第142話


 森まで走って来た2人はカイの袋の中に入っていたテントを取り出し設置する。このテントは弱いモンスターが近づかないようにしてあるため、ある程度安全だった。


「…もう追ってきてないみたいだし私は戻るね。カイ君が起きて動けそうだったら移動して。まぁ、しばらくは野宿だね」

「うん。まぁ逃げられたら自由だし、この中すごい快適だから大丈夫だよ」


 5人程だったら川の字のなって十分に寝ることが出来る大きさで、温かさも快適な温度に自動で調節されていた。そのためどこかの安い宿よりも過ごしやすい状態になっていた。


「これって売ってる物なの?売ってたらすごく高そうだけど…」

「普通は売ってない。売ってても買える金額じゃないよ。私が現役で働いてた時の給料1年分でも足りないと思うよ?あっちでも簡単には手を出せる物じゃない。まぁ王国で売ったら取り合いが起きて裏で殺し合いでもやるくらいの価値を絶対にある」

「なんか、居づらくなってきたんだけど」


 座って話していた2人だったが、白ローブが立ち上がりミカの頭をなでる。


「居づらいかもだけどここにいて。ミカはしっかり休憩してね?ここから帝国までの道のりは大変だからね」

「うん。分かった」


 白ローブはしばらくミカの頭をなでた後、王都に向かって走り出した。


「いつ、カイに言おうかな。帝国に着いたら言うって言ってたけど」


 ミカは先程白ローブがしてくれたように、カイの頭をなでながら独り言をボソッと言う。




 白ローブが王都に戻ってくる頃には日が昇り始めており、遠くから見ても検問所で騒ぎが起きてるのが分かった。


「おい、こんな氷見たことあるか?」

「いやねぇぞ。しかもこれあちぃぞ」


 氷の熱さから触れることが出来なくなっており、火を近づけたとしても氷が溶けることは無い。溶けないためどうするか話している兵士に白ローブは近づく。その上、氷の壁が硬すぎて半端な武器では逆に壊される状況になっていた。もしも武器に魔力を纏わせることが出来れば壊せたが、今の王都にそれが出来る人は1人もいない。


「それにしても聞いたか?昨日捕まえた罪人が独房から逃げたらしいぞ。その上、門を燃やしたのが3人もいるってよ。何がしたいんだかねぇ?」

「独房から逃げた奴がやったんじゃねぇのか?独房にぶち込まれたってことはそれなりに強力な魔法が使えるはずだろ?」

「それがな、罪人ってのは無能らしいぞ。この前交流戦で最後に戦ってた奴だ。魔法使えねぇんだからこんなこと出来ねぇだろ」

「それもそうだな。ってことは無能は王都にまだいんのか。にしても無能は何やったんだ?独房ってことはよっぽどだろ?俺はそこまで馬鹿なことをするような奴には見えなかったがなぁ」

「なんでも帝国の皇子をしたとか。噂だがここまで動くってことは本当なんだろ。騎士団長が直々に指揮を取って確保しようとしてるってよ」

「お前達!何をしてる!さっさとこれをどうにかしろ!これじゃあ積み荷を王都に入れられんぞ!」

「はい!急ぎます!…どうにかってどうすんだよ」

「ホントそれな」


 兵士達は上官に言われ道具を持ってくるためにその場から離れる。


(カイ君はまだ王都にいると思われてる…。これは好都合かも。私達を誰が追ってるかも知りたいんだけど、それはさすがにしれなそうだね)


 何かあった時のために魔力を温存している白ローブは物陰に隠れて様子をうかがうが、ここにいては情報が入ってこないと分かったため、膨大な魔力がある城に隠れながら向かう。




 城門のすぐ近くで白ローブは魔法で姿を隠しながら様子を見ている。

 場内はあわただしくしており、兵士達の行きかいが激しい。どの兵士も走って出入りしていく。


(あの検問所はよく物が通る所だもんね。早く壊したいだろうけど…無理かなぁ)


 白ローブはそんなことを考えていると、城から昨夜見た団長が包帯を巻いた姿で出てくる。

 城の守りが薄くなったと思い白ローブは城の中に潜入する。


 城の中に入り1つだけ分かったことがあった。

 膨大な魔力だが、外部に流れ少しずつ少なくなっているのだ。それは意図的にどこかに流しているわけでなく、ちょっとずつ空中に放出されていっているのだ。

 このことからカイが壊した何かは魔力を「隠す」「溜める」役割があったのだと分かった。


(魔力を吸い取る魔法陣が独房にあったってカイ君は言ってた。今までずっと独房にいた人達から吸って溜めてたってことだけど…。あれだけの量をなんで使わずに溜めてたんだろう?…とにかく今は独房に行って問題の魔法陣を調べないと)


 守りが手薄になったことで簡単に入ることが出来た白ローブは独房に向かう。




 道中兵士が数名いたが、その時は透明になりやり過ごした白ローブがカイが収監されていた独房に入る。そして藁のベッドをどかす。だが、石のブロックは綺麗にはまっていて取ることが出来ない。どうするか考えていると、独房に近づいてくる魔力の反応を確認する。白ローブは槍を抜き、いつ来ても良いように構える。


「あれ~?まだ魔力感知が出来る人がいたの?王国の魔法技術は衰退したって聞いたんだけど…」


 独房の扉の前に立った者はローブを着ていて骨格が分からなかったが、声からして男だった。いや、どちらかと言えば少年の方が正しかった。


「いや~、こんなにたくさんの魔力が急に現れたから来たけど…。どんどん漏出しちゃってるし。魔法陣が魔力を抑えてたのかな?その魔法陣が壊れたから魔力が漏れてる。もしかして魔法陣壊したのお姉さん?」


 最後の言葉には殺気が含まれていた。白ローブは今まで感じたことが無い尋常じゃないプレッシャーにおびえながらも何とか声を出す。


「私じゃ、ない」

「ふ~ん。そっか。どんな魔法陣か知りたかったけど、壊れたなら消えてるだろうし良いや。はぁ~、眠くなっちゃった。しばらく昼寝でもしてようかな」


 白ローブの答えに満足したのか、先程のプレッシャーを解き少年は独房から離れて行く。解放された白ローブが地面に膝をつき肩で息をする。そんな状況でも少年が何者か聞こうとする。


「あ、あなた何者なの!」

「うーん。考えてなかったな。そうだなぁ…。”主人公を見極め、見守る者”かな?これで良い?」

「な、名前は!」

「聞くこと多いな~。ただで教えたくないなぁ。…じゃあ今度、魔法陣を壊したのと会った時にお姉さんがいたら教えるよ。それまではお預けにしよう!楽しみが出来ていいでしょう?」


 そう言って4歩歩くと、振り返って白ローブを見る。


「あ、敵対する気はないから安心して。僕はただの傍観者だから。物事は外から見てるのが楽しいって言うじゃん?」


 そこまで言うと白ローブがいなくなる時と同じ様に足からだんだんと消えて行き、最後には何も無くなった。

 白ローブはそれに対してただただ見ていることしかできなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る