第61話
朝になり、カイはラウラと一緒に朝食をとっていた。
「今日な何するの?」
「レイ兄上がいるはずだから会いに行こうと思ってる。今考えてることとか知ってもらいたい」
「私は家でゆっくりしてるから何かあったら帰って来て」
「分かった。あ、ローブとかある?」
「ある。食べ終わったら持ってくる」
「ありがとう」
食事が終わった後、ラウラからローブを受け取り街に向かう。
バーシィ領は王都に近いわけではないが、たくさんの商人が行き来している都市であるため通りは常に人でごった返している。また、冒険者も少なからずいるため昼間からローブを着ている者がいても怪しいと思われなかった。
(はぁー、人が多い...。路地裏行きたい...)
カイは今人の波にのまれていた。
目的のレイだが、カイが家にいたころはこの時間は家にいたため家に向かっていた。追放されたため入ることは出来ないが、行かないことには何も出来ないため、まずは家に向かっていた。
家に向かうだけだったら路地裏でも通って行けばよかったが、兵士が警備で巡回しているのか路地裏でたくさんの人が動いていることが魔力感知で分かった。ただ単純に路地裏を通っているだけなら問題は無いが、今のカイは顔を隠すため深くまでローブを着ている。そんな者を見たら兵士は黙っていない。問題になるようなことはしていないため通っているだけだと言えば問題なく通れるだろうが、いちいち兵士に捕まっていては時間の無駄になる。それに、ただ通っているだけだと言っても信じてもらえない可能性が高いため路地裏を使って移動することは断念せざるを得なかった。そのため人混み中クノス家に向かっていた。
「あぁ!?俺がよわっちぃって言いてぇのか!?」
「そうだろうが!!なんだよあの動きわよぉ!!あんなの素人でもしねぇわ!!」
居酒屋から男達の怒号が聞こえる。格好からして冒険者だろう。パーティを組んでいるらしい男達は、仲間の動きに文句があったのか酔った勢いで口喧嘩を始めた。
周りの客も通りにいた者も怒号の聞こえたほうを見る。ただ、カイは面倒ごとに絡まれたくないため無視して通り過ぎようとする。
「あー分かった!!そんだけ言うなら表出ろ!!俺が強いこと分からせてよるよ!!」
「てめぇなんかすぐにつぶしてやるよ!」
そう言いながら男達が店の前に出る。
喧嘩することを聞いていた者達は「喧嘩だってよ!!」など「面白そうだぞ!」と言って周りに集まり始める。
たくさんの人が集まろうと一斉に押し寄せたため、カイは簡単に人の波にのまれ男達が見える位置まで来てしまう。
「おいあんた!!あんたも野次馬か??」
たまたま隣にいた露店で商品を売っていそうな風貌の男がカイに話しかける。
「...人に流されてここまで来ました」
「そうか!!俺は野次馬だ!!」
楽しそうに答えるその男にカイはあっけにとられ返す言葉が出てこない。
「まぁ見ていきなって!喧嘩なんてそうそう見ないぞ?」
「いえ、面倒は嫌いなので」
カイはすぐにでもその場を離れたい意思を示すが、男がそれを止める。
「まぁまぁ、あんた冒険者だろ?そんなローブ着てんのは冒険者しかいないからな!!」
「そうですけど」
「あいつらはな、ここらで強いと有名な冒険者なんだよ。それなら見ていくのに意味あるだろ?」
アルドレッドとセレス、それと試験の時に相手した冒険者しか知らないカイにとって現役の冒険者、しかも有名な冒険者の実力をまじかで見れることに魅力を感じた。
「お、見ていくか?」
「有名な冒険者の実力が気になっただけです」
男とそんな話しをしていると冒険者の男達が殴り合い始めた。
周りは「もっとやれー!!」や「そこだ!!」、「何やってるんだよー!」など声を上げる。
カイは男達の動きを静かに観察する。
男達は武器を使わず拳だけで殴り合いをしており、相手が隙を出せばそこを殴り、殴られた相手は負け時と相手を殴り返していた。
(有名な冒険者って言ってもそこまで強くない。酔ってるのを差し引いてもそこまで...)
有名な冒険者と聞いて期待していたが、身近にいるアルドレッドの方が何倍も強いと分かったため落胆していた。カイはすぐにでも離れたかったが、人が多すぎて動くことが出来なかったため、自然に解散するまで待つことにした。その間少しでも吸収することがないかと喧嘩を眺めていた。
「どけ」
喧嘩も中盤になり、これからヒートアップしていくとゆうところで、カイは不意に後ろからそう言われ肩を押され退かされる。勢いよく押されたためとなりの露店の商人風の男にぶつかってしまう。
「っと!大丈夫か?」
「すみません。突然押されたものですから...」
「あぁ、あいつか。何もんだ?」
そのままカイを押した男は前に進んでいく。
(...一番会いたくないやつに会うなんて)
カイはその男のことを嫌でも知っていた。
その男はカイの元家族で兄のグイだった。
「お前たち何してる」
そう言われ男達は止まってグイのことを見る。
「あぁ!?」
「邪魔すんじゃねぇよ!」
グイは冒険者の男達に話しかける。
「お前達、私に口答えするのか?」
「あぁ?」
急に現れたグイに対して野次馬は「誰だ?」や「止めに来たのか?」など、周りの人達と「知ってるか?」と話し始める中、1人が呟く。
「グ、グイ=クノス様!?」
その呟くは瞬く間に拡散され周りが
「姓持ちってことは貴族か!?」
「クノスってあのクノス家か!?」
「貴族様だって!?」
と騒ぎ始める。
ほとんどの人がグイが貴族だということを知らないのは仕方のないことだった。
グイは平民と関わることを嫌っているため、街を視察をすることはほとんど無い。視察をするようにグラードに言われてもほとんどをレイに行かせ自分は行っていなかった。そのため平民に顔を見せることが少なく、名前だけしか知らない者だらけだった。
「平民ごときが口答えするとはな。お前たちは処刑だ」
「なっ!?待ってく」
冒険者たちが弁明するよりも前にグイは2人を殴り飛ばす。
「グハッ!!」
「ウッ!」
「平民ごときが口答えしたことを償え」
その後、グイは一方的に冒険者達を殴る。冒険者達は抵抗も反撃も出来たが、相手が貴族のため何も出来ない。ずっと「貴族様とは思わなかったんです」や「申し訳ございません」と言おうとしているが、言っている途中にグイが殴るため言えなかった。相手がグイ、貴族のため誰も止めることが出来なかった。
「まだまだ足りんぞ」
冒険者達は好き勝手に殴られ満身創痍になっており、もう喋ることも難しくなっていた。
そんな状況を見てその場にいる者、カイも含め恐怖した。
カイ以外の者は貴族に逆らった場合にこうなると再認識した。いくら横暴だとしても「平民は貴族には逆らえない」これが王国の普通だった。
カイだけは違う部分に恐怖していた。冒険者が殴られたとき止めるために動こうとした。だが、グイの顔を見た瞬間に動けなくなった。
(ど、どうして笑ってるの)
最初に冒険者を殴ってからグイは楽しそうに笑っていた。その顔に狂気を感じたカイは動くことが出来なかった。
カイにはどうして笑っているのか分からなかった。だが、それには確かな理由がある。
それはこれがグイの趣味だからだ。
グイは平民を毛嫌いしている。それは関わりたくないほどだった。だが、平民を、人を痛めつけるのは大好きなのだ。それに気づいたのは初めてお忍びで外に出たときだった。
たまたま冒険者にぶつかりいちゃもんとつけられたため、ボコボコにしたのだ。その時にグイは過去に感じたことのない快楽を感じていた。それからお忍びで行く際はわざわざ路地裏を通り、そこにいた人を痛めつけたりしていた。
だが彼は最近は殴る蹴るだけでは満足していなかった。
だから腰に下げている鞘から剣を抜いた。
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