第336話


 玉座に座るその男は、今までカイ達が会ってきた魔人と違いはない。それだと言うのに男からは不気味な、外にあった物質と同じ色の赤黒いオーラの幻影が見えていた。


「ハルマ1人にこれだけの時間を要する。我はお前たちを過大評価していたようだ」


 男から発せられたその一言だけで恐怖で背筋が凍り、動きが止まる。だが、それは良くなかった。

 目を閉じたままの男はゆっくりと片手を上げ始める。その手はとても遅く、誰もが目で追うことのできる速度で感知で魔力も集まっていることも分かっていた。何か攻撃が来る。それが分かっているのにカイ達は動くことができなかった。

 完全にカイ達に向かって手のひらが向けられると、徐々に赤黒い光が集まりだす。最初は粒ほどの大きさだったが、それは徐々に手のひらと同じ大きさまで大きくなる。

 そこまで大きくなるとそれは放たれた。先程までと打って変わって、射出速度は目で追えないほどに速く、すぐにカイ達の近くまで飛んでくる。


「友である我に歯向かうか」

「僕の友人は誰彼構わず傷つける奴じゃなかったよ」


 攻撃を防いだのはRだった。彼の生み出した光の壁によって光弾ははじかれ壁にぶつかり大きな音を立てる。


「しっかりして!しっかり自我を持たないとすぐにやられるよ!ここでラスターを倒すんでしょ!」


 Rのその一言で全員が武器を構え出す。それと同時にアルマが翼を大きく広げ高く飛ぶ。黒色に染まった翼から放たれた羽は寸分狂わずにラスターに向かって吸われるように飛んでいく。だが羽はすべてラスターに当たる寸前で勢いを無くし地面に落ちる。それが合図だったかのようにカイ達が飛び出す。




 蒼い炎を纏ったカイとガントレットを装備したシャリアが挟むようにして左右から攻撃を仕掛け、高速移動を使い玉座の後ろに回ったミカが首めがけて槍を突き刺そうとする。カイとシャリアの攻撃をそれぞれ片手で防ぎミカの槍は首を傾けることで避けると、カイとシャリアのことを力任せに投げつけ、後ろにいるミカに向けては肘で玉座の背もたれを破壊して破片を飛ばすが、ミカは高速移動を使い元の場所に戻っていたため当たることはなかった。


「カイ見よ」


 同じ場所に投げ飛ばされた2人、カイは再度突撃を仕掛けようとしたが、シャリアは待ったをかける。ラウラのガントレットは魔法そのものでなくても、魔力を帯びた物であれば人物関係なく魔力が石に溜まる物になっている。だが石は少しも輝いていない。それはつまり魔力を吸収できなかったことを意味していた。


「あやつの魔力はやはり異様な物のようじゃ」


 接近している者がいなくなったことでラウラが左右上下、すべて囲うように風を刃のようにして飛ばす。それは玉座を破壊することはできたが、ラスターに当たることはなく、羽の時と同じ様に当たる寸前で霧散する。玉座がなくなったことでラスターはその場に立っていたが構えずに直立だった。

 ラウラの攻撃が収まると同時にリオが爪を飛ばしながら接近する。先程まで遠距離による攻撃は当たる前に勢いなどがなくなっていたが、リオの爪に関してラスターは避けた。だがそれは爪の勢いがなくならないからではなかった。

 先程までラスターがいた場所に槍を下に向けた状態のフラージュが下りてきた。着地したフラージュと接近したリオが同時に攻撃を仕掛ける。ある程度の攻撃は防がれるが、たびたびに2人の攻撃が入る。普通ならば切り傷が出来るところだが、ラスターの体に刃が触れても切れることはなかった。


 ミカを加わり3人で攻撃で攻撃していた。攻撃を喰らうことがなければダメージを与えることもできない。そんな状態だったが、後ろから急接近したカイとシャリアが同時に腰めがけて拳を伸ばす。普通の人が喰らえば腰が反対に曲がり一生立てなくなるほどの威力を誇るそれを2人は確実に叩き込んだ。

 2人による攻撃でラスターは地面から足が離れ壁まで飛んでいく。衝突した壁は崩れ瓦礫が音を立ててラスターの上に崩れ落ちていく。


「ふむ。そこそこやるようだな」


 ラスターに向かって落ちて行った瓦礫がより小さな瓦礫、物によっては砂粒にまで小さくなり、勢いよく飛んでいく。自分たちに向けて飛んできたそれを各々が砕いていく。


「ここからは我も本格的に魔力を使って遊んでやろう」

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