第143話


 謎の少年のせいでしばらく動けなかった白ローブだが、顔を横に振って冷静さを取り戻す。

 膨大な量の魔力は徐々に漏れていることは白ローブも感知が出来ている。そして少年の言うことが本当ならば魔法陣は壊れていることになる。それならば、膨大な魔力が全て漏れ切る前に調査したいと思い、白ローブはここを調べるのを止め、ここよりもさらに地下深くある膨大な魔力を調べるために移動し始める。




 白ローブは10年ほど前にこの城を調べたことがあった。その時、独房よりも下に作られた物は無かった。魔力感知も使いしっかり無いことを確認していた。だが現に今下には何かがある。そして、そこに行くための道を探しているが、なかなか見つからない。


(昔から隠すのは上手いよね~。隠し通路とか全然見つからないし)


 白ローブが城の地下全てを調べたところで、誰かが地下に向かうのを感知した。だが、そこは壁の中で道など無いはずの所だった。


(1階か2階からしか行けないってことか。国王か王子、王妃の部屋とか怪しいね。さっそく行こう)


 白ローブは過去に覚えた場内を思い出しながら走って移動をする。


 白ローブが国王、王子、王妃の部屋に行くと、その部屋にはしっかりと魔力があり、誰も地下に行ってないことが分かった。


(部屋には1つずつ魔力反応がある。じゃあ誰が?行ってないとしたら宰相の部屋だけど…。考えるよりも調べたほうが早いよね。急ご)


 そして、宰相の部屋に向かって隠れながら移動していると、場内をものすごい速度で走っている反応をキャッチした。

 明らかに怪しいため白ローブはその反応に向かい始めた。


 反応が来るであろう進行方向で、白ローブは物陰に隠れて待つ。すると、遠くから鎧を着た誰かが走ってきている音が聞こえてくる。白ローブは反応が通り過ぎた後、顔だけだし誰か確認すると、正体は団長だった。その団長を見るとどこか焦っている表情だった。

 ついて行くと、急いで団長室に入っていく。魔力感知で様子を見ていると、団長の魔力が下に向かって移動し始めた。


(ここが地下に向かうための場所だったんだね。ちょっとお邪魔させてもらおうかな)


 白ローブは周りに魔力が無いことを確認し、団長室に入る。

 団長室に入ると、すぐに隠し階段を見つけることが出来た。

 入ってすぐに目に入るのが団長が雑務をしているであろう大きな机なのだが、その奥に階段があったのだ。


 白ローブが物音を立てないように階段を静かに下りて行くと、大きな声で言い合いをしている声は聞こえる。白ローブは歩くのを止めその会話を聞くことに集中する。


「逃げられないのは分かっただろ?さぁ、お前らのボスを教えろ」

「それよりもこれだ!被検体1~4とは何のことだ!何をする気だ!」


 最初に問い詰めた男は昨夜聞いた団長の声だと分かった。だが次に苦しそうに話した男が誰なのか白ローブには分からなかった。ただ言えるのは団長と男が敵対関係にあるということだけだった。


「その資料を呼んだな?」

「答えろ!この被検体は何のことだ!王子は何を企んでいる!」

「王子のことも知っているのか。ならば生かしておくことは出来ん」


 団長がそう言うと男の悲鳴が響き渡る。白ローブは急いで助けようと近づくが、男の魔力が急激に少なくなっていく。


「冥途の土産と言う奴だ。教えてやろう。被検体はな人間だよ!2番から4番はたぶんまだ生きてんよ。移送してるだろうから詳しく知らねぇが。だが1番はすでに死んだ」

「…」

「おっと、まだ話してるのは俺だぞ?…ってやっちまった。もう死んじまったか」


 話し的に、男が何かを言おうとしたのを団長が口封じしたのが分かった白ローブは走るのを止めてその場で隠れる。

 そして、白ローブと同じ様に隠れていたもう1つの魔力反応はその場から離れて、地下から出て行く。


「さてと、これは燃やしておくか。これは知られちゃいけないんでな。にしても緊急用の避難口を見つけたのは幸運だったが、俺に見つかったのは不運だった。逃げきれたらお前らのボスに褒めてもらえたかもしれねぇのにな」


 ここが避難用の道だと分かったのと、当たり一面に肉を焼く臭いがしてきたため、白ローブは物音を立てないように急いできた道を引き返す。

 地下の通路には団長の気持ちの悪い笑い声がいつまでも響いていた。


 その後も白ローブは隠し通路を求めて城中を探したが、見つからず城から出てカイ達の元に向かった。




 白ローブが城を調べている頃、ラクダレスは学園の医務室にいた。深く椅子に座りカイ達の身を案じていた。


(あの時の様子を見る限り、カイ君は魔力をかなり消耗してましたね。それなのに検問所をあの規模で凍らせた。大丈夫ですかね。今はミカさん達を信じますか。それに追手は行ってないみたいですね。予想通り王国は反国家団体の仕業だと考えたようです)


 先程まで険しい顔だったラクダレスの顔に笑みがこぼれた。


(彼らも今頃城を調べてるでしょう。王家がつぶれるか、反国家団体がつぶれるか。どちらになりますかね)


 ラクダレスは優雅に入れておいた紅茶を口に含む。飲み込むと、椅子を回転させ早くカイ達が無事だという連絡が来ることを待つ。




 場所は変わり、ある1つの道場でナイフを振っている少年がいた。ある程度振ると、端に移動して座り目を閉じる。


「失礼します」


 誰もいなかったため、入って来た女性の声が響く。少年の隣まで移動した女性は正座で座る。


「防衛が手薄になっていたため少しだけですが調べてくることが出来ました」

「もう1人は」

「…すみません。調べてる途中でバレてやられました」

「そうか。調べたことを教えてくれ」

「分かったことは1つだけです。王家は、いえ、王子は人体実験を行っています。つい最近も4人攫われたようです。既に1人は死亡。残りの3人も移送されたようです」

「ボスに伝えに行くぞ。それに早くカイを見つけないとな」


 そう言って少年は立ち上がってナイフを仕舞う。女性も立ちあがり少年の後ろについて行く。


「王家には絶対に痛い目を見てもらわないとな」

「いつもよりもやる気ですね、隊長」

「ダチが冤罪で捕まったんだ。やる気も出る」

「カイ君でしたよね?冤罪だという根拠はあるんですか?」

「あいつがあんなことするわけねぇよ」

「根拠を聞いてるんですが」

「調べたらすぐに冤罪だって分かる」


 メッサーは女性と一緒に道場を出て行った。反国家団体の本部に行くために。

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