第301話


 アルマの見たこと無い姿に警戒して全員がいつでも反撃できるようにする。その様子にアルマが気にした様子は無く、眠そうに半目の状態で近づく。そのまま話しかけてくるかと思ったが、何もする事なくカイ達の横を素通りする。

 部屋を出るとすぐに研究員たちに気づかれたが、誰も気にした様子は無く作業に戻る。最初は数人が舌打ちをしたり嫌な顔していたが、アルマの顔を見た瞬間に表情を元に戻し作業を再開していた。

 そんな様子も気にすること無く、アルマは視線が外れてから片手を研究員たちに向ける。その手から魔国特有の瘴気ではない、紫色の霧が出始め徐々に広がり始める。その霧はカイ達の方向にも向かって来たため、ラウラが風で押し返していく。

 下から徐々に広がった霧は、すぐに研究員たちの体を包み込む。その霧を一息吸った瞬間に研究員たちがバタバタ倒れて行く。気づいた研究員は抵抗したが気づくのが遅すぎたために霧を吸い込み他の研究員同様に倒れて行く。ガラスケースに入っていたモンスター達は拘束を解くために暴れていたが、霧を吸った瞬間に動かなくなる。

 先ほどまで聞こえていた音が無くなったことで地下2階にいるモンスターと研究員が眠り切ったと分かると、アルマは動画を逆再生させるかのように放っていた霧を吸収し始める。


「これで気兼ねなく話せるでしょ?」


 欠伸をしながら話しかけてくるアルマに対して、カイ達は警戒度を高めたまま部屋に入っていく。その間もアルマは眠そうにしており、今にも寝てしまいそうだった。


「私はほとんど何も出来ないって言ってたよね?どうしたの」

「しっかりやってくれるか確認。やってくれるよね?ね?」

「今確認しなくてもいいはず。何しに来た」

「良いじゃん!それでどうなの?」


 探ってくるアルマに警戒が緩めないでいるカイ達。翼が無い上に乱暴な言葉遣いでふざける時だけ少女の様に喋るのがアルマだと思っていたため違和感を感じていた。


「しっかりと私達は頼まれたことをします。ライトルの神童でしたっけ?」

「そうそう。頼んだから」


 そう言って後ろを向いたアルマに向かってリオは爪を伸ばす。魔力は纏わず、ほとんど音を立てていなかったため気づかれずに拘束できると思ったが、アルマは見ること無く飛んで爪を避ける。それに合わせてカイが氷の手を伸ばすが、空中で体勢を整えたアルマはそれを蹴って避ける。アルマが着地する頃には全員が戦闘体勢に入っており、いつでも戦闘を開始出来る状態だった。


「何!?急に!怖いじゃん!!」

「マネするなら口調もしっかりしないとダメですよ」


 リオの忠告の後小さく呟いたアルマ。その声は全く聞こえず、シャリアが聞き返そうとした所でアルマが喋り出す。


「気づかれたならいいよね??良いよね?!侵入してきたのがいけないもんね!殺して良いよね??侵入者は排除!そう言ってたのもんね!!」


 そう言うとアルマの偽物の体中から紫の霧があふれ出す。先程と比べ物にならない程に速く広がる霧がカイ達を襲う。

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