第175話


 カイとミカが座るとすぐに1時限目が始まったためすぐには質問されなかったが、授業が終わった瞬間に2人の席に生徒達が群がった。

 生徒達は2人に色々な質問をする中、カイとミカは愛想笑いをしながら答えるとそんな生徒達を止める声が教室に響く。


「皆さん2人が困ってしまってますよ」


 その声が響くと生徒達は分かれ始め、2人までの道を作る。その道をルナが通って近づいてくる。


「ル、ルナ様」

「こんな数で詰め寄ったら怖がらせます。ゆっくり1人ずつ質問しましょう?」

「はい!」


 ほとんどの生徒が返事をする中、1人の男子生徒だけは声を荒げる。


「ルナ様!そいつは王国の犬かもしれないんですよ!何で信じられるんですか!」


 教室の外にまでその怒声が響いていたのか、廊下にいた生徒も中を覗いてくる。


「王国の奴だというのに俺らよりも強かった。明らかに怪しいだろ!王国が強い奴を送り込んで情報を得ようとしてるに違いねぇ!」


 その言葉を聞いて他の生徒達もざわめきだす。そして、疑いの目を向けていなかった生徒まで2人に疑いの眼差しで見て行く。

 するとルナの纏う空気が変わる。


「…2人は大丈夫です。こちらの方でしっかり確認を取っております」

「ですが…!」

「大丈夫です。この2人の身元は皇族の方でしっかり確認をしました」


 ルナがそう言うと2人に向ける視線が緩む。ルナの纏う空気も元に戻る。すると、ルナはある女子生徒を手招きする。呼ばれた女子生徒はアワアワしながらルナに近づく。


「2人とも先程はすみませんでした。彼は仲間思いで良い人なんですが、敵だと認識した人は見下す傾向にあって…。どうか許してあげてください」

「大丈夫。私達もここに来たらこんなことがあるかもって考えてたから。これから信用してもらえるようにすればいいしね!ね?カイ」

「急にこっちに振らないでよ」



 苦笑い気味に答えるカイに対してミカはとても笑顔になる。カイはそれを見た後でルナが連れて来た女子生徒を見る。すると女子生徒は肩をビクッと震わせルナの後ろに隠れる。


「この子はアディ。ほらアディ、大丈夫だから。ね?」

「ア、アディです。よ、よろしくお、お願いします」


 勢いよく頭を下げる様子に一瞬気圧されたが、すぐに自分達も自己紹介をする。

 すると、ルナはカイとミカにだけ聞こえるように近づいて小さな声で言う。


「この子が前に行ってた魔力が無い子」


 ミカは一瞬驚いていたが、カイは微動だにしない。カイはこの教室に入った時点で彼女が魔力を持っていないことに気づいていたのだ。


「それよりも、2人とも2時限目は訓練場だから移動するよ。学園長から訓練着貰ってるでしょ?」

「貰ったよー」

「え?」

「…え?」


 カイとミカの言葉が重なったが、言っていることは真逆だった。

 カイの発言を聞いて3人の視線がカイに集中する中、カイはどうしたらいいかと悩んだが、すぐに立ち上がり教室を出て行こうとする。


「訓練場なら分かるし先行ってるよ」


 そう言って教室を出たカイは急ぎ足で学園長室に向かう。だが学園長室にはサリーしかいなかった。サリーに聞くと、一枚の紙を貰いそこには『そのままで大丈夫じゃろ』と書いてあった。

 カイは諦めて制服のまま訓練場に向かった。




 2時限目が始まる数分前についたカイが訓練場に入ると、全員が似たような黒色の訓練服を着ていたため、カイ1人だけ浮いていた。1人だけ白い制服のためミカ達は簡単に見つけられた。


「先に来てると思ったけど、どこ行ってたの?」

「学園長室…」


 ミカとルナがから笑いをしていると、初老の教師と見知った人が入って来た。その見知った人はフラージュだった。

 教師が集合をかけると生徒全員が集まったため、カイも後ろの方に集まる。


「この授業にサポートしてくれる先生がついたから紹介する」

「フラージュです。来年からは私が教えることになるから覚えておいてね」


 女子が拍手をする中、男子は歓声を上げる。


「私よりも彼女は強いからな。君たちも学ぶことも多いだろう。それに私も歳だ。来年からは彼女が担当になるから覚えておくように。それでは今日は…」


 教師が今日は何をするかを話そうとした所で先程突っかかって来た男子生徒が声を上げる。


「せんせー。俺、カイ君の力量が気になりまーす」

「どうした急に。いつもはそんなこと言わないだろ」

「だって、俺らじゃ歯が立たないルナ様に勝ったんですよ?気になりますよ。なぁ皆」


 他の生徒達は単純に気になっていたのか気になっていたと声を上げる。


「そうか…。カイ君は戦うのは大丈夫かな?それより訓練着はどうした?」

「大丈夫です。訓練着は…(シャリアさんが)忘れました」

「む。忘れ物は良くないぞ。今度からは忘れないように。次からは罰を与えるからな」

「はい。気を付けます」


 カイが頭を下げると教師は小声でフラージュに話しかける。するとフラージュは横に首を振る。


「カイ君も同意してくれたことだしな。お前が戦ってみろ。他の奴らは観戦席に行くぞー」


 少しすると訓練場にはカイと男子生徒とフラージュだけが残された。


「私が審判をさせてもらいますね。過度な攻撃は私が力づくで止めますので」


 フラージュはどちらかと言うとカイのことを見ながらそう言った。

 すると男子生徒は握手を求めてきたため握手をすると不意に引っ張られる。


「やりすぎたらわりぃな。お前が王国の犬かどうか確認させてもらう」


 小声でフラージュに聞こえないようにして言われたこ言葉に対してカイはため息をつくしかなかった。




 男子生徒は剣を使う用で支給された木剣を構える。カイもここは全力でやるべきだと思い手に青い炎を纏う。すると観戦席がざわめきだす。



「お、お前それなんだよ!?」

「俺の魔法だよ。あんまり気にしないで」


 これから戦うということもあり、観戦席の生徒よりも先に冷静になる。


 フラージュが開始の合図を出すと、カイも男子生徒も互いに走り出す。

 男子生徒が走りながら炎を飛ばしてきたため、カイはその炎に向けて青い炎をぶつける。すると炎は飲まれ、青い炎が少し大きくなって男子生徒に向けて飛んでいく。

 男子生徒は驚きながら転げるようにして避ける。カイはそれを見てから走るのを止めてその場で受けの構えを取る。


「何なんだよ!?」


 男子生徒が大声でそう言いながらもカイはその場を動かないまま男子生徒のことを注視し続ける。


「クソッ。オラァ!」


 受けの姿勢でいるカイを見て、頭に血が上った男子生徒はカイに向かって振りかぶる。カイはそれを炎を纏っている腕の部分で受け止める。木剣をはじくと男子生徒は後ろにふらつく。

 するとより頭に血が上ったのか雑に振ってくる。

 カイはそれを受け流し続ける。


「クソォォォオオ!」


 最後の最後にやけくそで、力を振り絞って出してきた突きをカイは刃の部分を握って受け止める。


「離しやがれ!オラァ!」


 開いている手でカイのことを殴りかかるが、カイはそれをいとも簡単に受け止める。

 今度は蹴りを入れようとしてきたが、いち早く感知したカイが逆に蹴りを入れる。


「止め!勝者カイ!」


 これ以上は良くないと思ったフラージュが判定を出す。それを聞いてカイが剣と手を離すと男子生徒がその場に崩れ落ちそうになる。カイは急いで支えてゆっくりと地面に寝かせる。


「お、お前強いな。完敗だ」

「…俺は存在しない罪を負わされたから帝国に亡命してきたんだよ」

「あ?」

「疑ってたでしょ?だから話せる最低限で話そうと思って」

「そうか」


 男子生徒は嬉しそうな顔で笑うと、話すのを止めてその場で寝始める。

 それを見てフラージュは笑顔になりながら、男子生徒のカイに蹴られた部分に光を当てる。

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