第247話


 カイ達が中央部を過ぎると、フライヤーは回転し始め西側を向き始めた。


「確か、フラージュ様以外の方は冒険者として活動していた過去があるとか。そのため、興味があると思いまして目的地を西側に設定させていただきました。首都と言うこともあり、他の都市よりも大きくなっていますので見ごたえありますよ」


 特に興味を示したカイとミカは勢いよくリオのことを見る。その反応に満足したリオは微笑み返す。


「丁度あそこらへんに…」


 リオの言葉に反応した2人は食いつく様にリオの刺した方向を見る。隣に座っているシャリアは興味なさそうにしながら横目で外にあるギルドのことを見る。


「貴方程強い人達がいるってことは公国もそれなりに強いと思って良いんですか?」

「そうですね…。昔は今のシャリア様やラウラ様まであと一歩と言った所の者がいましたが、ここ最近はそこまで強い人はいないですね」




 フライヤーを降り、一目散に冒険者ギルドに向かうカイとミカに残りの4人が必死について行くと言う状況になったが、6人は無事にギルドの前にいた。


「ようこそ。こちらが冒険者ギルド総本部になります」

「総本部!?」

「冒険者ギルド公国発」

「そうです。簡単に言いますと、大昔ダンジョンは世界に1個しかありませんでした。その際の調査本部がここだったのです。その後ダンジョンは世界各地で発見され、調査するため支部が出来た。と言うのが実態でございます。今となっては知っているのは私とオムニだけですがね」


 また知らない事実を聞き、驚きながらもカイ達はリオに先導されながら冒険者ギルドに入る。




 入った瞬間、冒険者達の喧騒が大量に耳に入ってくる。

 帝国でも聞きなれたはずの物だったが、カイとミカは自然と心が躍り出す。


「まずは依頼を見てみますか。今まで見たことや聞いたこと無いモンスターの討伐依頼があると思いますよ」


 それを聞いた瞬間、カイとミカは冒険者ギルドに来るとき同様に一目散に依頼が張ってある掲示板まで行く。


 リオの言った通り、帝国や王国では見たこと無いモンスターだったり、知っているモンスターや素材でも少し形や特徴が違うモンスターなどの討伐や捕獲、採取の依頼が来ていた。


 ラウラ達も合流して様々な依頼を見ていると先程までの喧騒ではなく、男の怒声がギル内に響き渡る。 


「お前、俺達を騙しやがったな!」

「騙すなんて人聞き悪いこと言うなよ。俺は教えただけだし、依頼内容見て無かったお前が悪いだろ」


 もちろんそんなやり取りをすれば注目は集まるため、ギルド内の全員が声のした方を見る。カイ達も例外では無かったが、先にギルド職員の方を見ると、ギルド職員は誰かを呼びに行っているようだった。

 怒鳴っている男の後ろには体中に包帯を巻いた者達が2人おり、怒鳴られ胸倉を掴まれている男は未だにジョッキを持っていて余裕そうだった。


「今日に限ってこんなことになるなんて。運が良いと言ったらいいのか、悪いと言ったらいいのか…」


 とても小さな独り言だったが、隣にいるカイ達にはリオの声が聞こえていた。


「運が良い?」

「ついつい言ってしまいましたね。運が悪いのはこのような騒動に間近で見ることになったからです。普段から喧嘩が起きてると思われてしまいますから。一応言っておきますと、普段はこんなこと無いですからね」


 帝国の冒険者ギルドでも時折このような喧嘩が起こると聞いていたためカイ達は気にしていなかった。


「それで、なんで運が良いんですか?」

「普段は喧嘩など起きませんが、やはり起きてしまう物は起きてしまう物です」


 リオがそこまで言う間に喧嘩している人達はヒートアップしてしまい、今にでも殴り合いが起きそうだった。


「てめえ後ろにいる奴が見えねえのか?!てめえのせいなんだよ!治療費!金払えってんだよ!」

「俺はただ良い依頼をおすすめしただけだよ?なんで治療費なんか払わないといけないんだよ。弱い君たちが悪いんでしょ」

「んだと!てんめえ!!!」


 ついに我慢できなくなった怒鳴っている男が殴りかかるが、その拳は簡単に止められ、殴りかかった男は床に抑え込まれてしまった。


「相手を見てから喧嘩売りなよ~。君じゃなわないって」

「…し」

「なになに?何も言い返せなくなっちゃったぁ~?」

「死ねやぁぁああ!!」


 抑え込まれた男は懐からナイフを取り出し、上にいる男の足に深く突き刺す。あまりの痛みにより余裕な態度をしていた男は、刺されたヵ所を抑えながら地面をのたうち回る。


「殺す。殺してやる!」

「そ、それはこっちのセリフだよ!俺に傷をつけたんだよ。君こそ死ぬべきだ!」


 お互いに武器を抜いて構えだした。

 これはマズイと思ってカイとミカは止めに入ろうかとしたが、体が動かなかった。これは精神的な物ではなく、リオがいつも間にか出した糸によって物理的に止められていたのだ。


「ここからです。お2人ともしっかりと見ておいてください」


 ここまで言うとゆうことは大丈夫だと信じて大人しくすると、糸が無くなった。


「なぁにやってんだ!!!!」


 男達が駆け出し武器がぶつかると言った所で、鼓膜をつきやぶるのではないかと疑う程の大声が聞こえてくる。あまりの五月蠅さに男達は立ち止まる。そして、最初に怒鳴っていた男が顔を青くして震えだす。逆に喧嘩を売られた男の方は軽く笑みをこぼしていた。


「真昼間から殺し合いなんかするんじゃねえよ」


 大声を出した男はギルドの2階からゆっくりと下りてくる。アルドレッドに負けない程にガタイの良い男は、顔に数ヵ所出来た切り傷によって怖さが増していた。


「軽い喧嘩なら見逃すが、これはやりすぎだ。まず、お前。治療費はギルドで持つ。後で金額をマスターに言ってこい」

「は、はい!」


 先程まで青くなっていた顔色はいつの間にか元気な物に変わっていた。襲われた方の男はつまらないのか苦虫をつぶした顔に変わっていた。


「だが、こんな騒ぎを起こしたんだ。1ランク降格だそうだ」


 良くなっていたのだが、最後に言い渡された言葉により、その顔をまた青色に変わる。


「次に襲われた方。お前楽しそうだな?ルーキー達つぶしてんじゃねえよ。ルーキーつぶし何回もしてよぉ。他にも裏で色々やってる見てえだな」


 そう言うと、嬉しそうな顔から一転、この世の終わりとでも言うように顔を真っ白にして震えだす。顔を良く見れば目の焦点が合っていなかった。


「近々通達するそうだったが、良かったなぁ早まって。お前はギルドから追放だ。だが安心しろ。寝泊まりするところはちゃーんと用意してる」


 そう言うと、顔色は戻らないが目の焦点が合い始めた。

 大男は仲良さそうに男と肩を組んで逃がさないようにする。


「ほら来た。迎えだ」


 そう言って指さしたほうには兵士達が待機していた。


「今日から豚箱がお前ん家だ。ほい、兵士さん任せた」


 大男は腹を殴り気絶させると、投げるようにして兵士に突き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る