第248話


「お前らも喧嘩は良いが、やりすぎんなよー。マスターに怒られんのは俺なんだからな」


 そう言うとガタイの良い男は階段を上がっていく。


「…あの人って何者なんですか?マスターがって言ってたからギルドマスターでは無いんですよね?」

「それは本人に直接聞きましょう」


 そう言うとリオは大男が昇って行った階段まで

 少し遠くで見ていたこともあり、カイ達は周りの様子を伺う。すると周りのほとんどの冒険者は先程までのことが無かったかのように動き出していた。


「あまり気にしない人もいるんですね」

「武器を取り出すまでは数える程しかないですが、時たま喧嘩は起きるんですよ。気にしていない人達はそのような状況に遭遇した事がある人達ですね。皆さまも気にしなくて大丈夫ですよ」


 そんな話しをしていると階段前に着くことが出来たが、そこでギルド職員に止められた。


「この先は冒険者もしくはギルド職員、マスター達に招待か許可をされた人達しか入れないです。冒険者カードを見せていただいてもよろしいですか?」

「これで入れますよね」


 そう言ってリオが見せたカードは、冒険者カードに似た物だった。普通の冒険者カードは白色にとても近い灰色なのだが、リオが出した完璧な黒色、真っ黒なカードだった。

 その顔を見た瞬間に職員の顔が焦った物になる。


「そ、それは!?ど、どうぞお入りください!!現在マスターは私用で話せないのですが…」

「大丈夫です。私達が話しに来たのは彼ですから」


 リオはカードを再度仕舞うと階段を上がって行ったため、カイ達はその後ろについて行く。




 誰にも案内されないが、リオは迷うことなく入っていく。その姿を見ればここに来るのは数回目で、慣れているようだった。


「ここには何度も来てるんですか?」

「えぇ、主の付き添いでよく来ておりました。実は主は冒険者ギルド創設に携わっていたんですよ」

「なんとなくは思っていました」

「昔はよく主のお供として来ていたのです。その時から作りが変わっていませんから慣れているんです」

「さっきの職員の人見る限りこの頃は来てないんですか?」

「そうですね。魔人のことだけでなく、他にも面倒ごとが出来ましたから。ここ数年、私は来る暇が無かったですね。主はよく来ているのですが」


 ギルド4階に着くと、左右に扉が1つずつ。最後に真ん中に扉があるだけだった。


「あの真ん中の扉がギルドマスターの部屋になっています。今日はあそこに行きません。今日用があるのはこちらの扉ですね」


 リオは右側の扉をノックすると、返事が返ってきたため中に入る。そこには先程殺し合いに発展思想になった喧嘩を止めた大男が椅子に座っていた。


「ん?姐さん!?お久しぶりです」

「その呼び方どうにかならないの…」


 うんざりしたような顔をすると、リオはカイ達に座るように促してから自分の座る。


「姐さんの客人ですか?俺がここで副ギルドマスターだ。今はマスターが違う奴と話してるから、終わるまでいてくれ」

「違う。今日はあんたに会いに来たの?」


 大男は意味が分からないと言いたげの顔をする。


「あんたの方がギルドの案内出来るでしょ。どうせもう仕事終わらせて暇なんでしょ」

「そういうことですか。分かりやした案内しましょう」


 そう言うと副ギルドマスターは椅子から立ちあがると扉を開ける。全員が外に出る。


「じゃあここからは任せたから」

「リオさん…?」

「皆さま申し訳ありません。私はギルドマスターに用がありますので、ここで一時別行動とさせていただきます。そいつはしっかりと案内してくれるはずなのでご安心ください。では」


 そう言うとリオは先程言っていた真ん中の扉に向けて歩き出す。


「姐さんも変わらないな」

「何でリオさんのことを姐さんって言ってるんですか?」

「姐さんと代表のオムニの兄貴は一時期冒険者の実力低下に悩んでいたんですよ。そこで自分達で鍛えることにしたんです。その時にしごかれてから自分は姐さんのことを姐さんって呼んでますね」

「そうなんじゃな。それと、私達に対してはため口で大丈夫じゃ」

「そうか、ならため口でいく。そんじゃ案内してくか。普段入れない所まで行くからな」


 そう言って歩き始めた副ギルドマスターにカイ達はついて行った。




 カイ達と別れたリオは、1人の老人と対峙していた。


「事前に来ると聞いとらんかったから驚いたぞ」

「急に来られて困ることなんてしてないでしょ」


 老人こそが、本部のギルドマスターであり、全てのギルドに唯一強制的な命令を出せる存在だった。


「それに私だって本当は来る気無かった。でもたまたま寄ったんだから聞いてみようと思って」

「あ奴らは大人しくしとる。不気味なくらいにの。調査も進んどる。そろそろ全体を把握できるじゃろ」

「ふーん。把握出来たら屋敷に知らせて。部下に手伝わせるから」

「助かるの。代表の屋敷に勤めとるメイドは強いからの」


 その後、リオ達は街のことについて話し続けた。

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