第318話
カイ達とヴァリス博士の戦闘地から少し離れた場所、魔人の魔力感知でもギリギリ届かない程の距離の地面が盛り上がり、中から丸い白い球体が出てくる。その球体は目に見えてヒビが入っており、刃物で斬られたような大きな傷もあった。
それはゆっくりと、弱々しく透明感の無い白い液体を少しずつ出し始める。その液体は頭から徐々に男、ヴァリス博士の肉体を形成していく。
「魔人を、超えた、私が……。こん、な所で、死ぬ、わけに、は……」
上半身まで何とか作ることが出来たヴァリス博士は這いずりながらカイ達は少しでも遠くに離れようとする。その顔には憎しみや怒りなどの感情は無く、焦りや恐怖と言った感情に支配されていた。そのせいか中々前に進むことが出来ていなかった。
「見つけた」
その声が聞いた途端ヴァリス博士は笑みを浮かべる。このフロアの偽アルマ達はすでにカイ達によって全滅している。そのことはカイ達が自分の所に来たことで分かっていた。そんな状況で普通ならばもっと焦り出す所なはずである。秘策があるならば話しは別だが、既に満身創痍でヴァリス博士は攻撃することもちろん、腕とまだ未完成の背中の羽だけ跳びつくなど不可能だった。
「アルファ、オリジン!どちらでもいい私を助けろ!」
何とか使える魔力感知によってヴァリス博士は勘違いしていた。後ろに立っている2つの反応が自分の部下だと錯覚したのだ。
アルファと呼ばれた者は、カイと戦い既に自害している。だからここに来るはずはない。
呼ばれたもう1人であるオリジンと言えば。
「なぜだ…。なぜ腕が、無い……!」
ヴァリス博士を助ける気など微塵も無く、「見つけた」と呟いたオリジンことアルマは剣を握っており、Rに力を貸してもらいながら横に移動して腕を斬り落とそうとしていた。
自分の部下だと完全に油断していた上に、避ける余力などなかったヴァリス博士の腕は容易に斬り落とされ液体となって行く。その液体を操る程の力も残っていないのか液体は広がったまま動かない。
「オリジン、いやアルマ・ヒュー!貴様ぁあ!」
この場にはアルファかアルマしかいない。そう確信していたヴァリス博士。アルファはいわば操り人形。命令したこと以外はやらない。そこから出される解は簡単だった。
アルマが自分の腕を斬り落とした。そう考えるのは当然で、それが事実だった。
怒声を上げるヴァリス博士を無視して、アルマはRにアイコンタクトを送ると、彼はヴァリスのことを蹴って仰向けにさせる。
そこでようやく攻撃して来たのがアルマでRも協力したことを知り、自分に出せる全力で怒りや憎しみを2人に向ける。
「Rやはり貴様の仕業か!」
「はて?何のことでしょうか?」
「しらばっくれるな!アルマ・ヒューに入れたチップを抜いたな!」
「お嬢が望んだんだから叶えるのが普通でしょ」
その言葉に今まで怒り一色だったヴァリス博士の顔は一瞬で青ざめる。そして震えながらアルマのことを見る。そのアルマは冷たくただただ見下す視線しか送っていなかった。
「ど、どうゆうことだ……。R、お前……」
「ちなみに僕は何も言ってないよ~」
「ここで目覚めた時から記憶はあったよ。生きてた時からのがね」
「なっ!?」
「にしても良くないよねぇ~。まさか……」
Rがヴァリス博士に何か言おうとしたが、アルマが睨みを効かせて黙らせる。そんなアルマは背中の翼を広げる。黒い翼を。
「アンタを長い間ずっと殺したいって、私が殺すんだって決めてた。でもチップが邪魔してきて本当にイライラした。それがなくなった。それがどうゆう意味か分かるよね?」
アルマは黒い羽を1つだけ飛ばすと、ヴァリス博士は刺された場所から徐々に、徐々に灰と化していく。液体になってどうにかしようとするヴァリス博士だったが、そんな小さな抵抗はむなしく灰になって行く。
「……行くよ」
「見なくて良いのかい?」
「見る価値もない、そんな奴。もう死ぬことは確定したんだから」
アルマは少しだけおぼつかない足取りでカイ達のいる方向を目指し始めた。Rはそれを見てから素早くヴァリス博士の元に近づき耳元でささやく。
「貴方が頑張って成功させた『死体に意識を埋め込む実験』、お嬢が唯一の成功体だと思って喜んでたけど、違うんだよな~。本当は僕が
抵抗するのを諦めたヴァリスは、Rの言葉に意味の分からないと言った表情を浮かべる。
「思い当たる節ない?他の実験体には変化なし。何やってもうんともすんとも言わない。お嬢ほどの強靭な肉体と強力で膨大な魔力が無いと実験は成功しないって結論付けたみたいだけど、それって本当かな?……あり得ないよね」
「そ、そんな
「ほら見なよ」
Rが懐から取り出した紙には『
「今まで頑張って来たこと、ぜ~~んぶ無駄だったんだよ」
「あ、あぁ、ああ」
それだけしか言えなくなったヴァリス博士。
ついに全体が灰となり崩れ落ちる。風に少しずつ流されていく灰に冷たい眼差を向けてからRは振り返ってアルマのことを駆け足で追いかけ始めた。
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