第176話


 模擬戦が終わったため生徒達は演習場に戻るために移動を始める。

 ミカも流れに沿って戻ろうとしたが、忘れ物が無いか最後に確認すると残ったルナと一緒に残った。手伝うために見渡すとローブを着て観戦席に座ったままカイを見続ける人が目に入る。よく分からない雰囲気を持っているその人に軽く不気味に思っているとその者が立ち上がる。

 次の瞬間、その者に向かっていつの間にか現れたシャリアが殴りかかっていた。その者は腕だけ出してシャリアの拳を受け止めるとミカの方に投げる。


「シャリアさん!?」

「下がっておれ!」


 シャリアに大声で言われたためミカは近づくのを止める。よく見るとシャリアの額には汗が浮き出ていた。

 シャリアのことを叫ぶように呼んだが、運が良いことに周りにはミカとシャリアの他にはルナとアディしか居なかったため侵入者がいることを気づかれなかった。だが演習場にいたカイとフラージュは侵入者がいることに気づいた。


「お…な。も…すこ…で、…りょう…と…に。それ…の子…てた…」


 小さすぎて聞こえないその声にシャリアは睨んだまま聞き返す。


「何を言っておる。それにどうやって入ったのじゃ」

「今…げる…。まだ…には…な」


 何を言ってるか分からないでいると、侵入者の足元に魔法陣が現れる。シャリアがトップスピードで殴りかかるがその拳は空を切った。

 突然いなくなったのだ。ミカもシャリアも急いで感知を使う。だが、怪しい魔力を感知することは出来なかった。


「逃げられたの…。転移かの」

「シャリアさん!」

「学園長!」


 侵入者がいなくなったことでミカとルナがシャリアに近づく。ルナの後ろにはアディが居り少し怯えていた。


「3人とも大丈夫じゃったか?」

「大丈夫です。学園長はどうして…?」

「カイに訓練着を渡し忘れての。渡すためと、2人の様子を見に来てたんじゃ」


 そう言ってシャリアはこの前のガントレットを付ける。すると結界に近づいて無理やり手を結界に入れる。その状態で強引に開くと結界が壊れる。


「これで演習場に直に戻れるじゃろ。さっきの侵入者はこっちで確認しておくからの。あと混乱させないように黙ってくれると助かる」


 そう言われて3人は頷くと演習場に飛び下りる。アディはルナに抱えられた状態で下りた。

 シャリアも演習場に急いで下りると、カイとフラージュに近づく。


「さっきのはしっかり説明するから放課後に私の部屋に来てくれ。とにかくフラージュとカイは結界を張り直してくれんかの?」

「…わかりました。カイ君こっちに来てくれる。カイ君の魔力があればすぐに張り直せると思うから」


 カイは返事をしてフラージュの後をついて行って結界を張り直した。




 放課後になったため、カイはミカとルナと一緒に学園長室にいた。アディも来るかとルナが誘ったが、用事があると帰ってしまった。


「あの侵入者だが、調べたが何も出てこんかった。兵士まで動かしたんだがの…」

「学園に張り巡らされている魔法道具マジックアイテムも反応しておりませんでした」


 そんな魔法道具マジックアイテムあるとは知らないカイとミカが不思議そうな顔をすると淡々とサリーが説明しだした。


「この学園には侵入対策に魔法道具マジックアイテムが張り巡らされているのです。城に搭載されている物と同等な物がです。城と違うのは侵入者がいると分かった時にその場で警報が鳴るのではなく、連絡が来るということです」

「そこまでで良いぞ。魔力に反応する様にしてあるからの、魔力が無い者には反応しないんだが、あ奴は目の前で転移したからの。魔力はあるはずじゃ」

「ならなんで…」

「誰かに手引きされた可能性が高いの。まぁこれは私とサリーで調査していくから安心しとれ」

「学園長は侵入者の顔を見ましたか?」

「ん?見れなかったの。ミカとルナは?」

「私も見えなかったです」

「私も見えなかったんですけど、観戦席からずっとカイのことを見てました」

「…狙いはカイかも知れんの」


 シャリアが重々しい口調で言ったことで誰も喋らなくなる。

 すると突然カイが立ち上がる。


「俺が狙いだったら俺の前にいつか出てくると思いますよ。今はそれまで待ちます」

「…そうじゃの。とにかくこちらでも調べておく。私は今日のことを陛下とナキャブに報告して来るとするかの」


 シャリアが城に向かうため解散となった。シャリアが城に行くということでルナは一緒に向かうことになったため、カイとミカは2人きりで帰宅することになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る