第16話


 試験官により、始まりの合図が出されたが男もカイも動かなかった。お互い動かずにいると、試験官はニヤケた顔を曇らせ早く戦えと言いたそうだった。観客席にいる生徒たちも戦えと声を上げ始めた。


「小僧、来ないならこっちから行くぞ!!」


 そう言い、男はカイに近づき木剣を大きく上げ振り下げた。


(冒険者相手にどこまで戦えるかな)


 カイは模擬戦を続けるため攻撃を受け流した。


「何!?」


 男は自分の木剣がカイに受け流され、舞台に叩き込んでしまったことに驚いた。隙だらけだったが、カイは後ろに跳んだ。男はすぐに剣を構い直した。


「おじさん、全力で来ないと負けるよ」

「小僧!たまたま受け流せただけで調子に乗るなよ!!」


 男は魔力を纏った。男の走り出しの速度が速くなり急接近し、また剣を上から振り下げた。しかしカイは軽々と受け流した。男がまた剣を舞台に叩き込んだ。さっきと違うのは、舞台に大きなくぼみを作ったことだった。男の変化は目に見えて現れ、舞台にくぼみを作ったことに生徒たちは騒ぎ出した。


「おいおいマジかよ!?舞台くぼんだぞ!?あの男、生徒相手にさっきまで手加減してたのか!?」

「冒険者ってやべーな!!あんなこと簡単に出来るなんて!」

「もしかして…。男の人魔力纏ってるんじゃ…」

「ありえないでしょ!!相手は無能だよ?!」


 生徒たちが騒ぎ出すのは当たり前だった。さっきまでは生徒に打ち込ませてから最後に男が木剣を首に添えているだけだった。言うなれば生徒たちは冒険者の男に遊ばれていた。しかし今は違う。

 男が打ち込んで、カイがいなす。この状況が続き、お互いが距離を取って睨み合いをしていた。


(魔力を見ないで相手してるけどそんなに強くないな、この人。それにこの木剣邪魔だな)


 カイは知らなかった。かつて、冒険者のトップに登りつめたラウラに約2年間もの間つけてもらった稽古の内容が常人が出来ることではなかったことに。

 カイも最初は諦めかけた。厳しく苦しい修業に何度も心を折られかけた。しかし、カイは努力を怠らなかった。目標に向かって走ってきた。「冒険者になる」それが彼の原動力だった。そしてこの2年間で新たに目標ができた。「世界を見て回る」そのためにカイは努力した。なにが起きるか分からない世の中で生きていくため、彼は強くなることを望んだ。その結果彼は強くなった。

 しかし、ラウラとしか戦ったことが無く、森の奥にいるモンスターを倒すことが普通になってしまったカイは自分がどのくらい強くなったのか知らなかった。


(なんだこの小僧。ありえねぇ。こっちは魔力を纏ってるんだぞ?!いや向こうも魔力を纏ってるから避けられるのか。それでも俺の剣を簡単にいなしやがる。化け物か)


 カイが内心、木剣の重さに文句を言っている際、男は焦っていた。適性魔法が無いこんな子供に負けたら一生の恥でしかない。どうやって勝つか考えているとカイが先に動いた。

 急に振り返り木剣を投げた。

 カイが投げた先の席の周りは誰もいなかったため、人に当たらなかったが、会場にいる全ての人がカイの奇行を疑問に思っていると、冒険者の男が口を開いた。


「なんのつもりだ小僧。武器を捨てたってことは、降参か?」

「降参なんてしませんよ。気にしなくていいです」


 カイは半身を前に出し構えた。それに続いて男も構えた。

 今度はカイが先に動いた。しかし魔力を纏っていないため、簡単に目で追えてしまう。男はカイに向かって剣を斬り上げた。カイは軽々と避け懐に入った。男は殴られると思い身構えたが、すぐに後ろに跳んだ。男はカイに殴られた。しかし、そのパンチは魔力を纏っているにはあまりにも軽かった。しかし、男は見ていた。確実に自分が殴られているところを。


(なぜだ!?なぜあんなに軽い!?まるで、魔力を纏っていないようにしか…。いや、ありえない!!ならなぜ避けられた!?)


 男が混乱していてもカイは遠慮せずに話し始めた。


「おじさん、今ので分かったでしょ?俺が魔力を纏ってないって」

「黙れ!!そんなわけがあるか!!」


 会場に響き渡る声で男が叫んだ。その叫びを聞き、会場にいるものは声を出せなかった。


「魔力を纏っていない!?なぜ避けられる!!避けるなど出来るはずがない!!」

「出来るよ。おじさんの攻撃を先読みして避けることくらい。だから言ったんだよ。全力で来ないとって」

「黙れえええええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!ストーンバレット!!」


 男は右手を前に出し魔法を放った。会場はざわついた。生徒たちは、自分たち相手に魔法を使っていなかった男が、無能とバカにしている者に魔法を使うことに驚き、試験官たちは、ここまで事が大きくなると思っていなかったため焦っていた。

 試験官たちが焦っているのは、怪我人が出ては自分たちの責任問題になるからだ。かすり傷程度なら問題はないが、魔法を使うとなればそうはいかない。だが、もし自分たちが介入したら怪我をする。そうなることを恐れた。それでも相手が普通の生徒だったら止めただろう。相手をしているのはカイだった。もし怪我をしても無能ならば問題ないと思い止めなかった。

 この混乱の中でカイは口の端を上げ、誰にも聞こえない声で呟いた。


「来た」


 男は魔法を撃ち続けた。しかし当たらないようカイは周りを走り、すべて避けていく。


「なぜ当たらない!?なぜだ!?」

「おじさん。それはただ魔法を撃ってるだけだよ。そんな一直線の攻撃当たるわけがない」

「黙れぇぇぇ!!ストーンキャノン!!」


 ドーン!!


 先ほどよりも大きな岩の塊が舞台に当たり、轟音と砂煙が上がる。魔法が直撃して死人が出たかもしれないことに、生徒達は悲鳴を上げる。試験官たちもこれはさすがにマズイと思ったのか、模擬戦を中止させようとした。

 男は魔力を纏えぬ少年に対しやりすぎてしまったと思い、魔力を纏うのを解く。

 しかし、それが良くなかった。砂煙からカイが飛び出し、男が木剣を持っている方の腕を勢いよく蹴った。男は出てくるとは思わず無防備だったため、痛みで簡単に木剣を落としてしまった。その木剣をカイが拾い男の首元に剣を添えた。


「ウグッ」

「おじさん、戦闘は終わってないんだから魔力を纏うの解いちゃダメだよ(そんなに強くない冒険者を雇ったのかな?)」


 カイはそんなことを考えながら、審判をしている試験官に目配せした。

 試験官は固まっていたが我を取り戻したように、会場に聞こえる声で勝者の名前を叫んだ。


「しょ、勝者。カイ!!」

(さて。あれどうしようかな?)


 カイはたくらんだように笑っていた。




 カイが言う「あれ」とは何なのか…。

 次回に続く…

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