第334話


 天井まで伸びた結晶はカイ達の間にも発生したため、ラウラとR以外は1人になる形で分断されてしまった。


「ハルマは転移が使えるからバラバラでいるのは良くない!合流してくれ!」


 Rの声が聞こえたため、全員が合流出来るように走り出す。


 訓練場はハルマが生み出した結晶に壁によって迷宮と化しており、出入口も丁寧に壁で塞がれていた。また訓練場と言うこともあり、不自由なく動けるように広く作られているため合流するのが難しくなっていた。

 その状況で訓練場では破壊音が響いていた。シャリアが壁を破壊しようと音ではなく、ハルマが転移を使いカイ達に一撃入れては転移を繰り返していたのだ。

 攻撃を防いでは走り回っていると、最初から訓練場にあった結晶の向こう側に魔力反応があった。

 声を聞けばミカだと分かったため、カイは足に力を込め一跳びで越えようとする。

 結晶の一番高い所を跳び越えた所で、目の前に魔力の反応を感じたカイは片方の氷の腕を天井に伸ばし、残りの手で防御態勢に入る。

 先程までと同じ様に攻撃を仕掛けて来たハルマだったが、今度は今までと変わって二撃三撃と攻撃を繰り返し仕掛けて来た。その攻撃を氷の腕で防いでいると、カイの視線の先にいたミカの姿が一瞬にしてなくなる。次にミカが現れるのとハルマの苦しそうな声が聞こえるのはほぼ同時だった。


「クソッ!お前も殺してやる!絶対絶対殺す!殺してやる!」


 カイに気を取られていたハルマの背中を高速移動を使ったミカが切りつけたのだ。切られた本人は憎しみだけしか写さなくなったその瞳で天井に足を付けているミカのことを睨み詰めると転移でいなくなる。

 高速移動を反動で天井に引っ付いていたミカだが、天井にずっと居続けられるはずもなく自由落下を始める。落ちるミカの目の前に転移を使ったハルマが現れ切りつけようとする。このまま攻撃を受ければ切りつけられる。防御したとしても後ろに飛ばされる状況だった。ミカは形だけの防御体勢を作るだけで全く焦って無かった。それはハルマの後ろ大きな氷の手が迫っていたからだった。

 剣を振り上げた状態のハルマを掴んだカイは、先程いた場所に向かって投げつけると残った手でミカのことを掴み自分の横まで連れてくる。


「掴んでくれてありがと」

「こっちこそ。彼、感情が高まると視野が狭くなるみたい。魔力感知もほとんど使ってない」

「だね。追えない攻撃で行こう」


 苦痛の表情を浮かべながら体勢を直し始めたハルマに向けて2人が駆け出す。ミカは高速移動を使っているためにカイよりも早くハルマの下に着くことが出来、低く構えた槍を振り上げる。それを上体を逸らす事で避けたハルマに、氷で出来た剣を両手持ち下に構えたカイが落ちてくる。その瞬間に転移を使いカイの真上に移ったハルマは翼を使い上から蹴りつけようとする。

 地面に深々と刺さった氷の剣を手放し横に転がることで避けるカイ。蹴りを当てることが出来なかったことで隙だらけになったハルマに向けて槍を伸ばすがそれは剣ではじかれてしまう。

 跳ね起きたカイが氷から炎に切り替えた腕を伸ばす。その攻撃は見えていたためハルマは少し後ろに飛ぶことで避け切る。その伸びた炎の腕ごと切るようにミカが槍を振り下ろす。炎によって視界が悪くなっていたハルマにはその攻撃が見えておらず、寸前の所で剣で防ぐが、横から来たカイの拳に対処することは出来なかった。


 殴り飛ばされたハルマは再度剣を構えようとした所で、横からの衝撃で遠くに飛ばされる。それをしたのはラウラであり、彼女の後ろにはラウラたち全員がいた。


「痛い……。痛いよ……!痛いって!」


 合流したカイ達を見ること無く、地面に這いつくばったままのハルマは剣を捨て地面を何度も何度も殴りつける。


「痛いっ……!なんで?なんで邪魔するの……?なんでだよぉおお!!!」


 ハルマが叫ぶと同時に魔力がどんどん高まっていく。それは魔人1人の中に入る量ではないほどに大量だった。


「爆発!」


 Rの言葉を聞き前に何か起きると予想は容易にできていたため、遅れること無く全員が水晶に後ろに隠れる。

 次の瞬間、爆発音と水晶を削る音が響く。カイ達が隠れている水晶も削られているようだったが少し離れていたこともあり爆発自体をくらうことは無かった。だが爆発に訓練場が耐えきれず、地面は大きな穴をあけ、天井は吹き飛んだ。すぐにカイ達がいる場所も崩れ始め、一人残らず訓練場の下に落ち始めた。

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