第106話


 ミカの試合の後小休憩を挟んだ後で今日の最大の目玉の最終試合になる。試合に出るカイは今控室で待機している。今までの対抗戦の時と違い今回は誰もいなかった。すると試合が終わったミカが部屋に入ってくる。


「お疲れ様、完勝だったね」

「この歓声だったら見ないでも分かるよね」


 ミカは苦笑い気味で答える。ここは選手が精神統一しやすいように防音の作りになっているはずなのだが、あまりの歓声の大きさにここまで声が聞こえている。


「高速移動は使ったの?」

「使ってないよ。だいたい近接戦で戦って来たよ」


 その後でミカにどのような試合をしたか聞きたかったが、試合に呼ばれてしまい聞くことが出来なかった。

 呼ばれたカイは入場口の前で待つ。今回は身体検査はされなかった。王国側の大体の人が未だにカイが不正していると思っている。それはカイも知っている。だが今回は不正をしてでも勝ちたいという王国の気持ちから身体検査が行われなかった。


 ミカの時と違い今回は先に帝国の生徒が入場する。その生徒はカイが前のダンジョン探索で会ったルナだ。ルナは舞台に上がり待つ。腰に直剣をさし、カイが入場して来る入場口を真っすぐ見つめる。

 次に審判がカイの名前を呼んだためカイは入場口から出る。先程のミカの試合で活気を取り戻した観客達はカイに向けてブーイングを送る。あまりにブーイングの声が多く、大きかったためルナは驚く。カイはそれを無視しながら進む。舞台に着いたカイにルナが我慢できずに話しかける。


「この状況はどうして?」

「俺は魔法が使えないんだよ」


 ルナはカイが魔法を使っているところを知っているため疑問に思ったが、カイが隠しているということは何かあるのかもしれないと思い、そのことには触れなかった。


「2人とも良いですか」


 審判が入ってきたため、2人とも戦いに意識を集中させる。カイはもちろん無手で、ルナは鞘から直剣を抜く。そして真っすぐカイに向かって構える。


「始め」


 開始の合図でカイは駆け始める。お互い少しだけだが戦っている所を見ているため相手がどのように動くかはある程度分かっている。ルナはカイが近接戦が得意ことを知ったため、近づかせないために水の塊を2つ続けて撃つ。カイはそれを撃つ前から横に跳び避ける。カイもルナもお互いが魔力感知を使えるため真正面から魔法を撃っても無駄なことを分かっている。だからルナはカイが避けた隙に自分の前に黒い塊を1個浮かす。そしてカイが来るのを構えて待つ。

 接近したカイに向かってルナは横に剣を真横に振る。しゃがんで避けたカイに向かってルナは先程周りに浮かせていた黒い塊を撃つ。それが来ると分かったカイは急停止して後ろに跳ぶ。ルナはカイを追うように水の塊を2つ放つ。これを見た観客達は驚く。魔法の同時発動など誰も見たことが無かったからだ。

 2つの水の塊は綺麗にカイに向かって飛んでいく。ルナの作戦では、カイがジャンプして動けない所に闇を撃って麻痺させる予定だったが、まだ2つの魔法を操作するのに慣れていないため水の塊はカイの上半身に向かって飛んでいった。ルナは上手く操作できなかったことに悔しく思いながらも、冷静にカイの体勢を見て闇を撃つ。

 カイは水の塊を上半身を仰け反って避ける予定だったが、バック転して避ける。すると、カイの足があった場所を闇が通過して闇は地面に当たって消える。

 意表を突いたと思ったルナは驚いたが、すぐに次の作戦を考え行動し始める。カイもルナに接近するために動き出す。ルナは時には2発同時に水を放つが、魔力感知を持っている者には不意打ち以外で魔法を当てることは出来ない。ルナは一度魔法を撃つのを止め、カイに向かって接近戦を仕掛ける。

 ルナが剣を斜め上から振り下ろすと、カイはそれを半身になって躱して攻撃する。ルナはそれを空いている腕で受け止めるが魔力を纏っている拳のためかなり痛む。

 ルナはアルドレッドに教えてもらい剣の心得があるがどちらかと言うと魔法の方が得意。ある程度の接近してきた相手を押し返すことしかできない。そのため接近戦に特化しているカイを剣だけで相手するのは厳しかった。

 ルナは痛みを我慢して薙ぎ払いをする。この距離ではしゃがんだり上に跳んで避けることは出来ないためカイは後退する。だがルナが剣を途中で止めて痛む腕を何とか動かし、手のひらををカイに向ける。それまで魔力を腕に集中させてなかったため、今になってカイは魔法が来ることが分かったが、今は空中にいるため動くことが出来ない。着地した瞬間に当たるようになっており、カイはクロスさせた腕で受け止めた多少は威力を弱くすることが出来たが、後ろに吹き飛ばされた。遠くに行ったカイを確認したルナは今度は闇を飛ばすが、カイはそれを避けながらルナに接近する。接近されたルナは再度剣を振るが、カイは今度はしゃがんで避ける。今度は途中で止めることなく振りぬいたルナは、来ているカイの拳を先程と同じ様に片腕で受け止めようとするが、痛みで途中で止まってしまい守ることが出来なかった。

 腹にもろにくらったルナは膝をつく。そしてカイはルナの剣を持っている手を掴み剣をルナの方に向ける。ルナは腕を動かそうとしたが、カイががっちり掴んでおり、動かすことが出来なかったため降参した。


 審判がカイの名前を勝敗を言ったため、カイはルナの手を伸ばしてから引っ張って立たせる。


「立たせてくれてありがとう」

「腕大丈夫?容赦なくやっちゃったけど」

「少し痛いけど回復薬があるから大丈夫。それに回復出来る人をつれて来てるから問題ないよ」


 2人が握手しながら会話している。周りは騒がしいが近いため聞こえる。


「なんで勝ったのに罵声を送ってる人がいるの…」

「貴族には色々目をつけられてるから…」


 今、闘技場は騒がしくなっているが、その大半はカイに向けての罵倒が主な物になっている。「ズルしやがって」「今度はどんな不正をしたんだ」とか「そんなに勝ちたいか」などの物が多い。


「今のを見てズルしてるって言う方がおかしいのに…」


 ルナは呆れた顔でそう言うと、真剣な顔になりカイの目を見る。


「明日は負けないから」

「明日も勝つよ」


 2人はお互いに好戦的な笑みを浮かべて控室に戻った。

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