第14話


「私の所に挨拶に来ないとは何様のつもりだ?」

「…どちら様でしょうか?」

「お前!ヒース様を知らないのか!?」


 ヒースと呼ばれる少年の取り巻きが叫ぶ。しかし、カイはこのヒースとか言う男のことは全く知らなかった。


「ヒース様はな!上級貴族で!バーシィ領を治めてるバーシィ家の跡取りだぞ!」

(バーシィ…?あの都市を治めてた上級貴族…。これは面倒になったかも)

「お前はクノス家の無能だろう。なぜ私のところに挨拶に来ない?」


 ヒースが眉間にしわを寄せながら聞いてきた。カイは内心面倒に感じながら出来るだけ笑顔で答えることにした。


「これはこれは、バーシィ家の跡取り様でしたか。これは失礼しました。ですが私はクノス家を追い出された身。もう貴族ではないです。なので、挨拶は不要だと思いますが?」

「貴様!その口の利き方はなんだ!!」


 そう言うと取り巻きの1人がカイの胸倉をつかむ。


「そんな口を聞いていいのかな?お前が適性魔法の無い無能だと言いまわってもいいんだぞ?」

「構いませんよ?」

「…お前、私をバカにしてるのか?」

「バカになどしていませんよ?バーシィ様が私のことを無能だと言わなくても、私のことは知られています。貴族様は情報が回るのが早いですから」

「お前!!ヒース様に無礼だぞ!!」


 胸倉をつかんでいた男が我慢できずにカイに殴りかかった。しかしカイは簡単に拳を受け止めた。


「…これは何ですか?」

「黙れ!!お前が悪いのだ!!」


 取り巻きとカイが睨みあった。一触即発の状況になった。


「下がれ。無能、私に楯突いたこと覚えておけ」


 舌打ちをした後にそう言うとヒースと取り巻きたちは食堂から出ていった。

 カイは食事を再開し、食べ終わったらすぐに部屋に戻った。




 カイが寮に来てから1週間が経った。初日以外は問題が起きることは無かったが、ヒースが何か言ったのかカイの周りには人が近づかなかった。

 今日はクラス分けテストが実施される初日だ。




 テスト初日、筆記試験は問題なく終わった。

 その夜、学年主任の教師(3人)と1学年の担任になる教師(6人)と副学園長、学園長が会議室で話していた。


「今年はどうだろうな。明日の実技試験が楽しみだ!!」

「確かに。いつも以上に優秀な貴族がたくさんいるらしいぞ」


 教師たちは、今年の入学生の書類を見て優秀そうなのがたくさんいると喜んでいた。


「しかし学園長。適性魔法の無い者を入学させてよろしかったのですか?」

「…入学するのは自由だ。あやつから来たのだから仕方あるまい。私も本当は無能なんて入れたくない」


 学園長の言葉が響いた。他の教師たちもその言葉に同意し頷いていた。


「今年のFクラスの教師は誰だ?」

「私です」

「無能はFクラスに入れる。わかったか?」

「…はい」

(なぜ私のクラスにこのような無能を…!!)


 この男は根っからの貴族至上主義で平民のことを嫌っていた。また、月に一度クラスでダンジョンに潜らないといけないため、その時に足手まといがいることは避けたかった。




 Aグループの試験をしている間、試験官たちはのんびり見ていた。


(優秀と言えど学生だったらこの程度か。これから強くなればいいが…)


 そんな感想しか出なかった。「自分より強いものはいない。」と豪語していたヒースでさえ、試験官の目に留まらなかった。その後、3日目・4日目と無事に終わた。Aグループのトーナメント戦の優勝者はヒースだった。


 しかし、5日目に問題が起きた。

 試験官たちもざわついていた。問題の内容は『模擬戦をしていた試験官が生徒相手にに負けた』と言うものだった。模擬戦の試験官は学園の中でも強い人が担当しており、今まで試験官が負けることなど起きなかった。ましてや一方的に負けるなどありえなかった。

 学園側は、生徒が怪我をしたわけではないため試験は続行すると発表した。そして念のためCグループで行う模擬戦の試験官は、今まで担当していたものより人に担当を変えた。

 Bグループのトーナメント戦を優勝したのは少女だった。少女の名はミカ=アルゲーノス。試験官を模擬戦で一方的に倒したのは彼女だった。




「やはりアルゲーノス家の三女が優勝したか。試験官に勝ったもんな」

「担当だった者は災難だったな」


 7日目の夜。また教師たちが集まって試験の感想を言い合っていた。


「彼女がいれば我らの学園は安泰ですな!」

「学園長、彼女が学年代表でいいのでは?」

「彼女は1学年の中で1番強いだろう。それに上級貴族のアルゲーノス家の者ときた、Cグループの結果を待つ必要もない。彼女を今年の1学年の学年代表とする」


 教師たちはミカの話しで持ちきりだった。皆が嬉しそうな顔をしており、今年はこれ以上問題も起きないだろうと安心しきっていた。しかし誰も予想していないだろう。明日の試験の結果を聞き、その顔が困惑で塗り固められていることを。




補足説明

 学園は3年制で、クラスはA~Fまであって、Aクラスに近くなるほど強い人が集まります。

 

 ここまで読んでくださりありがとうございます!

 ミカと言う少女がこれからどう関係していくのか、カイは試験で何をしでかすのか。楽しみにしていただけたら幸いです。

 次回、カイの同世代の実力がわかります!

 カイは同世代の実力を見て…

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