無能判定されたけど間違いだった！？～実は最強の氷炎使い～

第62話

　グイが剣を抜いた。

　カイは刀身が見えた瞬間に正気に戻り、急いで魔法道具（マジックアイテム）から剣を取り出しながら魔力を自分と剣に纏わせる。

　グイの振り下ろした剣をカイは無事受け止めることが出来た。ただ、貴族を傷つけたとあってはお尋ね者に確実になるため、剣を鞘に納めたままだ。普通だったら鞘に傷が出来るが、カイの持っている鞘は傷1つ無い。なぜなら、剣に魔力を纏わせたからだ。最悪剣が切られると危惧して魔力を纏わせていたが、結果から見たら要らない心配だった。

「お前何をしている」

　グイはとても不満そうな顔をする。

　声を出したことで自分の正体がばれるかもしれないことを抜きにしても、グイと話したくないカイだったが、ここで何も言わない方が問題になるため、いやいや話し始めた。

「...貴族様、この冒険者たちはあなた様のことを知らなかったのです。許してはいただけませんか？」

　感情がこもっていない冷徹な声でグイに言う。

　それを聞いたグイは先程と変わり、ものすごく嬉しそうな顔になる。

「ローブ男、私に口答えしたな？私と言う崇高な存在に発現をするとは...。」

　グイは一度大きく息を吸う。

「愚かな！！下級の存在が！！私に発言するだと！？お前たちは私が聞いたことだけを答えればいいのだ！私がいるところでは頭を垂れるのが礼儀と言うのにお前たちは知らぬ！！だからこそ、そこのゴミ共を例に教えてやったと言うのに...。お前は分からなかったようだなぁ～。...お前は生きているのも罪だ。慈悲として私がお前に殺してやろう！！！！」

　周りの人間はカイに向けて驚愕や軽蔑など感情を向ける。だが、皆が共通した認識を持っていた。

（あの男は死んだ）

　と。

　そんな中、カイは先程のグイの訳の分からない演説を聞かず、正体がばれなかったことに安心していた。

　グイは剣を再度振り下ろすが、それをカイは簡単に避ける。その後もグイは殺す気で剣を振るが、カイには掠りもしなかった。

　小さい頃はグイにカイがボコボコにされていたが、ラウラに修業をつけてもらい自主練習もしていたカイと、同年代の中では自分よりも強い者はいないと慢心して練習を真面目にせず、この頃はさぼっているグイでは、実力は雲泥の差であり、力関係は昔と反対になっていた。

　そして、時間が経てば経つほど、怒りでグイの剣筋は酷くなっていき、カイが避けやすくなり、より紙一重で避ける。それを見てグイはさらに怒る。完璧に悪循環だった。グイが勝てる、いや剣を当てる可能性は0%だった。

　最初は

「くそっ！！なぜ当たらん！？」

　など言っていたが、今は

「動くんじゃない！！このゴミが！！」

　と大声を上げる。グイの言葉はもう弱者の戯言でしかなかった。

「いつまで避けている！！そうか！私の剣技がすごすぎて攻撃出来ないのか！！やはり弱者か！！」

　カイはただただ（弱者が何か言っているなぁ）としか感じておらず、こんなやつに恐れていたのかと恥ずかしくなっていた。

「弱者が！避けてばかりいるな！！反撃でもしたらどうだ！？」

（言ったね？もういいよね？）

　最初にグイが斬りかかってから10分ほど経ったとき、グイがこんな事を言った。避け続けていることに飽き始めていたカイにとって最高の発言だった。

　そして、カイは次の攻撃に合わせてカウンターを決めようとする。さすがに切るのは問題のため持ち手で底の柄頭で殴ろうと考えた。

　最初と同様にグイは剣を振り下ろそうとする。

　カイも反撃する準備をする。

　グイが剣を振り下ろす。

　振り下ろした瞬間にカイは反撃するのを止め、その場から動かない。

　だが、グイの剣は当たらなかった。

「誰だ！！」

　グイが声を上げる。誰もが何が起きたか分かっていなかった。

「兄上こそ何をしているのですか？」

　その声を上げた人物が2人に近づこうとしたため、道を作るために人々は避けていく。

　声を聴いた瞬間にカイはフードの下で口角を上げており、グイは舌打ちをする。

　人が避けた先にはカイが会いたいと思っていたレイがいた。

「どうして邪魔をしたレイ！！」

　先程カイに当たらなかった攻撃は、レイが剣に魔法を当てたため、軌道がずれカイに当たることが無かった。剣の起動がずれたのを見たため、カイは反撃するのを止めたのだ。

「兄上、ここは通りですよ？大衆の前で死体を作るのですか？」

「こいつは私に剣を向けたのだ！！殺しても問題ない！」

「失礼ですが、兄上？そのものは剣を向けたどころか鞘から抜いてい無いではないですか」

「だ、だがこいつは私に攻撃してきたのだぞ！？」

「少し前から様子をみていましたが、その者が兄上を攻撃したところを見ていませんが？」

「そ、それはお前が見始めるよりも前に...」

「では、傷跡を見せてもらって良いですか？殴られたのならば痣が出来ていると思いますが？」

「っ。」

　レイに論破されてしまいグイは何も言えなくなってしまった。

「わ、私は次期家長だぞ！！家長を疑うのか！？」

「では、私も次期家長争いに参加してもよろしいでしょうか？」

「なっ！？」

　実は次期家長はグイと言うことになっているが、グラードは最初レイに家長を任せようと考えていた。だが、レイが辞退したためグイになった。その際、グラードは「グイにしておくが、気が変わったら言え」と言っていた。そのため、もしもレイが家長になりたいとグラードに言えばレイが家長になる。

　そのことはグイにも伝えられていたためグイは再度何も言えなくなった。

「もうよい！！私は屋敷に戻る！！」

　何も言えなくなったことに恥ずかしくなったのかグイは屋敷に帰っていた。

「皆、騒がせて申し訳なかった」

　グイが声が聞こえない距離まで離れたのを確認したレイは周りの者に謝る。

「すまないが、詳しいことを教えてくれないか？」

「分かりました」

　カイの声を聴いた瞬間にレイの肩がピクリと動いたが、カイは気にせずに何があったか話し始めた。

「そうか、すまない。誰かそこの2人を冒険者ギルドの医務室に運んでくれないだろうか？」

「は、はい！！」

　野次馬の1人が返事をし、数人でグイに痛めつけられた冒険者を医務室まで運ぶ準備をする。

「すまない、これを治療費当ててくれ。余ったらその2人に渡してくれ」

　運び出そうとするタイミングでレイは1人に金を渡す。

「わ、分かりました！！」

　渡された男は手が震えながら受け取り、冒険者の2人を運び始める。

「さて、2人を守ってくれてありがとう。いちおうお忍びと言うことでここに来ているから私は失礼するよ」

　そういうとレイはローブについていたフードを被りカイと同じような見た目になる。

　そしてわざとカイの横を通り離れていく。

　レイとすれ違った瞬間、カイはフードの中で嬉しそうな顔になる。

　それもそのはずだ。小さい声で、カイだけに聞こえるように、すれ違い様にレイに一言

「森で」

　と言われたからだ。