞いた。


「今はここまでしか話せないけど、いつか全部言うから言うから、今は誰にも言わないでね?」

「分かった。でもなんで今なの?」

「今だからよ。カイ君は適性魔法が無いのに対抗戦で優勝したでしょ?これからたぶんたくさんのことに巻き込まれると思うの。その時はミカが支えるのよ?」

「分かってるよ」


 その後、アルドレッド達に話して帰って来たカイにフラージュはミカのことをたくさん聞き、1日が終わった。



 ミカの家に泊まってから数日が経ち、カイとミカは王城の一室に来ていた。学園対抗戦の閉会式で言われた国王への謁見のためだ。周りにはあの日最後に舞台に上がった人達がいて、その中にはメッサー=ゼーラの姿があった。メッサーはカイを見つけと、手をあげながら近づいてきた。


「おう、カイ!久々だな!お初にかかりますアルゲーノス様。メッサー=ゼーラでございます」

「ゼーラ殿そこまで硬くならなくて大丈夫ですよ。私のことは気軽にミカと呼んでください」

「分かった。俺と話すときも軽い感じで頼む」

「分かったよ」


 3人でたわいもない話をしていると、兵士が部屋に入って来て。玉座の間まで案内しだした。

 玉座の間の前で少し待たされると、扉が開いたため10人とも入っていく。

 玉座の間に入ると、左右にはたくさんの貴族がおり、10人はその間を歩いて行く。そして、玉座の前に着いた者から片膝をつき頭を垂れる。全員がその体勢になると宰相が話し始める。


「ここにいる10名が今度行われる帝国との交流戦に出る代表でございます、国王陛下」

「良いかお前達、お前達は国を代表して戦うのだ。決して負けは許されない。分かったな」


 国王は特にカイを睨みながら言うと、それ以外話すことは無かった。

 その後は宰相が対抗戦に関する意気込みなどを話した。そんな中、国王の隣に座っている王子は、代表の10人の内1人を殺気を込めた目で睨んでいた。

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