第105話
そこまで明るくない部屋で、大男が1人は簡単に入るほどの大きさがある筒状のガラス管が何個もあり、中には異形の何か液体に浸かって保管されている物もある。そんな部屋で男が試験管を揺らして独り言を言う。
「これもダメだ」
その後ぶつぶつ反省点か何かを言う。
「博士」
誰もいなかったはずの部屋で男を呼ぶ声が聞こえた。考えている最中に話しかけられたことに男はイライラしたのか怒気を含んで返答する。
「何だウォッシュ。私は忙しい。お前には任務を与えたはずだが?」
博士と言われたその男は前にダンジョンでウォッシュと一緒にいたローブ男だった。
イライラしながら男がウォッシュの方を向くと、怒りなんていう物は無くなりウォッシュに焦りながら駆け寄る。
「その傷は何だ!?お前には治癒機能があるはずだ。それに腕はどうした!?」
そう言いながら男はウォッシュを調べる準備を始める。
「前回ダンジョンで会ったカイとカイの仲間達にやられた」
カイの名前を聞き男の腕が一瞬止まる。
「そうか。ともかく今はお前の状態を調べる」
そう言って男は
「腕は取られたか?」
「あぁ」
その後男はウォッシュからカイの仲間達の容姿を聞いた。
調べ終わった後、男はウォッシュから離れ、何も入っていないガラス管の前の機械をいじり上の部分を開ける。
「お前はこの中に入って休め」
「分かった」
言われた通りウォッシュはガラス管に入ろうと脚立に足をかける。
「博士、あいつはヤバイ。気を付けた方が良い」
そう言ってウォッシュはガラス管の中に入った。
男はウォッシュが入ったガラス管に液体を入れて異常がないことを確認した後で椅子に座り先程の言葉の意味を考える。
「『無能のカイ』前回の戦闘で只者ではないと分かっていたが、何者だ?それに学園側は何をしている。このことは次の定例会で報告しなければ」
そう言って男は報告書をまとめ始めた。
カイとミカは溶けた男を調べた後の調査にも参加するつもりだったが、休憩時間が残りわずかだったため、3人に任せて軽食を食べた後で急いで闘技場に向かう。
2人が闘技場に着くころには午後の第1試合が始まっていた。
試合が始まったというのに、観客席からは歓声が1つも上がらず、ただただ皆が信じられないとでも言いたげに静かに見ている。2人はどうしてそのような状況になっているか分からなかったためミカが近くの席にいる観客に聞く。
「あんたら確か参加する生徒だったな…。あんたらもどうせあいつらに完膚なきまでに負ける。今までの生徒と同じでな」
ここまで聞き2人は状況を理解できた。
「魔法は全部相殺されるか一方的に押されるだけだ。あいつらには誰も勝てない」
そう言って観客は肩を落とす。それを聞いてカイ達が試合を見てみると、試合が終わるときだった。勝った帝国の生徒は拍子向けしたみたいな顔をしながら舞台から下りる。それを見て観客達はより落ち込む。
第2、第3と試合をしたが、王国の生徒はどれも瞬殺か魔法を撃っても後出しで相殺か押し切られ負けていた。第3試合に関しては魔法を撃つ前に帝国の生徒に魔法を撃たれ負けていた。
第4試合、ミカが出る試合の番になった。
ミカが入場口から出ると、歓声は上がらず皆が諦めた目をしている。
ミカが入場した後で帝国の生徒が入場してくる。相手は何も持っておらず、カイと同じで無手で戦う生徒のようだ。
審判の開始の合図で相手はミカに接近する。ミカはその場を動かない。相手は魔法を撃ってこないことに疑問に思ったが、それでも接近し続ける。接近出来た相手はミカの腹目掛けて蹴りを入れようとする。蹴りが入る間にミカを見ると、ミカは相手の目を見たまま動かない。相手は蹴りだけで試合が決まると思った瞬間、ミカが槍で蹴りを防いだ。受け止められた相手は驚いて距離を開ける。受け止められると思わなかった相手は離れた場所で落ち着いてから再度近づこうとする。だがすでに目の前にミカがいた。驚いた相手があまり力の入っていない正拳突き出すと、ミカはそれを避けてお返しと言わんばかりに相手の腹目掛けて蹴りを放つ。相手は何とか反応して蹴りを足で防ぐ。相手は反撃はせずに後ろに下がるが上手く立てず地面に膝をつく。先程守るときに使った片足がとても痛むのだ。後で治療して分かったがこの時すでに相手の足の骨にひびが入っていた。
接近された時点で負けが確定したと思った観客達はあーと声をあげていたが、相手が片膝着いた時に動揺の声が漏れる。
「サンダーボール」
ミカはわざわざ詠唱してから魔法を撃つ。相手は転がることで何とか避ける。避けた後でミカに手を向ける。すると手から岩が飛び出してくる。その岩は王国の生徒がストーンキャノンとして撃ってる物よりも大きい物で、ミカに向かって勢いよく飛んでいく。飛んでくる間にミカは槍を中腰で構える。そして岩が槍の間合いに入ると槍を振った。すると岩は空中で砕けた。それを見た観客から歓声が上がる。ミカは相手に向かって走り出す。相手は接近させない様に岩を撃ち続けるが、ミカは全て槍で砕く。接近された相手は抵抗することなく降参した。初めての白星に観客から最大級の感性が上がる。
その試合を皇帝も闘技場内の王国に用意された部屋で護衛1人と見ていた。
「おぉ、あの子強いの~」
「そうだな。まさかあそこまで完膚なきまでに負けるとは…」
そこにいたのは、帝国の一団が来た時にカイとミカの2人と目があった、身長はカイやミカよりも低い少女だった。
「あの子よりも強いとなるとルナ嬢も負けるかもしれないの?」
「ルナが負けるわけない!」
「皇帝、実は親バカ…」
2人で談笑しながら試合を見ていると、2人しかいない部屋で2人以外の声が聞こえた。だが、2人は焦らず、舞台を見続ける。
「皇帝陛下、調査が完了いたしました。こちらが調査報告書でございます」
「うむ、ご苦労だった」
皇帝がそう言うと、少女の席の膝置きの部分に突然袋が出てくる。少女は何事もなかったかのようにその袋を懐に仕舞う。
「先に私が見て王国に情報を売っていた者達を捕まえるとしよう」
「頼んだ。絶対に逃がさないでくれ」
「分かってる。にしても~~~のその魔法は潜入するのに便利でいい。その白いローブもうまく使えてるようじゃの」
そう、この場で報告を行っていたのは白ローブだったのだ。
「でもその魔法を教えたのはあなたですよね?」
「興味本位で教えて良かったと今痛感してる」
少女がドヤ顔になっているのを白ローブは無視し、ここに来た2つ目の目的を話し始める。
「皇帝陛下、前にアルドレッド君とセレスさんの報告にあったローブ男達なのですが、その片割れと先程交戦しました」
そう言った瞬間、皇帝が顔がこわばり、先程までのドヤ顔はどこに行ったのか、少女も眉間にしわを寄せる。
「そこまで強い相手ではなかったですが、前よりも魔力量が上がっていると言われました。このまま強くなっていくと脅威になる可能性があります」
「そうか…。何か足取りはつかめたか?」
「情報は何も手に入れられませんでした。ただ今回の戦闘で相手の腕を回収することが出来ました。相手の体には不可解な所があったの調べ価値はあるかと」
「そうか、その腕は帝国に戻り次第、調べるとしよう」
ここまで言って皇帝は一息はく。
「報告は以上です。私はローブ男について調査してまいります」
そう言うと白ローブの声は聞こえなくなった。
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