17話
8日目に行われた模擬戦はカイの勝利で終わるかのように思われた。
「すみません。近くにいる人、木剣拾ってもらって良いですか?」
カイが観客席にいる生徒に声をかけた。周りの生徒たちは疑問に思っていたが、投げた木剣の近くにいた生徒の1人が仕方ないという顔で拾いに行った。試験官も最初は唖然としていたが、自分たちがしたことを思い出し焦り始めた。
「そこの君!試験官が...」
「持ってきてもらっていいですか?」
カイは試験官に声を被せるように大きな声を出した。試験官の声が聞こえた生徒はより疑問に思ったが、拾おうとしている生徒には聞こえていなかった。
「っえ!?おっも!?」
拾い上げた生徒は普通の声で呟いたつもりだったが、静かになった会場にはその声が響き渡った。
「おい、重いってどう言うことだ。」ヒソヒソ
「俺がわかるわけないだろ。」ヒソヒソ
「え、戦ってた子、重い木剣で戦ってたってこと?」ヒソヒソ
「そんなわけないじゃん。冒険者に勝ったのだけでもありえないのに、ハンデがあったなんて。」ヒソヒソ
生徒間でいろいろな憶測が飛び交う中、試験官たちは焦り始める。そこに冒険者の男が静寂を訪れさせた。
「そこの君、その木剣を持ってきてくれ。」
「は、はい!」
「待ってください!あれは学園の備品です。我々が回しゅ...。」
「学園が行う入学試験で不正があったなど、あってはならない!ましてや、試験官が行った不正など以ての外!それを確かめるだけだ。お前らがしてないのなら問題ないだろう。」
木剣を持っている生徒が舞台に上がり、冒険者に手渡した。
「...確かにこれは子供が振るうには重いな。他の生徒が模擬戦で使っていたものはもっと軽そうに見えたが...。これは学園が用意した備品と言っていたな。このことは学園に報告させてもらう。」
試験官はこの世の終わりのような顔をしていた。冒険者はカイに振り向き話しかけた。
「少年、こんな不正も見抜けず申し訳なかった。」
「俺も挑発するような真似をしてすみませんでした。」
「...こっちこそバカしてすまなかった。このことは学園に報告するから安心しといてくれ。」
「はい、よろしくお願いします。」
試験官たちは使い物にならなかったため、冒険者の男がその場を仕切り、8日目の試験は終わった。
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「...これは困りましたね。模擬戦で試験官が負けただけならまだしも、生徒が使う木剣を教師が小細工するなんて...。」
「てか勝ったのは適性魔法を持っていない無能だったんだろ?そいつのほうが何か不正でもしてたんじゃないのか?今回試験を担当したのはこの王都でも腕利きの冒険者だったんだろ?」
「いや、どう不正をするって言うんだ?魔力を使うことが出来ないのだから
「...身代わり受験だったとか。」
「そんなのあるわけないわよ。個人の確認は
教師たちは自分たちの思っていることを好き勝手話した。
カイが不正をして冒険者に勝った。カイが賄賂を渡し負けさせるようにした。こう言う者がいたり、冒険者が油断した隙に倒したなど。
教師たちが意見を言い合っていると学園長が口を開いた。
「教師たちが学生の使う武器に小細工をした。このことは変わることのない事実。我々は今後このようなことが起きないようにしなくてはならない。今回Cグループの試験官をしていた教師は解雇とする。また、今後このようなことが起きないように試験官以外の誰かが、試験を行うときに武器の確認を行うこととする。わかったな?」
学園長の言葉によりこの会議は終了した。
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(冒険者と戦ってみたけど予想より強く無かったな。学生が相手だからそこまで強い人を呼んでなかったのかな?)
カイは寮の自室でベッドに寝転がりながら模擬戦のことを思い出していた。
(でも最後のストーンキャノンだけはさすがに当たったら危なかったな。まぁ、落ちる場所がわかってちゃ簡単に避けられるけど...。でも、魔力を感知しなくても結構戦えることも分かったな。これからも感知しなくて良いかな?いや、調子に乗るのは良くないな。しっかり確認してから決めよう。明日からはトーナメント戦か。あんまり期待できなそうだな...。)
夜更かししては明日に響くため、カイは早めに寝ることにした。
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試験9日目。トーナメント戦は相手が違うだけで、模擬戦と同じ内容で行われ、問題なく終了した。カイにとってこれはあまり面白いものではなった。
カイの対戦相手たちは昨日の戦闘を見ていたため、カイが接近する前に魔法を撃って近づけさせないようにするが、生徒たちが撃つ魔法はラウラと違い遅く、カイが避けるには簡単すぎた。カイが剣を振り下げて相手に当たる前に寸止めして、相手は降参する。この流れが基本だった。2人ほど振り下ろした剣を受けた者がいたが、カイは木剣を受け止められると相手に蹴りを入れた。相手はそれにより体制を崩して剣を寸止めされるだけだった。
試験10日目。カイは問題なく勝ち進み決勝まできた。決勝の相手は見たことがある人だった。
「無能、お前がここまで勝ち進むとはな。何か不正をしているに違いない!それを俺様が暴いてやる!」
(あいつは、ヒースとか言うやつの取り巻きだっけな。)
その生徒はカイが寮に来た初日に、食堂でカイの胸倉をつかんで殴りかかろうとした男子生徒だった。
「これより、Cグループ決勝を行う。」
その言葉を聞き、カイは木剣を構えた。相手は魔法が得意なのか、杖を構えた。
「始め!」
「フレイムバレット!!」
カイは相手が撃った魔法を避け、接近しようとしたが、相手が笑っているのを見て接近するのをやめた。
「フレイムサークル!これで逃げられないだろ!」
人が縦に2人程入れそうな炎の柱が舞台にできた。カイがその柱の中に入ることは無かったが、相手はカイが柱の中に入っていると勘違いしていた。
「くらえ!フレイムボール!」
カイは柱に入っているわけではないため、フレイムボールが当たることは無かった。カイは魔法が放たれている間に相手の後ろに回り込んだ。そして、首に木剣を添えた。
「もう終わりです。」
「っ!?まだだ!!俺は負けてない!!」
そう言って杖でカイのことを殴りかかろうとした。カイは避けて木剣を打ち込んだ。相手が木剣を打ち込まれて気絶したため、模擬戦はカイの勝利で終わった。
「勝者、カイ!!」
Cグループのトーナメント戦はカイの優勝となった。
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読んでいただきありがとうございます。
次回、学園生活スタート!!
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