第15話


 8日目の朝、カイは今日行うCグループの試験の説明と注意事項を試験会場で聞いていた。

 魔法の威力の見るときは5人一斉に行うため、呼ばれたらすぐに定位置に立つこと。魔法を撃って良いのは1回のみ。その時、間違っても人に撃ってはいけないことを説明された。そして模擬戦の説明は模擬戦の前にすると試験官のうちの1人が説明した。

 説明が終わり、生徒達に質問が無いか聞いた後に試験が始まった。


「最初の5人出なさい」


 そう言われて5人が出た。出た5人は緊張していた。


「では1番左の人。撃ってください」

「は、はい!フレイムボール!」


(…っ!?)


 カイは大きな声を出しそうになったのを必死に抑える。


(なんで魔法名を言ったの!?)


 魔法は想像次第で自在に扱うことが出来るが、魔法発動の補助のために魔法名を言うことはある。そして、一般に出回っている魔法は皆に分かるように魔法名をつけているということはカイも知っていた。しかし、ラウラには


「魔法名言うのは、集団で戦うときと最初だけ。それ以外は皆、無詠唱で発動する」


と言われていた。だから、魔法名を言って魔法を発動させているのを見てカイは驚いてしまった。そもそも、カイにとっては無詠唱で魔法を撃つことは普通になっていたのと集団で戦うことが無かった。稀にラウラと協力してモンスターを戦っていたが、お互いが魔力感知者であるためどのタイミングで魔法を撃つか分かっていた。そのため魔法名を言い撃つことがすっぽり抜け落ちていた。


 その後も魔法名を言う人しかいなかったが、1人だけ魔法名を言わないで撃った人がいた。その生徒が撃った魔法はウォーターボールだったため的に当たった瞬間に『パンッ!!』と鳴った。


「そこのあなた、無詠唱に挑むのは良いですが威力が不十分です。今後は威力を上げられるよう努力しなさい」

「はい!」


 周りからはすごいという声が上がったがカイはそう思わなかった。


(今の魔法って言っていいの…?あんな小さい水の塊なんて簡単に叩き落せるよ…?)


 先程のウォーターボールは、さっきまで魔法名を言いながら撃っていた人のと比べたとき1回りは小さかった。もしカイに向かって撃たれていたとしたら、手で払いのけるだけで撃ち落とせるレベルだった。


 カイが唖然としているとついに順番が回ってきた。


「次の5人、前に」


 試験官に言われ、カイと4人が前に出た。


「では、1番左の君から…君は適性魔法の無い生徒か。君は魔法が撃てないだろう。後ろに下がりなさい」

(そうなってるけどさ…。あんな言われ方するとイライラするな…)


 カイはおとなしく下がった。周りの者はカイについてヒソヒソ声で話していた。


「適性魔法が無いって、そんなことあるの?」

「魔法が使えないやつがなんで学園に来てるんだ?」

「もしかして、あいつが寮で噂になってる無能か?」

「上級貴族に楯突いたらしいよ。近くにいるだけで危なそう」


 カイは同年代がどのくらいの実力なのか知るために振り返った。先ほど自分に下がるように言ってきた試験官を見た瞬間カイはなぜ皆に分かるように言ったのか分かった。


(あの試験官笑ってる…。わざとあんなことを…)


 試験官のニヤケ顔にカイは呆れながらもイライラしていた。




 カイが下がった後は、魔法名を言いながら撃つ人しかいなかったため参考にはならず肩を落としていた。

 Cグループ全員の魔法の威力を見ることもでき、今から模擬戦の説明がされるとなった時、体格のいい男が試験会場に入ってきた。


「皆さん聞いてください。模擬戦の説明をする前に紹介します。彼は冒険者です。担当のものが来れなくなったので代役としてお呼びしました。ですが、A・Bグループ同様の評価のつけ方をしますので安心してください。それでは説明を始めます」


 その後の説明は簡単だった。

 ・模擬戦は1対1で行う。

 ・試験官から渡された武器もしくは肉弾戦で試験官である冒険者と戦うこと。(武器は何を使うか言えば試験官が持ってくる)

 ・魔法の使用は可。

 ・どちらかが場外になるか、降参または、気絶した場合終了とする。


 さっそく模擬戦が開始された。

 男は魔法を撃たれたら横に跳び避けて接近し、生徒が武器で襲い掛かってきたら受け流していた。しばらく攻撃を受けた後、最後は男が生徒の首に木剣を添えて、生徒が降参する。この流れが続いた。


 ついにカイの番が来た。先ほどと違い、カイの模擬戦の順番は最後だった。カイが模擬戦をする正方形の舞台に向かっている間、観客席にいる生徒達はカイの話しを先程同様にヒソヒソ声でしていた。


「あ、あいつ適性魔法が無い無能だ」

「あいつはすぐに負けるだろうな」

「あんな奴が戦うなんて時間がもったいないだろ」

「試験だから仕方ないだろ」


 もちろんこの言葉はカイにも聞こえていたが、カイは無視をした。

 カイは試験官から木剣を受け取った。


(ん?これ見た目の割にかなり重たい。さすがに小細工はしないと思ってたけど…。まぁ良いや)


 実際に渡された木剣は細工をされていた。試験官たちが協力して緑の魔法で木の密度を上げてかなり重くしていた。カイは感覚を確かめるために2度木剣を振り舞台に上がった。


「小僧なかなかに大変みたいだな」ニヤニヤ

「…」

「だんまりか。適性魔法が無いと心まで無くなるんだな」


 男は馬鹿にするような笑い上げながらカイに話しかけるが


「よろしくお願いします」


 カイは特に反応することなく、礼をしながら挨拶した。

 冒険者はそれを見てより笑っていたが、試験官に注意され笑うのをやめた。


「(重くてまともに振れないだろうな。せいぜい楽しませてくれよ)では、模擬戦始め!!」


 カイは知らなかった。自分がラウラといた2年間がどれほどすごい物かを。

 今、最強が実力の一片を見せようとしていた…!!




 読んでいただきありがとうございます。

 次回、始めてカイが人前で戦闘します!

 ラウラとの修業でどれほど強くなっているのか…。

 楽しみにしていただけたら嬉しいです。

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