第233話


 馬車を走らせている中、全員が魔力感知を使って周りを警戒していた。それは御者をしているフラージュも例外では無く、楽しい旅をしているという雰囲気では無かった。


 そんな彼らは現在、聖国内にいた。それは聖国を通り過ぎないと公国に行けないからだ。そして基本的に帝国の者が聖国に入ることは軽い検査を受けるだけで許可されていた。それは逆もしかりで、カイ達が知らないだけで帝都にもたくさんの聖国の人が観光などに来ていた。以前ラクダレスが帝国に簡単に観光に行けたのもこう言う理由があったのだ。


 整えられた道を馬車で通りながら、フラージュ以外で公国に着いた時のことについて話し合う。この話し合いも数回目で確認をするための物となっていた。


「公国に入るには国境を遮るよう設置してある壁を超えないとダメじゃが、今回は書状があるから問題無しじゃの」

「でも、中の様子はほとんど分からないんですよね?移動するにも常に兵士がついて来てたって」

「それは1人だったから。5人もいたら1人1人に監視を付けるのは難しいと思う」

「最悪観光は出来んくても良いじゃろ。目的は魔人と公国がどう繋がっているかじゃからの」


 そう。今回の目的は公国の内部のことではなく、魔人とどう繋がっているかだ。もしも魔人のことを聞いている上で、結託しており、帝国の敵になると言うのであればカイ達は敵対する気持ちでいた。


 そんな確認を行っていると、次に泊る町の方向から黒煙が上がっているのを確認する。その町こそが聖国内最後に寄る町になっていたのだ。

 カイ達が確認するのと同時に馬車の速度が速くなる。


「もっと出せるか?!」

「無理です!これ以上は馬達が途中で倒れちゃいます!」


 馬車の速度に不満があったシャリアだが、フラージュの言葉を聞き、小さく舌打ちをしてから考え出す。


「私とミカで先に町まで向かうぞ。ミカ高速移動を使うんじゃぞ。いいの?」


 ミカは頷くと、袋から槍を取り出して背負う。ラウラもガントレットとグリーヴを装着する。


 次の瞬間2人とも馬車の後ろから飛びだす。そして、目視では確認できない速度で町まで向かう出す。ミカは高速移動があるから分かるが、シャリアがここまで速く動けると思っていなかったカイは驚きを顔に出す。


「あんなに急いで…。フラージュどう?」

「ちょっと落とさないとダメですね。ここまでの長旅がかなり響いてるみたいです」

「あんな速度で走って大丈夫なの…?」


 ラウラがフラージュに馬車の様子を聞いて、戻って来たタイミングでシャリアのことについて聞く。以前戦った時はあんな速度では無かったことから、本気を出させるまでも無かったのか、それとも走った後のデメリットがあるのではと考えたカイは一番知って良そうなラウラに聞くしかなかった。


「本当はダメ。距離がどのくらいか分からないから何とも言えないけど、あれじゃあ、ついても戦えるのは数分だけ。明日は筋肉痛で使い物にならない」


 ラウラが冷静に淡々と言ったため深刻さが薄れてしまったが、これは大きな問題だった。




 所変わってミカと並走しているシャリアは話す余裕もあった。


「ミカ!結構速度を出しとるが大丈夫かー?」

「な、なんでそんな話す余裕があるんですか!?」


 今まで自分と同じ速度で走る人がいなかったため、ミカは酷く驚いたが、足は絶対に止めない。そんなミカに対してシャリアは余裕そうな表情でついてからのことを話しだす。


「もう感知出来とるじゃろ?生きとるのが数人。それと、真ん中にいるのが魔力が多いの。魔人か?」

「魔人にしては少なくないですか?カイと同等かそれ以上ですけど…」

「覚えとらんのか?カイの魔力は元の量から増えておる。それなのにカイと同じだったら異常じゃろ」


 今の今まで忘れていたミカはハッ!とした顔になる。それを見てシャリアは口端を綻ばせる。


「忘れてたんじゃの。まぁ着いたら分かるじゃろ。用心するんじょぞ!」

「はい!」


 こんなに話しながらも2人は走る足を止めることは無かった。




 町に着いた2人は一番近くにいる生存者に話しを聞くために近づく。瓦礫の下に隠れいていたため上から一方的に話しかける。


「そこにいるんじゃろ。大丈夫か」


 フラージュがそう言うと、瓦礫の下から女性の声が返ってくる。


「が、瓦礫をどかさないで!か、隠れないと…」

「この町で何が起きとるんじゃ」

「す、数時間前よ。ひ、人型の角と翼が生えたのが下りてきて、は、破壊し始めたの。わ、私達はとにかく、に、逃げるしかなかったわ。魔法を、う、撃っても避けられるから」


 角と翼だと聞いた瞬間に魔人が来たのだと2人は理解する。そして魔人がいるであろう町の中央に視線を向ける。


「そ、それで、本当にさっきよ。今までとは比較にならない程の音が響いてから静かになったの…。もう怖くて私は出れないわ…」

「…分かった。私達が町の中央を調べてくる。お主はまだ隠れとれ。安全が確認出来たら返ってくる。私はシャリアじゃ」

「お、お願いするわ」


 シャリアとミカは中央に向かって駆け出す。


「確実に魔人の仕業じゃ。これ以上被害を出さないために急ぐぞ」

「分かってます。ただ、今は破壊をしてないのが違和感ですよね」


 ミカが言った通り、現在中央にいる存在はその場から1歩も動かずただただ立ち尽くしている。魔力感知えで調べているため、魔法を飛ばせばわかるはずなのだが、魔法が飛ぶ様子は感じられない。そして、聞いた話しとは真逆に町は静寂に包まれている。もちろん木が燃えるなどが起きているが、それは騒動が起きている時に起きたことだと考えられた。


「ともかく急ぐんじゃ。魔人ならばここで息の根を止めるぞ」




 そうして急いで向かった場所を見て、2人は絶句する。町のど真ん中に巨大なクレーターが出来ており、クレーターの中央には魔人らしき遺体があった。そして、そのクレーターの上、空中に浮いているローブを着た存在がいた。翼などを使い飛んでいるのではなく、正真正銘飛んでいるのだ。

 そのような状況に一瞬飲まれた2人だったが、2人はその浮いている存在をどこかで見たことがあるような、既視感を感じていた。

 いち早く思い出したシャリアは地面を強く蹴り、空中に浮いている存在に殴りかかる。突然のことにミカはついていけなかったが次の瞬間驚きを顔に出す。

 その存在はシャリアの本気の拳を片手で受け止めたのだ。浮くすべのないシャリアはそのまま下に落ちて行く。問題無く着地したシャリアはミカの下に一跳びで戻る。


「お主、学園におったの。侵入者じゃったはずじゃ」


 その言葉でミカは以前、学園でカイが生徒と戦っている時にいた不審者だろ思い出す。


「…へぇ~。思い出し辛くしてたのに。凄いね」


 男はそう言うと、被っていたローブのフードを脱ぎ去る。色白な上に白髪の少年で、なんと言っても特徴的なのはその青色に輝く目だ。その目と視線を合わせると、まるで全てを見透かされているのではないかとミカは身震いする。


「確かに始めましてじゃないし、侵入したのは僕だけど、いきなり殴る?」

「お主は敵か」

「こっちの質問に答えてよー。…そうだなぁ、まだ敵じゃない。未来なんて分からないからね」


 そう言った少年は魔人の遺体の近くに降り立つ。シャリア達はクレーターの淵で警戒したまま動かない。


「まぁ、僕が一度カイを見ておきたいと思ったんだよ。くだらない争いに終止符を打てそうな彼をね。だから呼んだんだ」

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