第104話


 白ローブは地面に刺さった槍を抜きウォッシュに向ける。


「何でここにいるんですか?」

「私もこれ持ってるんだよ」


 そう言って白ローブは服の下からウォッシュから見えない様にして後ろ手にカイ達が持っている物と同じ発信機を取り出した。


「とりあえず私が攻めるから2人はサポートしてもらって良いかな?」

「分かりました」


 カイがミカの方を見るとミカも頷いたためカイは無手で構える。剣はいまだにウォッシュの腹に刺さっており、ウォッシュの剣はカイが持っているが、サポートするなら小回りが利く方が良いと思ったため刀身が見えなくなるくらいまで地面に深く突き刺した。


「誰だ?それになぜカイが魔法を使った?」

「この人が誰かは教えられない。ただ俺はこれのおかげだよ」


 そう言ってカイは服の下に隠していた発信機を取り出す。


「それが、先程の氷を生み出したのか」


 カイの目論見通りウォッシュは発信機を『氷を生み出す魔法道具マジックアイテム』と勘違いした。


「こっちが教えたんだからさっき聞いたことを教えてくれてもいいよね」

「それは無理だ」


 そう言ってウォッシュは腹に刺さっている剣を抜いた。そして刃先が無いというのに構えた。


「話さないならもう良いよね」


 そう言って白ローブはウォッシュの下に一直線に向かった。ウォッシュはフレイムボールを詠唱しながら撃つと、白ローブはそれを槍の柄で叩き落して進む。ウォッシュがもう一度フレイムボールを撃つが白ローブは同じ様に叩き落す。そして槍のリーチが届く前にウォッシュは剣を構える。するとウォッシュの後ろにミカが現れた。魔法を叩き落されたことで意識が白ローブだけに向いていたためミカの存在に気づいていないウォッシュは背中を切られる。痛みを感じないのか背中を切られたことに臆することなく白ローブの槍を上に弾く。白ローブは弾かれた勢いをそのままに槍を一回転させ下からウォッシュに切りかかる。そんなことを予想していなかったウォッシュは腹から胸にかけて深く切られる。だが先程背中を切られた時と同じ様に痛みを感じた様子も無く、ウォッシュは胴が開いている白ローブを切り付けようと動く。だが白ローブの後ろに隠れていたカイがその手を逸らしながら剣を奪い返し、腹に蹴りを入れる。そして3人は1度後ろに下がる。


「さっきはありがとね、カイ君」

「あなたならさっきの避けること出来たんじゃないですか?」

「それは過剰評価だよ。それよりもどう感じた?」

「俺の攻撃はほとんど効かないですね。剣ももう使えそうにないです」

「高速移動は不意打ちに仕えるけど、そろそろ対策されると思う」

「なら、私とミカで攻めてカイはさっきと同じ様にサポートで良い?ミカは高速移動は使わないで。この後試合あるし私がついて行けない」

「わかりました」

「わかった」


 3人が話している間にウォッシュの腹以外の傷は治っていた。腹は深い傷だったために治せないでいた。


「じゃあ行くよ!」


 白ローブの掛け声で2人が駆け出し、カイがその後ろをついて行く。2人が同時に突きをすると、ウォッシュは白ローブの槍を剣で力任せに無理やり軌道を変え、ミカの槍を腕で受け止めた。だがここでは白ローブの槍を受けるべきだった。ミカは槍に雷を流した。そのためウォッシュは麻痺して動けなくなった。ここで痛みを感じないのが裏目に出た。痛みを感じないためにウォッシュはなぜ体が動かせないのか分からないでいた。動けず、理解が出来ていないウォッシュの喉元に白ローブが槍の刃先を突き付ける。


「君たちの目的を話してくれるかな?」


 静かにゆっくりと言ったため傍から見たら優しく言っているようだったが、その声には「言わなければ殺すぞ」と明確な殺気が込められていた。


「すまん待たせた」


 方がついたところでようやくアルドレッドとセレスがついた。


「そこにいるのと倒れてるのがカイの言ってたローブ男かしら?」

「前に言ってた洗脳が使える方が今槍を突き付けられてる方で、倒れてる方は全く分かりません。ただ仲間だって言うことは確実です」


 そう言われ、アルドレッドとセレスが確認のために先程倒した男の遺体に近づこうとした。


「調べれるわけにはいかない」


 そう言った時ウォッシュの体内の魔力が頭に集中しようと動き出した。その瞬間白ローブが胴体を深く切りつけて止めようとしたが遅かった。首が落ちたはずの男の体がひとりでに動き出し立ち上がった。その間に男の頭は溶けて無くなった。

 アルドレッドとセレスも戦闘体勢に入り武器を構える。だが男は何をするでもなく震えだした。何が起こるか分からない5人は静観する。その間に白ローブとミカが大量に血を流しているウォッシュに槍を向け、カイが頭の無い男とミカ達の間に立つ。男に何が起きても2人を守るために。

 すると男の震えは止まる。止まると男は液体になり服だけを残して無くなる。

 見ていたアルドレッドとセレスはとても驚いたが、カイは先程腕が溶けたのを見ていたので驚かず、ウォッシュを見る。白ローブとミカは先程の出来事を見ておらず、ずっと意識をウォッシュだけに向けていた。

 アルドレッドとセレスが分からないながらもウォッシュに近づこうとした時、ウォッシュがゆっくりとうつ伏せに倒れようとする。皆が血を流しすぎたため倒れたのだと思った。

 ミカと白ローブは動きに集中しているため、アルドレッドとセレスは遠くて顔が見えなかったが、カイにはウォッシュの口元が見えその口元は笑うときと同じ様に上がっていた。


「ミカ!」


 カイに大声で呼ばれたミカは咄嗟に槍を振り、ウォッシュの右腕をたまたま斬り落とすことが出来た。右腕が宙を舞う中ウォッシュはうつ伏せに倒れた。遅れて白ローブもカイが叫んだことに何かあると思いウォッシュに向かって突きを出したが突き刺すことが出来なかった。目の前からウォッシュは一瞬にして消えた。カイ以外が放心状態になったが腕が落ちた音がしたことで元に戻った。カイはただただ悔しい思いをしながらウォッシュの腕を回収した。




「逃がしてごめんね…」

「すぐ近くにいたのに止められなくてごめんなさい…」


 白ローブの顔は見えないが声だけでとても落ち込んでるのが分かってくる。そして同じくらいミカも落ち込んでいた。そんな2人をアルドレッドもセレスもなんて声をかけたらいいか分からず悩んでいるとカイが話し始めた。


「しょうがないです。あれで転移出来るとは誰も思いませんよ。2人のせいではないです。それに収穫はありました」


 そう言ってカイはウォッシュの腕を前に出す。


「ウォッシュは切り落とされた腕を傷口に腕を当てるだけでくっつけてました。魔法でくっつけてた可能性はありますけど、これを調べたら何か分かるかもしれないです」


 そう言ったが、2人は落ち込んだままだ。


「それにあいつは重症です。腹は深くまで剣を突き刺されて、片腕は無いんです。それに俺の場合邪魔するのは2回目です。ここまで邪魔されたんです。向こうも黙ってないと思います。今まで以上に何かしてくると思いますよ。そこを突きましょう」


 まだ落ち込んでいるが、次があるかもしれないことに2人は期待しながら、もし次来たら絶対に失敗しないと心に決めて頷いた。


「セレスさん、この腕凍らせてもらって良いですか。あとこれも持っててください」


 そう言ってカイは腕を渡した後でポケットから手のひらに収まる氷の結晶を取り出した。


「ただの氷に見えるけど…。これは何かしら?」

「実は溶けた男と戦闘中に腕を回収したんですけど、その時も同じように手の中で溶けたんです。その時に残った液体を凍らせて保管しときました」

「ってことは、これと腕を調べりゃあいつらが何者か分かるってことか」


 その後に溶けた男の持ち物を調べたが、特に何も出てこなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る