第11話


「落ち着いた?」


 ラウラはカイの前に再度コップを出した。


「…落ち着いた」

「急に叫び始めたからびっくりした。どこまで話聞いてた?」

「適性無しって言われたのが間違いってところまで…」

「カイは炎と氷の魔力が混ざった状態だけど、魔法は使えるはず」

「炎を出せるってこと?」

「氷を出すこともできる。それにカイしかできないこともあると思う。魔法は想像次第」


 落ち込んでいたカイだが、ラウラの言葉を聞きやる気に満ち溢れていた。


「カイがよければ私が教える」

「いいの…?」


 魔女と呼ばれるラウラが師匠になってくれれば、学園の教師が教える以上に知らないことを知れるだろう。カイはそう思った。


「ん。私は魔法も武器を使った戦闘もできる魔女だから!」


 ラウラがこの上なく上機嫌にドヤ顔を決めてきた。カイはそれに対して若干笑ってしまったが、ラウラが気にすることは無かった。


「よろしく、師匠」

「ん。師匠、良い響き」




 ラウラとの修業を始めて2年が経とうとしていた。

 カイはあの日から毎日ラウラの家に通いラウラの下で修業していた。魔法を撃ったり、魔力を体内で早く操作できるようにしたり、組手をしたり、武器を使って模擬戦をしたりしていた。時には森に出てモンスターを倒したりもした。

 そして、今日は学園に入る前最後のラウラとの修業の日となっていた。


「カイ、今日は模擬戦だけにする」

「模擬戦だけ?モンスター倒しに行くとかは良いの?」

「モンスターはもういい。学園に入ったらカイは魔法を人前で使うことが出来ないと思うから今日はそれの練習」


 カイが適性魔法が無いという話は他の貴族に知られている。そのため魔法を使ってしまうと『絶対に間違えることのない適性検査の結果が間違っていた』として怪しまれてしまう。また怪しまなくても原因を調べようとするために誘拐しようとする輩がいるかもしれない。そうなれば面倒なことになると思い『学園では魔法を使わない』とラウラと話し決めたのだ。


「確かに、魔法は使えないけど魔力は纏うよ?」

「わかった。学園でもカイの判断で纏うか決めて」

「わかってる」


 軽く話しながら距離をおいて立ち止まった。そして、お互い木剣を相手に向けて構えた。


「この石が落ちたら開始。良い?」

「わかった。今日こそ勝つ!」


 今までの戦績はカイが魔法を使わない条件で戦った場合、カイの全敗となっていた。今日が最後のため、カイはやる気十分だった。


「いくよ」


 そう言いラウラが石を投げた。

 石が落ちた。

 カイはラウラに対して斜めに走り始めた。一直線に走ってはラウラが撃ってくる魔法に当たるからだ。しかし、それを読んでたかのように、カイが走っている方向にラウラは風を放つ。カイはそれを避けてラウラに接近した。

 カンッ!と大きな音が鳴った。木剣がぶつかり合い、斬りあいになった。カイがラウラの左腹に打ち込もうとすると、ラウラは受け流し反撃しようと、首に打ち込んだ。しかし、受け流されるのを予想してカイは首に当たる前に上半身を後ろにそらした。その後、またカイがラウラに向かって打ち込む。今度は、はじき返した。カイはその反動を使い後ろに跳躍した。

 睨み合いが続いた。


 カイが先に動いた。ラウラに向かって木剣を投げた。投げると同時にラウラに向かって一直線に走った。ラウラが木剣をはじいた。そして、カイはラウラに肉弾戦を挑んだ。ラウラは間合いに入れられると不利になるため、カイが距離を置くように木剣を横に薙ぎ払った。すぐそこまで接近していたため、後ろに跳んだカイにラウラは魔法を撃ちこんだ。当たったらのけぞる物はもちろんのこと、当たったら切れる風もカイに向かって撃ち込んだ。しかし、これだけで負けるほどカイはやわではない。魔法が来るとわかっていたため、着地した瞬間に横に跳んだ。そして、ラウラの周りを円を描くように走り回る。ラウラはカイに向けて風を放ち続ける。この状況が30秒ほど続いたとき、ラウラが撃つ魔法に間が生まれた。カイはその瞬間にラウラに向けて走り出した。


「もらった!!」

「残念。私の勝ち」


 誘われた。ラウラはわざと隙を作りカイに接近させた。カイは走り回っている間に回収した木剣を振り下ろしたが、風で作った盾がそれを防いだ。ラウラがカイの胴に打ち込んだ。しかし、カイは纏っている魔力を腕に集中させていたため、力だけで風の盾を貫いた。お互いの木剣が当たる前に寸止めした。


「...引き分けかぁ」

「カイ強くなった。これなら学生相手は楽勝。教師にも勝てるかも」

「ラウラがいつも通りにしてれば負けてたよ。最後のウインドシールドでしょ?」

「学生が私レベルの魔法使えるはずがない。だからウインドシールドにした」


 カイはラウラが全力を出さなかったことに不満に思っていたがお構いなしにラウラは話し続けた。


「これ持って行って」

「これは?ただの袋に見えるんだけど。まさか...」

「ん。魔法道具マジックアイテム。たくさん物が入る袋。手を入れれば中に入ってるものがわかる便利機能付き」

「こんな貴重な物貰っていいの?」

「持って行って。」

「わかった。ありがとう」


 カイは大事そうにポケットにしまった。


「カイ、学園では面倒なことあると思う。けど、カイなら大丈夫」

「急にどうしたの…。わかってるよ。ラウラが師匠なんだから。面倒なことがあっても力ずくで解決できるよ」

「私はそんなに脳筋じゃない」


 プンプンと聞こえてきそうな怒り方をしているラウラに対し、カイはそれを見て笑い出す。そんなカイを見てラウラも静かに笑い出した。


「長期休みのたびに帰ってくる」

「ん。行ってらっしゃい」


 2人は握手をして、カイは屋敷に戻って行った。




補足説明

ウインドシールドとありましたが、カイが持っているネックレスの効果とラウラが展開させた物は同じ物です。


 ここまで読んでいただきありがとうございます。

 次回、1章ラストになります!

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