第103話


 既に次の試合が始まっていたがこの対抗戦でカイとミカを除いた8人の中で一番強いのがメッサーだったため、2人は以降の対抗戦を見ても参考にならないと考えメッサーのいる控室に向かう。

 控室に入るとメッサーは椅子に座り目を瞑り顔は下を向いていた。表情から何を考えているか分からないため、カイ達は何て声をかけたらいいか悩んだ。

 すると、突然口角を上げる。次の瞬間大声で笑い始めた。


「つえー!手も足も出なかった!完敗だ!」


 とても嬉しそうな顔でそう言うため、目の前にいる2人は固まってしまう。


「お、2人ともどうしたんだ?」

「メッサーの様子を見に来たんだけど…」

「そうか、ありがとな!」


 その後は先程の試合について外から見てどうだったかとメッサーが2人に詰め寄った。




 メッサーと話し終わった後メッサーは試合を見に行き、2人は闘技場の外でアルドレッド達と合流していた。

 今回5試合したら昼食休憩を取ることになっている。カイとミカは最後の2試合に出るため午前の試合は見る必要が無かった。午前の試合を見ていたのは相手の平均的な強さとメッサーの試合を見るためだった。だが先程の試合を見て、この後に出る生徒では帝国の生徒の力量を図れないと分かったため、巡回をした後で昼食を取ろうとなった。

 アルドレッド達に巡回することを報告した後で、2人は路地裏を中心に巡回することにした。もしもカイが魔法を使わないと対処できない相手が出た時に目撃者を減らすためだ。仮面をつけてローブを着るでもよかったのだが、帝国の者が来ているために警備も厳しくなっているため、そんな姿でいたらいちいち話しかけられてしまうために諦めた。


 午前の警備が問題無く進み、2人は巡回しながら昼食を食べられる店に向かっていた。

 観戦者が多かったからか闘技場近くの店では食事することが出来なかったため、2人は食事が出来る店を探していた。

 すると闘技場から結構離れたところでカイの魔力感知に反応があった。


「ミカ、路地裏にいる」


 カイに言われて魔力感知を使ったミカはかなり驚いた。


「ま、待って。魔力量が異常だよ!?普通の人じゃ…」

「…前よりも多くなってるけど、この魔力量には覚えがあるよ」


「ローブ男達がいる」




 2人は、以前渡された発信機を作動させた後で、すぐさま路地裏に入り反応のする方に急ぐ。

 ある程度近づいた所で話声が聞こえてきたため、2人は物陰に隠れて盗み聞く。


「コこマデ、くル、必要、アる、デスか?」


 片言で聞きづらいが、無駄に大きな声で話しているため簡単に聞こえてくる。


「闘技場には奴がいる。離れるのが得策」


 2人目の方は普通に話しており、話の内容から上司だということが分かった。


「カイが言ってたローブ男はいる?」

「…いない。でも普通に話してる方がウォッシュかも。前は喋って無かったから喋れないかと思ったんだけど…」


 そこまで話すと、魔法が飛んできたため、2人は物陰から飛び出る。


「お前は…。なぜここにいるカイ」

「俺はお前を知らないけど?」

「これで分かる」


 先程魔法を撃って来たのは普通に喋っている男だった。なぜ知っているのかカイが問いかけると、その男はローブの下から両腕を出した。


「!?なんで腕がある、ウォッシュ」

「簡単な事だ」


 その腕は前回斬りあいをしたときにチラッと見えたウォッシュの腕だった。そして片腕はカイが切り落としたはずなのにあった。そのことに驚きながらも2人は戦闘体勢に入る。今回は無手では無く剣を構える。ミカも続いて槍を構える。相手の方は片方の男は何もしていないが、ウォッシュは剣を抜いた。

 ウォッシュが剣を振り上げたことで、2人はどんな攻撃が来ても反応できるように注視する。するとウォッシュは自分の腕を切り落とした。

 カイとミカは目を見開いて驚いた。だが警戒は緩めなかった。

 ウォッシュは切り落とした腕を拾い傷口と腕を合わせる。すると腕はくっつき、ウォッシュは調子を確認するように手を動かして見せる。


「俺が切り落とした腕もそれで元通り。人間技じゃないと思うけど?」


 カイがそう言うと、すさまじいプレッシャーがもう片方の男から発せられる。


「オれたち、ニんげンだァァァァアアア」


 すると、男がカイ達に向かって突っ込んできた。先程の「人間技じゃない」という発言に怒りを覚えたのか、ただこちらに走って来た。2人は極力情報を集めるのと無力化させるためにその男の腕をすれ違い様に切り落とす。


「イでぇぇええエエエエエ」


 今は無い腕を上に上げて叫ぶ男を見てカイ達は恐怖した。男の傷口からは血が一滴も出てないのだ。

 危険だと感じた2人はウォッシュと男を視界に入れるために後ろに大きく跳ぶ。カイはその時、切り落とした腕を回収した。その腕は肉がほとんど無くやせ細っている腕だった。カイが持ってミカの隣に立つと、持っていた腕が液化し始めた。


「なっ!?」

「腕が溶けてる!?」


 腕は完璧に液体になってしまい、カイの腕をすり抜け地面を濡らす。カイは手に少しだけ残った液体をウォッシュから見えない様に凍らせてポケットの中に入れる。


「あああああああああああああああああ」


 男がそう言うと、消えていた両腕が生えた。その腕は先程の様にやせ細った腕だったが、先程と違い爪がとても伸びていた。

 そしてまた走り出しカイとミカのことをひっかこうとする。


「捕まえるのは絶望的だよ…。どうする?」


 大きく跳んでカイの隣まで来たミカがカイにどうするか聞く。先程から何度も切りつけたり、何度も四肢を切り落としているが、そのたびに男の体は元通りになる。


「…情報は欲しいけどもう倒すしかないと思う。雷打ち込んで。怯んだ隙に倒す」


 カイの作戦を聞いたミカは頷き、走ってきている男に雷を放つ。男がその場で倒れたため、カイは男の首を斬る。さすがに頭を切り落とされてまで行動することは不可能なのか動かなくなる。

 それまでずっと静観していたウォッシュをカイとミカは睨む。


「お前達の目的は何だ」

「モンスターを作って何をしようとしてるの!」


 2人の問いにウォッシュは答えず、下ろしていた剣を構える。聞くことが出来ないと分かった2人も武器をウォッシュに向ける。

 先にカイが飛び出す。カイとウォッシュの剣がぶつかる。すると高速移動を使ったミカがウォッシュの後ろに現れる。ミカはウォッシュの首目掛けて槍を振るが、ウォッシュはそれをしゃがんで避ける。カイはその間に追撃する。ウォッシュは後ろに跳んで避けるが、腹の部分が深く切れており血が噴き出した。前回は魔力を纏っていないカイとウォッシュは互角に戦っていたが、今回は魔力を纏ってもいるしミカもいる。そのためウォッシュは防御か回避しかできなかった。致命傷は避けているがウォッシュには傷が出来て行く。

 再度カイとウォッシュの剣がぶつかると、カイの剣が折れてしまう。前回よりもウォッシュの筋力が上がっていたため威力が跳ね上がっていた。それに反抗するためにカイは剣の限界を超える魔力を纏わせて威力をあげていたのだ。そのため剣が折れてしまった。

 ウォッシュは剣を折った勢いのままカイを斬り殺そうとする。ミカも今は遠くにいたためチャンスだと思ったのだ。だがこれはカイの作戦だった。

 カイは相手いた片手に氷を纏わせウォッシュの剣を受け止める。さすがのウォッシュもこれには驚き動きが止まる。カイは折れた剣先を氷で補いウォッシュの腹に刺す。刺されたことに気づいたウォッシュは腕を振りながら後退する。

 すると、カイの目の前に槍の刃先を下にした状態を落ちて来た人がいた。


「遅くなってごめんね」


 落ちて来たのは白ローブだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る