第232話


 公国に行く準備を終え、カイとミカはラウラとフラージュと共に伝えられていた馬車の所まで行くと、乗る予定だった馬車は木っ端みじんに砕けており、近くてシャリアが1人の兵士を取り押さえていた。


「何じゃ、遅かったのお主ら」

「…遅かったのじゃないですよ。どうなってるんですかこれ」


 壊れた馬車に注意が言っていたが、周りを見てみれば倒れている人が他にも3人おり、その人達は壁に勢いよく当たって気絶したと分かるくらいに壁が陥没していた。だが、その3人は組み伏している兵士の様に甲冑を着ていなかった。外見だけを見るならただの一般人だった。


「鷲が来た時に馬車を壊しておっての。1人やっつけたら蜘蛛の子を散らすように逃げようとしたからこやつ以外気絶させたんじゃ。さて、話してくれるかの?」


 状況を話した後で、シャリアがかける力を強めたのか兵士から苦しそうな声が聞こえる。それでも兵士は話しそうな様子は無かったが、空から羽ばたくような音が聞こえると、兵士の顔が苦しそうな物から嬉しそうな、希望を見つけたような顔に変わる。カイ達も空を見ると、そこには背中の翼を広げた状態のサリーがいた。そしてゆっくりと下りてくる。


「お待たせし…」

「魔人様!私めをお助け下さい!私はあなた様達の命令を完遂しました!望み通り私を魔人に…」


 取り押さえられていた兵士はサリーが話しかけるよりも前に大声で話し始める。シャリアとサリーはアイコンタクトを送り合うとすぐに頷き合う。次の瞬間、シャリアが気絶している者達がいる壁側まで飛んで行く。勢いよく飛んで行ったため、大きな衝撃音が響くが、そんなことにお構いなしにサリーは兵士のことを立たせる。カイ達は警戒態勢に入って少し後ろに退く。


「私は『助けるように』としか命令を受けていないですが、何をしたのですか?」

「私めは命令通りに、愚かな人間が公国に行くのを防ぎました。そして、魔人様がこの愚かな人間達を倒していただければ、もう行く物はいないはずです!」

「そうですか。にしても、兵士として潜入している有能がいたとは」


 サリーの言葉に上機嫌になった兵士はペラペラと話し出す。


「これは魔人様が下さった魔法道具マジックアイテムのおかげでございます!」


 サリーは取り出されたガラスで出来た水晶型の魔法道具マジックアイテムに視線を送った後で兵士のことを見る。


「これによって兵士共の宿所に潜入することが出来ました!その時に甲冑を盗んだのです!案の定警備が厳しく1つしか盗むことが出来ませんでしたが…」


 嬉々として話す男に対して、サリーの視線がどんどんと冷たい物に変わっていく。その視線は敵に向ける物だったのだが、男はサリーが結果に満足していないと思いペラペラ続きを話しだす。


「こ、これ以上盗むことが出来ませんでしたが、この鎧を盗むときに警備を1人手負いにしておきました!致命傷になっていたはずですので、今頃死んでいるはずです!」


 次の瞬間、男は壁まで殴り飛ばされていた。瓦礫と一緒に地面に落ちた男の顔を見ると、頬は大きく腫れており口の端から血が流れだす。そして、当たり所が悪かったのか腕があらぬ方向に曲がっている。

 そんな男と今まで話していたサリーのことを見ると、男が大事そうに抱えていた水晶を右手に持っていた。


「シャリア様、私は今すぐに兵士達の宿舎に向かいます。負傷した兵士の対処をした後に、その足で城にある解析具でこれを調べてきます」

「うむ。優先で頼む」


 吹き飛んでいたシャリアはいつも間にか、カイ達の横に下り、着いた埃をを叩き落していた。そんなシャリアは飛び立とうとしているサリーのことを真剣な目で見つめる。


「サリー、もしもの時は本気で戦って良い。陛下にも伝えてある」

「…分かりました」


 いつもなら返事をするときは視線を合わせているサリーだが、視線を合わせず、そして嫌そうな顔をしながら飛び立つ。カイ達にはその顔が見えなかったが、雰囲気から嫌だと言うのが伝わって来ていた。だが、誰もそのことを言わなかった。


「さて、私達は馬車を回収するとするぞ」

「いや、こいつらは良いんですか?」


 カイは気絶している者達を指さすと、シャリアはつまらなそうに話し始めた。


「こんな奴らはほっといていいじゃろ。それに」


 シャリアがそう言って指さした方からは複数の魔力が近づいており、兵士が大量に来ているのだと気付くことが出来た。


「派手に音を出しまくったんじゃ。呼びにいかんくても来るじゃろ」


 その後、気絶した者達は兵士によって連れていかれた。普通だったらカイ達に話しを聞く所だったが、そこはシャリアがいることで省くことが出来た。そして、国で確保している馬車を使い、カイ達は公国へと向かい始めた。


「今回、魔人側は私達を公国に行かせたくないようじゃからの。途中で横やりが来るかもしれん。用心しておくんじゃ」


 馬車の中で発したシャリアの言葉に、全員が険しい顔で頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る