第12話


 今日はカイが入学のため王都に行く日だった。

 カイは出かける前にグラードに部屋に来るように言われていたので向かっていた。


「よぉ。お前がいなくなってこの家はより住みやすくなるなぁ!」

「パピット…」

「何回言えばわかるんだ!パピット様だ!」


 パピットが顔を真っ赤にしながら近づいてくるが、カイはお構いなしに話し始めた。


「申し訳ありません。私は父上に呼ばれているため失礼いたします」

「待て!まだ話は終わってないぞ!」


 後ろで叫んでいるがカイは気にせず歩いて行った。




 コンコン


 カイが大きな扉をノックした。


「父上、カイです」

「入れ」


 カイは扉を開け部屋に入った。

 部屋には無駄に高そうな壺や、使わないであろう剣が飾ってあった。

 そして、部屋の奥にある大きな机でグラードが書類を見ていた。


「父上御用とは何でしょうか?」

「お前はこれから総合第一学園に通うことになる」

「はい」

「お前などと繋がりを持とうとするやつはいない。絡んでくるのは喧嘩を売ってくる者しかいないだろう」

「理解しております」

「喧嘩を売ってくる相手が中級もしくは上級貴族ならお前は何もするな」

「…何もするなとは、その喧嘩を買うなと言うことでしょうか?」

「違う。手を出すなと言うことだ。黙ってやられていろ」

(そこまでして上級貴族になりたいんだ…)


 カイは内心溜息を吐きながら返答する。


「お断りします」

「…なに?」

「断ると言いました」

「お前は何を言っている!私の言うことを聞け!」

「嫌です」

「お前はクノス家のものだ!私の言うことは絶対だ!」

「ならば私はクノス家から出ていきます」


カイは学園を卒業したら家を出て行けと言われていたため、今出て行って冒険者になった方が良いと思ったため、家を出て行くと言った。

 グラードは驚いた。今まで自分の言われるがまま動いていたカイが、口答えをしただけでなく自分から家を出ていくと言ったのだ。一瞬、家の体裁のことを考えて出ていくのを止めようと思ったが、自分の言うことを聞かない者がこれ以上家にいても邪魔になるだけと考えたため、グラードはカイの意見を受け入れた。


「わかった。この時よりお前をクノス家から追放とする。もうこの家に入るな。さっさと出ていけ」


 カイは自分が望んだ回答が来たことに、笑うのを我慢しながら屋敷を後にした。




 カイは屋敷を出て都市の中を久々に歩いていた。

 今までは家族から、「家のイメージダウンになるから行くな」と言われていたため来ることが出来なかったが、追放されたため街中を歩いて都市の出入りができる検問所を目指していた。


「だけど、お金がないなぁ…。どうしようかな…」


 カイは家を出るとき何も渡されなかったため持っているのは、首にかけているレイから貰ったネックレスと、腰にぶら下げているラウラから貰った袋しかなかった。


(袋の中は…)


 入っていたのは以下の物だった。


 ・アイアンソード

 ・モンスター解体用のナイフ

 ・野宿用のテント(魔法道具マジックアイテム

 ・学生証(学園から事前に送られていたもの)


 正直使える者は無いため、学生証を使い王都に入りそこで冒険者になろうと考えた。


(うーん、王都までは歩いて2日の距離があるから…。野宿するしかないか)


 さっそく領の検問所に向かった。




 検問所の前に見知った顔がいた。


「カイ。歩いて王都まで行くのか?」

「レイ兄上。見送り?」

「そんなとこだ。父上が馬車を出さない可能性も考えていたが…。まさか本当に用意しないとはな」

「それはそうだよ。だって家出てきたから」


 レイは驚愕した。カイはそんなレイを見たことが無かったため笑ってしまった。


「…それは本当か?」

「本当だよ。今日の夜にでも言われるんじゃないかな?自分から「出てく」って言ったら追放してくれたよ?」

「自分から言ったのか!?カイは魔法が使えないだろ!?」

「でも、魔力を纏うことは出来るよ」

「出来るのか!?」

「うん、魔力はあったみたい」

「そんなことは聞いたことが無いが。俺は驚きすぎて疲れたよ…」


 疲れたと言いながらもレイは嬉しそうだった。


「だから、大丈夫だよ。モンスターに襲われても倒せるから」

「そんなに自信満々な顔を見せられると信じるしかないな…。カイ、王都に着いたら、すぐに学園に向かうんだ。着けば寮に入れてもらえるはずだ」

「学園に…?俺学園に入る気無いんだけど…」


それを聞いたレイは少し渋い顔をしたが、すぐに真剣な顔になる。


「今すぐ冒険者になるのは危険すぎる。今は学園で少しでも学ぶべきだ」


 レイの言葉を聞き、カイは考える。確かに今すぐに冒険者になるとは危険かもしれない。だが学園に言って貴族に絡まれるのも面倒くさい。

カイが難しい顔をして考えてるのを見てレイが口を開いた。


「…カイは貴族に絡まれるのが面倒とか考えてるんだろ?」

「!?兄上は何でもわかっちゃうね」

「当然だ、兄だからな!…話を戻すが、絡まれるのは面倒だと思う。けど、俺としては安全にしっかり学んでから冒険者になってほしい。頼むカイ…」


 レイは、かわいい弟がこの年で冒険者になり、危険なところに行くことは避けたかった。それなら、安全で居場所の分かる学園にいてほしいと考えていた。

 その後も、冒険者になるメリットとレイの願いを天秤にかけていたカイだが、頼み込むレイの顔を見てカイは折れて学園に行くことにした。


「…分かったよ、学園に行くよ」

「ホントか!!」

「だけど、途中でやめても文句言わないでよ?」

「分かった。それに、嫌な貴族もいるが、良い貴族もいっぱいいる。カイならうまく学園生活を送れるよ」


レイの言葉にカイは嬉しくなるが、やはり学園で絡んでくる貴族のことを考えると憂鬱な気分になっていた。


「じゃあ、もう行くね?」

「気をつけてな」

「うん。ありがとう」


 そうしてカイは王都に向かった。




また、話を書く上で複雑になったため、魔力を感じ取ることが出来る人のことを「魔力感知者」と呼ぶことにしました。


次回、学園編開始します!

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